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[気鋭のロボット研究者vol.7]「人間のコツ」で、ロボットをもっと器用に【前編】/筑波大学相山康道教授


本記事はrobot digest 2019年6月3日掲載記事を転載しております。

 


 「ロボットの不器用な動きを滑らかにしたい」。相山康道教授は、約30年前の学生時代に抱いた思いからロボットの動作研究を続ける。最近では積み上げたブロックを倒さずに引き抜くゲーム「ジェンガ」でブロックを引き抜く技術を開発した。しかし「まだまだ人間に及ばない」(相山教授)という。

まずはコツを力学や幾何学モデルで理論化


ブロックの引き抜きで人間と対戦するロボットの32倍速の動画(相山教授提供)

 

 相山康道教授の研究テーマは、人間が物体を器用に操る際の動きのコツをロボットやロボットハンドで実現すること。具体的には、人間が物を操る時にその物にかかる力を力学や幾何学でモデル化し、ロボットで再現する研究が多い。
 数年前から研究室で取り組むのが、ジェンガのブロックの引き抜きだ。

 

戦績はロボットの1勝44敗

モデル化の概要図(相山教授提供)

 

 タワーからブロックを抜くとき、上部の重さでブロックに摩擦力がかかる。無理に抜くと上のブロックがついてきてタワーが倒れるため、摩擦力の小さなブロックを選ぶ必要がある。

 そこで理想のジェンガタワーをモデル化し、摩擦力の見積もりを立てた。ブロックの大きさや重さが均一と想定し、各ブロックにかかる摩擦力を計算する。最初は同じ段であれば摩擦力が等しいが、ゲームが進むとブロックの抜けにより、同じ段でもブロックごとに摩擦力が変わる。当然、抜きやすいブロックも生まれる。それを計算で見極める。

 


ロボットでブロックを引き抜いた瞬間

 

 次に「抜きやすい」と判断した実際のブロックの位置をカメラやレーザー距離計で計測し、ハンドで把握する。ハンドの3軸力覚センサー、手首の6軸力覚センサーで抜こうとしたときの摩擦力を測る。実際のブロックの大きさや重さには個体差があるため、摩擦力はモデルの計算通りではない。理想のモデル値との差異が許容範囲内ならば、引き抜きを始める。許容範囲を超えている場合は、次の候補をつかんで同様に判断する。

 ブロックを15個以上引き抜けるようになったが、人間との戦績は1勝44敗と大きく負け越しており、相山教授はリベンジを誓う。


人は触って判断する

 世の中でジェンガタワーを使ったロボットの研究は多い。ただ、その大半は視覚センサーの技術向上を狙ったもの。「人は“目だけ”では判断しないでしょう」と相山教授は言う。

 「人間も、確かにジェンガをやる時には、全体のバランスやすき間の有無など視覚情報から、引き抜くブロックを考える。でも人間は触った時の手応えで引き抜くか、別な候補を抜くかの最終判断をする。これこそが『人間のコツ』で、これをロボットで実現したかった」と研究の動機を話す。
 

 

――後編へ続く
(ロボットダイジェスト編集部 西塚将喜)


相山康道(あいやま・やすみち)
筑波大学 システム情報系 知能機能工学域
1990年3月東京大学工学部卒。95年3月同大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。95年4月東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻助手。99年4月筑波大学機能工学系講師。2015年4月より現職。研究室には壁掛けカレンダーから気に入った風景写真を切り抜いて飾る東京都出身の51歳。