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第138回 インフラ維持管理とロボット技術(実施報告)


第138回ロボット工学セミナー実施報告書
インフラ維持管理とロボット技術


開催日時 2021年11月12日(金)10:00~16:50
会場 オンライン開催
参加者数 46名
オーガナイザ 工藤 拓(富士通株式会社)
サブオーガナイザ 槇田 諭(福岡工業大学) 中村 哲司(株式会社日立製作所)

 

セミナー概要

近年,高度経済成長期に建設がすすめられた橋梁・トンネルといった各種インフラの老朽化が進み,国交省では2014年から5年に1度の目視点検を義務付けました.それに対して,インフラ維持管理の労働者人口は2000年ころを境に減少の一途をたどっており,維持管理が追い付かないという問題が発生しています.そこでドローン等のロボット技術を用いて従来では時間がかかり困難であった点検作業をデジタル化し,より効率的に維持管理業務を遂行するための試みが,大学・民間企業の各研究機関で執り行われています.本セミナーではそのようなインフラ維持管理分野で活躍するロボット技術についてご講演いただきました.


第1話 ドローン機能を活用した点検ロボット

新日本非破壊検査株式会社 和田 秀樹様

ドローンは,その機動性の良さから計測機器を搭載する等で調査・点検の分野で活用の機会が増えてきました.しかし,その多くは対象物に対して一定の距離から光学式の計測を行うものであり,内部の状態まで計測できるものは多くありません.本講演では新日本非破壊検査㈱が開発した,構造物に接触させ内部状態を非破壊検査技術により調査する点検ロボットの特徴や構造・点検方法等についてご説明頂きました.
ドローン本体については,駆動輪を備えてベルヌーイ効果で壁面に吸着する
方式のものや,ポールで人が支えることでより安定した点検作業を実現可能な方式等についてご説明頂きました.非破壊検査については,ドローンに搭載可能なサイズの打音検査機を用いた音響解析により,コンクリート内部の変状を検出する方法などについてご説明頂きました.


第2話 ドローンでの橋梁点検の最新事例と維持管理のための3Dデータ活用

ルーチェサーチ株式会社 渡辺 豊様

ドローンでの橋梁点検は単純な飛行と異なり,従来の飛行技術が通用しない場面も多くあります.本講演ではドローンを活用した点検の実現に向けて,国土交通省の現場検証に参画し,また経済産業省のロボット開発事業にも採択され,現場経験を積みながら機器・手法の改良を行ってきた経験から,何が難しく,どのような課題があるのか,課題を克服するために開発したドローンの特徴および得られる成果についてご講演をいただきました.
実例として,3次元SLAMを用いた自立飛行ルート設定や障害物回避,また現場での3Dモデル解析やノイズ除去を行う技術についてご説明頂きました.また,橋梁に対してドローンで得られる3D データを利用して,その後の維持管理も見据えた活用例もご紹介頂きました.


第3話 橋梁点検支援ロボットの開発と今後の展開

ジビル調査設計株式会社 毛利 茂則様

平成31年に橋梁やトンネルの点検支援技術性能カタログ(案)が交付され,それまで人が直接近接して行っていた点検のいくつかにおいて,新技術を用いることが可能となり,ジビル調査設計(株)様の橋梁点検支援ロボット+橋梁点検調書作成支援システムもその掲載されています.本講演ではそのような実際に現場に導入された点検ロボットシステムについてご説明頂きました.
点検ロボットシステムについては,橋梁下部にアームを伸ばし,アーム上に設置された各種点検器具を活用して検査を行うものであり,従来の大型車を用いた点検と比較して省スペース・低コスト・安全性を確保しての点検が実現できるとのことでした.また,現場作業中の映像データ等をリアルタイムで事務所に送信し,作業内容を支持するといった運用について,動画等を交えながらご説明頂きました.


第4話 タフなロボット技術を利用したインフラ維持管理・構築

東北大学 大野 和則先生

インフラ維持管理や土木建設現場のロボット化は,持続可能な社会インフラを構築するためには重要な課題です.本講演では,受動回転球殻を有するドローンを利用した高所狭隘空間の橋梁点検や,簡易後付けセンサボックスや運転ロボットを利用した大型6輪ダンプの土砂運搬の自動化について紹介していただきました.
受動回転球殻ドローンについては,ドローン全周を囲うフレームによって壁面に衝突しても飛行が可能な構造によって人間が進入困難な狭所に飛行し,近接画像撮影や打音検査が可能なドローンについてご説明頂きました.また土砂運搬ロボットについては,既存の重機に後付け可能な自動運転システムと,ドローンによる地図生成を組み合わせたシステムによる,日々変化する地形に対応した建設現場での大型ダンプの行動生成についてをご説明頂きました.


第5話 橋梁と配管の点検維持管理用ロボットの開発

白山工業(株) 広瀬 茂男先生

橋梁と配管内のようなアクセス性の良くないインフラ施設の点検,維持管理に関しては,補修作業までも行うことが要請される場合は,ドローンより確実な足場を作れるシステムが望まれる場合があります.そのようなシステムの一例として,4本のワイヤで支えられるBridgeview方式についてご紹介いただきました.また配管系の点検に関しては,T分岐やエルボを有し,管径が異なる配管内を自在に移動可能なロボットして,Thesbot, Tesbot Dualの2種類のタイプの配管内移動ロボットについてのご説明を頂きました.また最後に,極限的な環境で確実に目的を達成するロボットの設計はいかに遂行すべきかの方法論について,講演者が現在主として進めている福島第一の廃炉作業用ロボットの開発・先生ご自身の過去の経験・最近のコロナ対策の一環で開発したマスク等の例も交えながらご講演頂きました.


まとめ

 本セミナーでは,インフラ維持管理にかかわるロボット技術について,企業および大学の先生方にご講演頂きました.講演の中ではやはりドローンを用いた近接撮影による点検が多い講演となりましたが,それだけではなくアームを用いた方式やワイヤを用いた方式などについてもご説明があったのは興味深いものでした.また,各講演者の皆様から大学での学術的なロボット技術の研究と,企業におけるロボットの運用との両面からのご説明を頂けたことで,ロボット本体の機能・性能の説明だけではなくそれを用いた実際の点検業務における課題や効果について考察することができ,ロボット技術を実社会で応用していく上での知見を共有できる場になったのではないかと思います.
今回もオンライン形式での開催でしたが,講演者の皆様への事前チェックによるウェビナーツールの使用方法確認やネットワーク速度の問題の解消といったことが円滑にセミナーを進めるために必須であると実感いたしました.一時的に講演中の講演者以外の方のマイクがONになってしまう,音声が聞こえないといったトラブルがあったものの,これまでのオンライン開催でのノウハウの蓄積や,講演者ご自身もオンラインによる作業の機会が増えていることによって,かなり円滑に講演を進められるようになっているのではないかと思います.課題としては,質疑応答において時間帯によって質問が集中しがちな講演とまばらになってしまう講演があり,多いときは質問を捌き切るのが大変な一方,質問が少ない時間帯では手持ち無沙汰になってしまうことがありました.質問が少ない場合に備えてオーガナイザも事前に質問を考え,また一つの質問から講演者様との応答を通して話を広げられるようにしておくとよいかと思います.


謝辞

まずはご多忙な中予定を調整いただき,ご講演を快諾頂いた講演者の皆様に感謝申し上げます.また,セミナーにご参加いただき,質疑・アンケートにご協力いただきました参加者の皆様にも御礼申し上げます.本セミナーの企画にあたりまして,RSJ事業企画委員会の皆様,前委員長の新妻様,委員長の島様には企画案のサポート等頂き,お世話になりました.サブオーガナイザを務めていただいた槇田様,中村様におかれましては,お忙しい中当日の参加者の名簿管理等ご協力いただきました.またRSJ事務局の皆様,特に村上様にはセミナー開催に至るまでの講演者の皆様への事務手続きのご連絡等において大変お世話になりました.ご協力頂いた関係者の皆様に心より感謝申し上げます.