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RSJ2019学生講演レポート[3I3:屋外作業ロボット]


2019年9月24日(火)

東京大学工学部4年 茶田智来

 

 2019年9月3日(火)から7日(土)にかけて早稲田大学で開催された日本ロボット学会第37回学術講演会のセッションレポートをお届けします.

 

 今回レポートするのは,4日目に開催されたセッション「屋外作業ロボット」です.

 まずは,セッションの内容を簡単に紹介します.

 1件目の発表は,早稲田大学と東京ガスによる「溶剤型接着剤の噴射によりガス管を内部から補修するロボットの開発」です.都市ガスのガス管内部に侵入し,接着剤を噴射して補修を行うロボット.その蛇のような見た目が印象的です.

 2件目は,北海道大学の「国内酪農業ロボット化の現状と期待」です.日本の酪農業の歴史や現状,搾乳ロボットなどのロボットの普及状況などを報告しています.

 3件目は,鹿児島大学の「養鶏衛生管理システムの為の斃死鶏回収ロボットの開発」です.鶏小屋の中で死んだ鶏を自動で発見し,回収するロボットを開発しています.

 4件目は,金沢工大と石川県立大らによる「獣害対策のためのベルト移動型機構」です.獣害から農作物を守るために木と木の間に張られた架線に沿って移動するロボットを試作した研究です.

 5件目は,神戸市立高専と九州工業大学による「万能真空吸着グリッパを用いた壁のぼりロボット―足先受動機構を有する独立型壁のぼりロボット―」です.橋梁などのインフラの検査の自動化を見据え,真空吸盤と足先の受動機構を用いて壁を登るロボットを製作・評価しています.

 6件目は,千葉工業大学と中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋(株)の「6クローラロボットを用いた狭隘空間の調査―高架道路裏面吸音板内部での走行実験―」です.高架道路裏の,人が入れないような狭い空間を検査する目的で6クローラロボットを製作し,LTEによる遠隔操作や6クローラを用いた梁の乗り越えが可能であることを示しています.

 

 7件目は,ヤンマー株式会社の「無人作業トラクターの量産開発~SMART PILOTシリーズロボットトラクター~」です.自動運転で動くトラクターの概要と,無人運転農業機械の未来について述べられました.

 

 ここでは,これら7つの発表の中で私が特に関心をもった「溶剤型接着剤の噴射によりガス管を内部から補修するロボットの開発」と「獣害対策のためのベルト移動型機構」について詳しく紹介します.

 

「溶剤型接着剤の噴射によりガス管を内部から補修するロボットの開発」

 ガス管を補修するロボットの研究はすでに数多く行われています.それらの研究とこの研究の最大の違いは,侵入できる管の径です.先行研究では直径100mm以上の管を対象としていますが,この研究では直径19mmのガス管に挑みます.

 補修用ロボットは噴射用ノズル,接着剤を蓄えるウレタンチューブ,その蓋,圧縮空気を運搬するウレタンチューブ,フレキシブルシャフト,モータから構成されています.

 開発した補修用ロボットを用いてガス管の補修実験を行いました.噴射の回数が1回や2回だと補修の成功率は50%ほどでしたが,回数を3回に増やすと成功率は70%近くまで上昇しました.実用化の日が待ち遠しいですね.

 質疑応答での「ガス管の補修箇所はどのように見つけるのか」という質問に対しては,「圧力計と可動式の密閉用バルーンを用いて空気が漏れている位置を特定する」とのことです.なるほど.

 

「獣害対策のためのベルト移動型機構」

 農作物の獣害は近年増加の傾向にあり,平成29年度の被害額は全国で100億円を超えているそうです.獣害の既存の対策は音・光・臭いを発生させたり電気柵を使ったり,といったものですが,時間がたつと動物はこれらに慣れてしまい,対策の意味をなさなくなってしまうそうです.そんな中,この研究では樹木を支柱として架線を張り,これに沿って移動する移動型の獣害対策ロボットを提案・試作しています.この方法により,起伏の有無に関係なく容易に移動すること,少ない台数で広範囲をカバーすることが期待されます.移動ロボットにはカメラやアームを取り付け,害獣への接触も交えながら農作物を守ります.

 

 この研究で試作されたロボットはゴンドラのような構造をしており,駆動ローラが搭載されています.ロボットを案内するベルトはスポーツ用品として市販されているスラックラインです.試作機が安定して移動できること,移動しながらテンプレートマッチングを行い,害獣に見立てたぬいぐるみを検出・追尾できることが確かめられたそうです.

 このロボットの研究開発は,大学や搬送機器メーカー,NPOによって共同で行われています.今後,これが実用化され,農家の方々の受ける被害が少なくなればいいなと思います.

 

 以上,「屋外作業ロボット」のセッションレポートでした.私はこのほかにもオーガナイズドセッション「遊びとロボット」の前半・後半,「産業用ロボット・自動化システム」の前半・後半,「フレキシブルロボット」のセッションレポートも担当しています.そちらも読んでいただけると嬉しいです.

  

3I3_屋外作業ロボット

3I3-01     溶剤型接着剤の噴射によりガス管を内部から補修するロボットの開発

○柴田 尚樹(早稲田大学),今野 実(東京ガス),浅川 正俊(東京ガス),鈴木 湧也(東京ガス),小野寺 文也(東京ガス),石井 裕之(早稲田大学)

3I3-02     国内酪農業ロボット化の現状と期待

○田中 孝之(北大)

3I3-03     養鶏衛生管理システムの為の斃死鶏回収ロボットの開発

○大西 一成(鹿児島大学大学院理工学研究科),山口 貴洸(鹿児島大学大学院理工学研究科),福元 伸也(鹿児島大学大学院理工学研究科),鹿嶋 雅之(鹿児島大学大学院理工学研究科),小澤 真(鹿児島大学共同獣医学部獣医学科),渡邊 睦(鹿児島大学大学院理工学研究科)

3I3-04     獣害対策のためのベルト移動型機構

○土居 隆宏(金沢工大),永田 健太郎(金沢工大),大井 徹(石川県立大),西田 敏明(みんなの畑の会),北村 敏春((株)シコウ)

3I3-05     万能真空吸着グリッパを用いた壁のぼりロボット

○漁 拓実(神戸高専),清水 俊彦(神戸高専),澤崎 佑基(神戸高専),池本 周平(九工大)

3I3-06     6クローラロボットを用いた狭隘空間の調査

○西村 健志(千葉工大),吉田 智章(千葉工大),松澤 孝明(千葉工大),市川 博康(中日本エンジ名古屋㈱)

3I3-07     無人作業トラクターの量産開発

○松本 圭司(ヤンマー株式会社),西井 康人(ヤンマー株式会社),兒玉 優飛(ヤンマー株式会社)