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みのつぶ短信第33回「TEDxAPU報告」


時間があいてしまって申し訳ないです,今年の年始早々の元日の能登半島大震災,2日のJAL機と海保機クラッシュと暗いニュースが続き,能登はまだまだ復興途中ですが ,復興にもまだ手が届いていなかった2024年1月7日,大分県別府市にある,立命館アジア太平洋大学(APU)[1]でのTEDxAPUというイベント[2]で講演をしてきたので,その報告です.


当時,多忙を極めていて,APUについては,現地に着いてから,認識したくらいで,お恥ずかしい限りだが,3学部(アジア太平洋学部,国際経営学部,サステイナビリティ観光学部)で入学定員1500名/年でおよそ6000名,大学院もアジア太平洋研究科,経営管理研究科合わせて230名の小さくない大学で日本人と留学生の比率がほぼ同じと,非常に国際的な大学である(写真1:正面のツインタワー的な建物,写真2:日曜でキャンパス内に学生の姿は殆どない).


その中で学生主体のイベントとして,学外から講演者を呼んで開催されてきたのがTEDxAPUで,2014年から始まっており今回は第6回目にあたる.もともと,この件は本学会菅野会長から振られたもので,多少迷いつつも(多忙と学生主体のイベントで危惧あり),まぁ,若い連中から刺激をもらおうかということで,参加した.ロボットの関連のある講演は筆者のみで,他の講演者は,全く別の分野だが,まぁ,御愛嬌ということで,ご笑納ください(写真3:会場のプレミアムホール,写真4:会場受付にはたくさんの学生ボランティアが働いていた).


第一部,1時開始が20分ほど遅れて開催され,最初は,荒馬緒という元々青森の踊りのようだが,APUのダンススクールが現代風にアレンジしたシンプルな踊りとなっていた(写真5:舞台パフォーマンスの様子).


最初のスピーカーは,会社の受付業務の経験からRECEPTIONISTという会社を立ち上げた橋本真里子さんである.受付にiPadをおいて,開発した受付業務効率化アプリを稼働させ,訪問者と被訪問者の間を円滑に結ぶビジネスモデルを確立した.「ストーリーと感動が未来を動かす」というタイトルで,自身の起業の経緯のなかで学んだ様々な教訓を紹介され,顧客目線の3つのエッセンスとして

  • ”痛みの共感”こそ顧客目線
  • ”自己理解”はスピードを生む
  • ”ストーリー”は人の感情を動かし,ビジネスをも前進させる.

を挙げ,現在国内で顧客会社200万を超す営業成績を伸ばし続けている(写真6:橋本さんの講演の様子).最後のメッセージが「AIは,人間の感動やストーリーには敵わない」ということで,筆者の講演とも関連していて議論したかったが,6歳の娘さんの誕生日ということで,講演後すぐに東京に発たれ,時間がなかった.ともかく,パワフルな講演であった.


二番目は,昨年11月にAPUで行った学生弁論大会の二人の最優秀賞の一人であるインドネシア出身の女子学生SHERLY BUDIMANさんの「IDENTITY AND DIVERSITY THIS IS MY STORY. WHAT'S YOURS?」(「アイデンティティと多様性 これは私の物語。あなたのは?」という演題で流暢で自然に振る舞ってみえる英語のスピーチであった(写真7:SHERLYさんの講演の様子).即席麺のパーティから学生間では非常にポピュラーで即席麺であるIndo Mieに絡んで,自分のオリジンを探っていくというストーリー構成で彼女のキャラクターが全面に出ていた講演であった.


三番目は筆者の講演で,「Creating Artificial Mind - A Challenge of Cognitive Developmental Robotics」(「人工の心(ココロ)を創ること -認知発達ロボティクスの大いなる挑戦 -」と題した講演で,APUには理工系の学部学科がないので,なるべく平易にしかも,TED風に喋らなくてはいけなくて,結構苦労した.内容は,人間の心の能力や機能を人工的に実現する試みは非常に困難で,機能のなかから自己意識,言語コミュニケーション,共感をとりあげ,それぞれの初期段階の課題として,自己顔の認知,音声模倣,情動発達の計算モデルシミュレーションを,ビデオを駆使して説明した.最後に「心の理論」に触れ,ミラーニューロンシステムの計算モデルを紹介した.まとめとして,身体性と社会的コミュニケーションの重要さを指摘し,紹介したモデルが個別の課題を扱っており,全てをまとめて説明可能な発達モデルの必要性を訴えた.


四番目は,弁護士の平松まゆきさんで,なんと現役歌手でもある.詳細はWikipediaのページ[3]を参照していただくとして,冤罪事件として有名な「名張毒ぶどう酒事件」のドキュメンタリーを視聴後,弁護士を目指したとのことで,司法試験の苦労,プレッシャーなどを語り,限界の3回目で見事合格したとのこと.最初に扱ったのが,自動車泥棒の弁護で,盗んだことは悪いのだが,持ち主は養豚場の雇用主で,なんと豚小屋で一緒に生活させられ,一日二食のみ,無賃金だったそうで,そこから抜け出すために雇用主の車を盗んだということだったようだ.有罪判決だったものの,執行猶予付きだそうだが,雇用主のほうが犯罪者である.この話を非常に流暢な英語で語られた.講演後,海外在住体験を伺ったらなしで,せいぜいハワイに観光旅行程度とか,英語が非常に好きで,歌も好きで「シンガーソング・ロイヤー」とのことだ(写真8:バックの写真はアイドル歌手としてデビュー当時(?)の写真だそうだ).


五番目はYoutubeなどのソーシャルメディアを通じて,何十万にもフォローワーを抱え,ライフコーチングしているインフルエンサー Show Nemoto[4]さんだった.マイケル・ジャクソン風の出で立ちや振りで現れ,ジョークを飛ばしながら,自身の人生を振り返り,ライフコーチの真髄を語った(写真9:マイケル・ジャクソンのジェスチャやムーンウォーク風の動きを披露).楽屋で彼と瞑想の話で盛り上がった.脳波やデフォルト・モード・ネットワークとの関係についても自身で結構勉強されている様子だった.また.瞑想とフローの関係についても興味をもって,勉強中とのこと.これからも多くのフォローワーを魅了されるだろう.


最後の講演者は,アーティスト,詩人,そして女性起業家として,unid株式会社を創設した櫻井暢子さんだった.「自分の内側に力を取り戻しパワフルに生きる」というタイトルの講演で,自身のさまざまな作品,詩の紹介を通じて,世の中の様々なありようをそのまま捉えつつも,自身のあり方を再認する形を模索しながら,それをどのように共有していくかを語られた(写真10:講演中の櫻井さん).作品の中で,とくに水墨画のトーンで文字ともパターンとも解釈可能な摩訶不思議な絵面に惹かれた.講演後お話すると,非常に気さくな印象を受けた.時間があれば,アトリエを訪問したいですと伝えると,ぜひぜひと言われ,何か送ってくれるそうで楽しみにしている.


講演会終了後のステージパフォーマンスは,和太鼓”楽”でAPUの学生さんたちが4ヶ月の猛練習の成果を披露してくれた.非常に素晴らしいパフォーマンスだった(写真11:前の4人と後ろの3人の息のあったパフォーマンス).


すべてのイベントが終了後,後援者の参加者全員の懇親会があった.プログラムではDinnerと記されていたが,実際は生協弁当でアルコールなし.筆者はアルコールなしでは晩飯が食べられない症候群なので持ち帰ることにしたが,1時間半ほど学生さんの質問攻めにあった.分野が異なるので初歩的な質問かと思いきや,ビジネス応用や社会的,倫理的,法的課題などについて,非常にシャープな質問が多く,そのうらに学生さんたちの熱い情熱を垣間見た感じがした.


[1] https://www.apu.ac.jp/home/
[2] https://www.tedxapu.com/event
[3] https://ja.wikipedia.org/wiki/平松まゆき
[4] https://www.youtube.com/channel/UCDxfhA7xie-TafWwoAtq43A

 

TEDxAPU 2024 報告 (PPTX:331MB) ※動画もこちらから確認いただけます

 

 

 

浅田稔

元会長,現在,大阪国際工科専門職大学 副学長,及び大阪大学先導的学際研究機構 共生知能システム研究センター特任教授