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[気鋭のロボット研究者vol.7]「人間のコツ」で、ロボットをもっと器用に【後編】/筑波大学相山康道教授


本記事はrobot digest 2019年7月2日掲載記事を転載しております。

 


 「ロボットの不器用な動きを滑らかにしたい」。相山康道教授は、約30年前の学生時代に抱いた思いからロボットの動作研究を続ける。ロボット研究では近年、制御や機械学習のソフトウエアで動作精度を高める潮流が強いが「まだまだメカの工夫でやれることがある」と実直に取り組む。

 

逆転の発想で位置決め精度向上

関節の角度による移動量の違い。同じだけ角度を動かしても先端部の移動量は上下で差がある

 

 多関節ロボットは、リンク(節)を関節で直列につないだシリアルリンクと呼ばれる構造だ。制御ではなくメカ的な工夫だけで、シリアルリンク機構の位置決め精度を向上させる。この研究に取り組み、姿勢の工夫だけで位置合わせ精度を高められることを、5年前にようやく試験機で実証した。利用したのは産業用ロボットでは避けるべきとされる「特異姿勢」だった。

 特異姿勢とは、アームの先端を少し動かすためにも、関節の角度を大きく変えなければならない姿勢を指す。関節部が大きく動いて周囲とぶつかる恐れがあるため、本来は避けるべき姿勢とされる。関節が伸びきった状態もその一つだ。

 しかし反対に考えると、特異姿勢の時に関節の角度を少し変えたぐらいでは、手先はほとんど動かない。右上の画像では、上下で関節の角度は同じだけ動かしているが、先端の移動量に差がある。相山教授は「移動量が少ないなら、動作精度は高いはず」と気付いた。


人間や動物は特異姿勢をうまく使う


基本機構の動き。実際の速度はこれの8倍の速さで稼働する

 

 そこでまず、特異姿勢を生み出す機構を作った。左の動画のように、関節を一つだけ持つアームの一端をモーターにつなぎ、アーム全体を回転させる。同時に、関節から先だけも反対方向に回す。
 すると関節が伸び切り、アームが一直線になる瞬間ができる。その時だけは関節の回転に対してアーム先端の動きが極端に小さくなり、高い位置決め精度を確保できる。緑色の対象物を真空ハンドで持ち上げたり、置いたりを繰り返してもその位置は安定している。高い位置決め精度を確保できる場所は、アームの長さと回転比率の調整で自在に変えられる。研究では4カ所に設定した。

 


試験機の動きと実際の試験の様子

 

 次に回転運動を往復運動に変えるクランク機構で、先ほどの動きを直線運動に変えた試験機を製作。設定した4カ所で直径(φ)12mmの金属棒をφ12.02mmの穴に挿入する作業をさせた。特異姿勢を使った機構で位置決めし、挿入動作にはエアシリンダーを用いた。
 棒と穴の大きさの差はわずか20μm。4カ所それぞれの位置で30回の試験をしたところ、精度の出しやすい箇所では、1度も失敗しなかった。位置決め精度では±10μmと表せるレベルだ。構造上精度の出しにくい箇所でも、特異姿勢の原理を使うことで25回も成功した。さらに金属棒と穴の隙間を40μmにすると、ほぼ全て成功した。手作りの試験機としては非常に高い精度だ。

 「人や動物は特異姿勢を上手に使い、優れた運動能力を発揮する。例えばゴルフでは、クラブをボールに当てる瞬間に腕が伸び切っているからこそ、ボールの芯をうまく捉えられる。そのようなコツを解析して、うまくメカの工夫に取り入れていきたい」と相山教授は意気込む。

―終わり
(ロボットダイジェスト編集部 西塚将喜)


相山康道(あいやま・やすみち)
筑波大学 システム情報系 知能機能工学域
2011年10月筑波大学システム情報系准教授。15年4月より現職。若い頃に米国のハンバーガー店で店員が商品を商品棚に静かで正確に投げ入れたのを見て、「滑らかで正確な動きをロボットで再現したい」と研究を始めた。前編のジェンガの研究も含め、「遊びの延長のような研究だが、人の役に立てれば」と言う。最近は企業との共同研究が増えた。東京都出身の51歳。