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生物の多脚歩行と多脚歩行ロボットの制御技術(実施報告)


日本ロボット学会  第127回 ロボット工学セミナー

生物の多脚歩行と多脚歩行ロボットの制御技術

日 時:2020年7月6日(月)9:30~16:20

会 場:オンライン開催

参加者数:82名

オーガナイザー:一藁 秀行(株式会社日立製作所)

サブオーガナイザー:沖 賢太朗(オムロン株式会社)

 

1. セミナー概要

 近年,世界中で多脚ロボットの研究開発が進められ,様々なインパクトのある動画が公開され一般にも注目を浴びています。その潜在的な不整地踏破性の高さから,災害現場の調査や市街地での宅配作業などへの応用が期待されています。しかし,多脚ロボットは多自由度制御が必要とされること,多くの場合歩行する環境が未知であることから,制御技術において多くの課題があります。本セミナーでは,多脚ロボットの様々な制御技術とその難しさや,バイオメカニクスからみた生物の多脚歩行について,講師の方々にご講演いただきました。

 本セミナーは,ビジネス視点ではなく,主に学術的な視点での内容を中心とし,学生や研究者を対象としました。多脚ロボットに関する研究の初学者の方も対象とするため,基礎的な内容から最新の研究内容を含めてご講演いただきました。さらに,多脚ロボットと生物との親和性から,ロボットとは別の分野から講師を招き,陸生哺乳類の歩行についても講演をいただきました。

 なお,本セミナーではCOVID-19の流行に伴い,聴講者,講師の安全を重視し,講師,聴講者も含めて,全員遠隔から配信および受講する形式としました(図1)。

 

2. セミナー報告

2.1 第1話 多脚ロボットの制御方法

東北大学 安部 祐一 先生

 本講演では,多脚ロボットの基礎知識や,これまでにどのような制御方法が提案されてきたかなど,初学者のためになる内容をご紹介いただきました。さらに,安部先生が提案している,脚の波運動に着目した歩容生成の研究についてご紹介いただき,多脚ロボットの研究を行っている方にも興味深い内容だったと思います。各脚の接地情報のみから,脚の動かすタイミングの調整で,自律分散的に波のような脚の動きを生成し転ばずに歩けることは,センサがチープでよく,単純な制御でよいという点で実用的にも意義のある研究でした。

 

2.2 第2話 ロボットと数理から紐解く動物の生き生きとした振る舞いに内在する制御原理

東北大学 石黒 章夫 先生

 本講演では,多脚動物が示す巧みな脚間協調に内在する自律分散制御のからくりの抽出に関する事例研究をご紹介いただきました。さらに,事例研究の成果から得られた,動物の適応的運動機能に内在する制御原理に関する新しい仮説や最近の展開についてもご紹介いただきました。特に,簡単な制御則を用いることで,脚ロボットで生物の歩行の再現とロバストな歩行制御が可能な点が興味深い内容でした。また,少ない計算資源で変化する環境でのロボットの動作を可能とさせるという観点は,ロボットの社会実装においても重要であると感じました。

 

2.3 第3話 自律的な脚ロボットの歩容選択・制御

奈良先端科学技術大学院大学 小林 泰介 先生

 本講演では,脚ロボットが計測可能な情報を基に各歩容の価値を定義し,その比較によって最適な歩容を自律的に選択する研究(マルチロコモーション)についてご紹介いただきました。また,強化学習を用いた脚ロボットの歩容生成についての概説と,最新の動向を紹介いただきました。ロボットの応用先として検討されている,プラントや災害現場では,単一の移動方法では踏破が難しいことがあります。そういった環境で,マルチロコモーションは有用であり,社会実装の観点でも興味深い内容でした。

 

2.4  第4話 空気圧人工筋脚ロボットの設計と制御

大阪大学 細田 耕 先生

 本講演では,脚ロボットの設計思想や方法,さらに細田先生が研究されている空気圧人工筋による脚ロボットの設計や,それを用いたロコモーションの実現についてご紹介いただきました。特に,複雑な制御の問題を動力学設計にすりかえるという観点は非常に興味深いものでした。生物の構造を模倣することや弾性設計の工夫によっては,センサレスでも歩行可能なロボットを実現できるとのことでした。近年,注目されているソフトロボットについての話題も含んでおり,幅広い方に興味深い内容だったと思います。

 

2.5  第5話 陸棲哺乳類のロコモーションの多様性と体,その使い方

山口大学 和田 直己 先生

 本講演では,陸棲哺乳類の構造の違いや,歩行や走行,跳躍における四肢,体軸の利用の仕方について,動画を交えてご紹介いただきました。体の大きさ・重さ,身体の構造(接地部,脚),歩行の速さなどの複雑な違いによって,脚の動かし方や体の使い方が異なる点は非常に興味深いものでした。関節の駆動性が異なるため,ロボットで完全に模倣できるとは限りませんが,ハードウェア設計やロボットの動かし方の点で非常に参考となる内容だったと思います。

 

3. まとめ

 今回,COVID-19の流行に伴い,完全遠隔配信による3回目のロボット工学セミナーです。完全遠隔配信について,経験が蓄えられ,少しずつ課題を克服できていると思います。しかし,アンケート調査によると,参加者の方がご不便を感じられた点が少なからずあったとのことでした。参加者の皆様にはご不便をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

 今回当日の運営トラブルを避けるために,事前に講師の方を含めた遠隔配信システムのリハーサルを実施しました。しかし,事後のアンケートでは,雑音が多く音声が聞きづらいことがあった,動画がコマ落ちしていたという意見をいただきました。これらの不備につきましては,原因と対策を整理して,今後のロボット工学セミナーの運営に反映し,より良いセミナー運営に尽力いたします。

  質疑応答については,前回のセミナーでも用いられたsli.doを利用しました。シンプルな使い方が可能で,匿名で気軽に質問できることから,多くの質問をいただきました。一方で,各講師の方への質問がすべて混じって表示されてしまうため,分かりにくいとの意見もありました。その点については,今後の課題として運用で工夫できればと思います。

 参加者アンケートによる講演の評価(回収数 49,回答率 60%)は,期待通り:44 票,どちらでもない:5 票,期待はずれ:0票という結果であり,全体として評価の高いセミナーとなりました。

  最後に,本セミナーが今後の多脚ロボット分野の発展に少しでも貢献できれば幸いです。

 

 

謝辞

 ご多忙の中,講演をご快諾頂いた講師の方々,そして熱心に聴講いただいた参加者の皆様にお礼申し上げます。また,企画・運営におきましては,事業計画委員会の皆様をはじめ,ロボット学会事務局の水谷様,村上様,サブオーガナイザーをお引き受けいただいた沖様(オムロン株式会社)には大変お世話になりました。感謝申し上げます。

 

一藁 秀行(株式会社日立製作所)