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気鋭のロボット研究者vol.13]柔軟物も確実にグリップ【後編】/関西大学 高橋智一准教授


本記事はrobot digest 2020年7月27日掲載記事を転載しております。

 

関西大学の高橋智一准教授は、物を吸い着ける方法として負圧に着目し、使い勝手のいいグリッパーを研究する。タコの吸盤を模したグリッパーを紹介した前編に続き、後編では極小の弁(マイクロバルブ)を使ったグリッパーを紹介する。軟らかい物でもつかみやすく、落としにくい構造で、医療関係者も関心を寄せる。


物を落とすリスクを低減

 軟らかくて形が定まらない物を吸着式のグリッパーで吸い着ける時、いくら吸着力が高くても吸着部が一つでは落とやすいため、複数の小さな吸着部で同時に吸い着けるグリッパーの方が安心だ。特に、命にかかわる医療や、繊細な材料を扱う半導体などの分野では落とすリスクを限りなくゼロにしなければならない。

 高橋智一准教授は、小さな吸盤を直列に並べたグリッパーを研究する。吸盤一つ一つにマイクロバルブが組み込まれており、もし一つの吸盤が外れても、残りの吸盤は吸着力を維持できる。吸盤がものに触れると弁が開き、吸盤の中の空気を吸い込んで吸着する。吸盤が離れると閉じるので、他の吸盤には影響しない仕組みだ。

 

マイクロバルブの動作

 

つなげて使うことで吸着力を高める

 


開閉に電気も空気も使わない弁

 似たような形状のグリッパーはすでにあるが、吸盤が一つ外れると、同じ列の他の吸盤が吸着力を失うのが課題だった。

 「非常に軽い力で弁が開くので、吸い着く対象物に優しい。必要に応じて吸盤の数を増やすこともでき、弁の開閉に電気や空気を使わないので安全性や信頼性も高い」とメリットを訴える。

 

高橋准教授が開発した、マイクロバルブを使ったグリッパー

 

 高橋准教授は2013年に、マイクロバルブを使ったグリッパーから、タコの吸盤を模したグリッパーの研究に移行したが、昨年医療関係者から関心が寄せられ、再び研究を始めた。
 「手術で臓器を持ち上げておく時に使いたいという相談を受けた」と言う。今後の課題は、部品の点数を減らすこと。耐久性を上げ、コストの削減にもつながる。


――終わり
(ロボットダイジェスト編集部 松川裕希)

 

高橋智一(たかはし・ともかず)
2010年3月東北大学大学院工学研究科ナノメカニクス専攻博士課程後期修了、4月関西大学システム理工学部機械工学科助教。15年准教授。16年第5回ネイチャー・インダストリー・アワード技術開発委員会賞受賞。20年精密工学会論文賞受賞。1982年生まれの37歳。兵庫県出身。