日本赤ちゃん学会第26回学術集会を早々に終え,ICRA2026の際と同じ便で伊丹から羽田/フランクフルトを経てウィーンに再到着したのは,現地6月9日の夜でした.今回のARSO2026(22nd IEEE International Conference on Advanced Robotics and its Social Impact)は,ウィーン工科大学でホテルは徒歩3分の便利なところでした.昨年大阪で開催しており[1],会議の趣旨や目的は同じです.
初日の6月10日のオープニングでは,実行委員長のウィーン工科大学のDongheui Lee教授から会議の概要が示されました[写真1].ICRA2026の巨大な会議と異なり,投稿数70編,採択数37編の小規模な会議です[写真1].初日のキーノート講演は,Mohan Rajesh Elara教授(シンガポール工科デザイン大学:Singapore University of Technology and Design, SUTD)による「The Rise of the Reconfigurable Robots」と第するものでした[写真2].再構成可能ロボット(Reconfigurable Robots)は,環境やタスクに応じて自律的に機構形態(kinematic morphology)を変化させることで,高い適応性・頑健性・モジュール性を実現するロボットです.本講演では,建築・都市インフラなどの実環境を対象としたユースケースに基づき,SUTDにおける再構成可能ロボットの設計・開発・社会実装の取り組みが紹介されました.また,研究開発に加えて,シンガポール国内のロボットスタートアップ創出を促進するエコシステム形成の活動についても報告され,研究から産業化までを見据えた包括的な展開が示されました.
午後は今回の目玉のオーガナイズドセッション「A Comparative Approach to the ELSI of Social Robots: Towards Building a Complementary Relationship between Austria and Japan」で,京都大学の稲谷教授と浅田が提案したものでした.本セッションは,人とインタラクションするソーシャルロボットのELSI(倫理的・法的・社会的課題)をテーマに,日本とオーストリアを代表する研究者が倫理学,法学,ロボティクスの観点から議論し,AI・ロボット時代における人間と技術の望ましい関係について比較検討することを目的として企画されたものでした.
倫理セッションでは,京都大学の出口康夫教授とウィーン大学のBarbara Prainsack教授が登壇しました.出口教授は,人間,人工物,環境を含む多主体システムを行為主体とみなす「WE-turn」を提唱し,自律性を個人による意思決定の独占ではなく,共同的意思決定への参加として再定義しました[スライド1].一方,Prainsack教授は,欧州における連帯(solidarity)の概念を基礎として,相互支援の関係性の中で自律性が形成されることを論じました[スライド2].両者は出発点こそ異なるものの,孤立した個人ではなく関係性の中で形成される主体を重視する点で共通していました.
法制度セッションでは,京都大学の稲谷龍彦教授とウィーン大学のNikolaus Forgó教授が,日本と欧州におけるAI・社会ロボットのガバナンスについて議論しました.稲谷教授は,日本のアジャイル・ガバナンスを紹介し,人間を関係的存在として捉えながら,技術・社会・法の共進化を通じてリスクを管理する考え方を説明しました.また,ソーシャル・ロボットにおけるリスク管理やデータ保護のあり方について,技術標準や企業責任を含む多層的な制度設計の重要性を指摘しました.これに対しForgó教授は,EU AI Actを中心とする欧州のAI法制を取り上げ,リスク管理と基本権保護を軸とする欧州の規制アプローチを紹介するとともに,その前提となる人間中心主義的な発想やリスク概念について批判的検討を行いました.討論を通じて,日本の適応的ガバナンスと欧州の権利保護型規制という違いが示される一方,人間とAI・ロボットの望ましい関係性を模索するという共通課題も確認されました.
ロボティクスセッションでは,浅田とウィーン工科大学のAstrid Weiss准教授が,人間とロボットの関係形成について議論しました.浅田は,「弱いロボット」と「シリコパシー」を例に,人間の能力を引き出す関係性と共感的な関係形成を基盤とした「Convivial Robotics and Silicopathy [2]」を紹介し,人間とロボットの共棲を支える関係論的倫理の可能性を示しました[スライド4].これに対し,Weiss准教授は,人間・ロボット・データ・制度が相互作用する社会技術システムとして人間–ロボット関係を捉える「Co-shaping」の視点を提示し,多様なステークホルダーを含めた設計の重要性を論じました[スライド3].
セッション全体を通して,倫理,法制度,ロボティクスという異なる領域から議論が展開されましたが,その根底には「自律した個人」による人工物の「支配」を中心とする従来の理論枠組みを超え,人間とAI・ロボットを相互に構成的な関係性の中で捉え直そうとする共通の問題意識が存在していました.日本側が相互依存性や共創的関係を重視するのに対し,欧州側は自律性や権利保護から出発しつつ連帯を指向するという傾向が見られたものの,両者は必ずしも対立するものではなく,むしろ相補的な視点として統合可能であることが示されました.AI・ロボットの社会実装が進展する中で,東西の知見を融合した国際的なELSIの枠組みを構築する重要性が改めて確認されました.
当日,レセプションのあと,Forgó教授から稲谷教授,出口教授,浅田にディナーのお誘いがあり,教授の奥様も含めて5人で活発かつ生産的な議論を交わし,楽しいひとときを過ごすことができました.また,後日,Forgo教授のブログで,本セッションの短い紹介がなされました[3].
二日目の6月11日の午前中のキーノートはMarc Hassenzahl教授(ジーゲン大学,ドイツ)による「Relations, Not Machines」と題する講演で,Hassenzahl教授は,社会ロボット研究が長年にわたり「パートナー」「アシスタント」「コンパニオン」といった役割を与える形でロボットを設計してきたことを振り返り,その発想の限界を指摘しました.講演では,人間とロボットの関係を「親密性」と「自律性」の二軸で整理した図を示しながら[写真3],「ロボットをどの役割に位置づけるか」ではなく,「どのような関係性が創発されるか」を問うべきであると主張しました.その上で,ロボットは人間関係を代替する存在ではなく,人と人との対話や協力,さらには人間と他生物・環境との関係を拡張する存在として設計されるべきであると論じました.質疑では,浅田から岡田美智男教授の「弱いロボット」との概念的近接性を指摘したところ,Hassenzahl教授もその共通性を認めつつ,自身の関心は特定のロボット類型ではなく,「機械」ではなく「関係性」に焦点を移すことにあると説明しました.この関係性重視の立場は,先のオーガナイズドセッションで議論されたWE-turn,Solidarity,Co-shaping,Convivial Roboticsとも多くの共通点を有しており,社会ロボット研究を「機械中心」から「関係性中心」へ転換する重要性を改めて示しました.
午後は,ウィーン大学哲学科の哲学者であり,メディア哲学・技術哲学を専門とするMark Coeckelbergh教授を訪問しました.筆者はこれまでに AI Ethics,Robot Ethics,The Political Philosophy of AI,Why AI Undermines Democracy and What to Do About It,Communicative AI の5冊を読破しており,現在は Artificial Religion: On AI, Myth, and Power を読書中です[スライド7–12]。昨年東京で開催されたクローズドな研究会が初対面と思っていましたが,Coeckelbergh教授は以前から浅田を知っており,どこかで既に面識があったようでした.AIやロボットの倫理をめぐる議論において,彼は常に鋭い問題提起を行っており,読破した5冊に加え,6冊目となる Artificial Religion でも,AIやロボットの技術そのものよりも,それらを生み出し求める人間の本性に焦点を当てた議論を展開しています.現在,最も注目すべき哲学者の一人であると感じています.訪問時には,文化や宗教とAIとの関係を中心に活発な意見交換を行いました.別れ際には,Coeckelbergh教授から AI Ethics のペーパーバックを贈呈いただき,サインも頂戴しました[写真4].今年の来日の予定はないとのことでしたが,来年には日本で再会できることを期待しながら,ウィーン大学を後にしました.会議ばかりでウィーンの街を探索できてませんが,トラムからの車窓のビデオで街の雰囲気だけでも味わってください[ビデオ:スライド18].
翌日の6月12日も会議は続いていましたが,翌13日の土曜日には大阪国際工科専門職大学で担当するサタディセミナーが予定されていたため,途中で帰国することとなりました.12日午前の便でウィーンを発ち,羽田経由で伊丹空港へ到着した後,帰宅して昼食を済ませ,そのまま大学へ向かいました.これまでサタディセミナーでは神経科学を講じてきましたが,今年度はCoeckelbergh教授の The Political Philosophy of AI を教材として取り上げており,この日は第2回目の講義でした.講義を終えて帰宅し,ARSO2026への参加をはじめ,時差ボケと向き合いながら過ごしたこの2週間を振り返りつつ,ようやく眠りにつきました。
[1] https://robogaku.jp/news/2025/pblog039.html
[2] https://ieeexplore.ieee.org/document/11536138
[3] https://weekly-update-from-nikolaus-forgo.ghost.io/week-25-2026/

















浅田稔
元会長,現在,大阪国際工科専門職大学 副学長,及び大阪大学先導的学際研究機構 共生知能システム研究センター特任教授



