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日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1975Locomotion〈ロコモーション〉みつめむれつくり


森 政弘東京工業大学 名誉教授

この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。

《総論》

「みつめむれつくり」は,1975年5月に沖縄海洋博(EXPO '75)の 芙蓉グループパビリオンへ出展するために作られた,7匹からなる群をつくるロボットである。
和名が「みつめむれつくり」,
学名が「Triops congregans Masahiro」(ラテン語),
英名は「The Three-eyed Beatles」
である。

3つの目を持っていて仲間をみつけ,集まってきて群をつくる性質のあるところから,この名前がつけられた。
製作された時期は,まだマイコン(IC化されたCPU)などはない頃で,ようやくC-MOSが発売されだした時代であったため,7匹全体を制御するコンピュータも,1匹1匹に搭載したコンピュータも使っていない。
このロボット群の大きな特長は,無中枢システムという点である。中央に主コンピュータがあって,それで群全体を制御してはいないのである。以下に説明するような機能を1匹1匹が備えているだけのことによって,あたかも動物の群,たとえば池の中で魚の群が示す挙動と,きわめてよく似た挙動を示したのである。2001年の今日研究されている,自律分散制御システムの世界最初のものと言ってよいであろう。

このロボットは1匹でいるときはランダムウォークをしているが,赤外線によって仲間を見付けると,それを追いかける。しかし,50cm以上は接近せず,ぶつかることはない。またそれぞれは全く同様に作られていて,7匹の中にボスはいないし,外からコンピュータで集中制御されているのでもない。すべて平等な個から成り立っているロボット社会であるにもかかわらず,何匹かが群をなし,どれかが群を先導し,他はそれに従ってついて行く。
この様子はボスのない動物の群によく似ている。たとえば魚の群や鳥の群はもちろんのこと,もっと下等な動物でも群を作るが,その時の先頭は必ずしも一定しておらず,たまたま先頭に立ったものが他を先導して行くのである。ひとつとして全体のことを把握しているものはない。向こう三軒両隣,自分のすぐ近傍しか知らない個が集合して,全体が何となくまとまって行動し,かつその中において各個は適当に自由に動く---このような無中枢システムは,われわれ人類の関心事であるとともに,平和の象徴なのかもしれない。

「みつめむれつくり」が簡単な感覚と判断とで,仲間や柵を感知し,あるいは気まぐれに,あるいはまとまって離合集散する様には,動物社会はもちろん人間社会と対比してみても,興味深いものがある。とくに同じように製作された個体のバラツキ(応答やタイミングや視野の広さなどの微妙な差)が群の挙動の中では大きく拡大されて現れ,それが先頭になったり,従者になったりする確立を大きく左右したり,境界の広さや形状と中にいるロボットの数で,群のでき方がぜんぜん変わり,広すぎても狭すぎても群はうまく出来なくなったりするのを見ていると,面白いだけでなく,社会工学の解の一つが潜んでいるような気がしてくる。

2《感覚と判断》

「みつめむれつくり」の目は,頭の中央と左と右に3つ付いているが,中央の目はさらに3つに分かれていて,全部で5つの視野の複眼になっている。その視野は,下記のとおりである。

  • 左眼(A)=66度
  • 中央の左部(B)=20度
  • 中央の中央(C)=12度
  • 中央の右部(D)=20度
  • 右眼(E)=66度

中央の目が,視野B,C,Dの追従限(2m)内に仲間を見付けると,視野Cの中にその相手が入るように,ロボットは自分の体の方向を制御しながら追いかけて行く。そして回避限(0.5m)まで近づくと,あらかじめ設定した短時間,一時停止する。 その時間内に相手が回避限よりも遠ざかって,追従すべき視野にいれば再び追いかけるが,まだ相手が回避限内にいれば,回避すべく旋回して自分の向きを変える。左右の目は近くだけを感知し,視野AとEの回避限に仲間が入ると,ロボットは衝突防止のため直ちに旋回回避する。目の他に,前方左右に磁気センサが張り出しており,それが外界の柵の電磁バリヤを感じると,直ちに旋回回避して,ロボットは柵の外には出ないようになっている。

3《動作モード》

みつめむれつくり」は次の3つの動作モードを持っている。

  1. ランダムモード:視野内に仲間がおらず,電磁センサに何も感じない時はランダムに動き回る。
  2. 追従モード:中央の目の視野B,C,Dの追従限内に仲間を見付けると,その仲間を視野Cの中に入れるように,自分の体の向きを制御しながら発見した仲間に近づいて行く。もしも複数の仲間を発見した場合には, 最も近い仲間を追いかけるようになっている。この動作中に,下記(c)の回避モードの信号が入ると,それを優先させる。
  3. 回避モード:電磁センサが電磁バリヤを感知すると,ロボットはそれを回避する(第1優先)。左右の目A,Eのいずれかの回避限に仲間を発見すると,それを回避する(第2優先)。中央の目の視野B,C,Dの回避限に仲間が入った時は,一時停止の後,仲間がまだ回避限内にいればそれを回避する。回避動作は,すべて左右の判定をして旋回する。

4《個の構成》

めむれつくり」は次のものから成り立っている。
〈頭上ランプ〉赤外線を発するランプ。
〈赤外線センサ(3つの目,5視野)〉上述。
〈電磁センサ〉上述。
〈外界センサ〉鼻の位置にあり,起きたり眠ったりするために,外界の明るさを感じる。
〈充電コネクタ〉口の位置にある。
〈左右の前輪およびモータ〉減速機付小型直流モータ。
〈後輪〉キャスタ1個。
〈プリント基板,マザーボード〉
〈蓄電池〉Ni-Cdで,一晩充電すると,連続10時間活動できる。
〈本体骨格〉アルミニュームフレーム。

各みつめむれつくり の視野
各みつめむれつくり の視野
Expo' 75の展示シーン (写真撮影:渡部雄吉氏)
Expo' 75の展示シーン (写真撮影:渡部雄吉氏)

動画


対応論文


松原 季男:機械動物メカニマル

日本の科学と技術 沖縄海洋博記念特集 海洋, 日本科学技術振興財団, Vol. 16, No. 175, pp. 75-79, 1975

森 政弘:個と群れの動き

PPP誌, PPP(Public-Private Pertnership)協会発行, Vol. 2, No. 1, pp. 2, 1976

関連論文


[1] 沖縄海洋博 芙蓉グループパビリオン「機械水族館」案内説明書,芙蓉グループ海洋博出展委員会