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日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan2006Locomotion〈ロコモーション〉多脚移動ロボットの力制御技術と2足歩行ヒューマノイドロボットの柔軟なバランス、歩行、運動学習への応用


玄 相昊ATR脳情報研究所
森本 淳ATR脳情報研究所
ゴードン チェンATR脳情報研究所
川人 光男ATR脳情報研究所

この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。

力制御は因果律からいって位置・速度制御の下位にあたり、人間や環境と親和性ある物理的インタラクションを実現する上で鍵となる技術である。とくに近年、不整地作業ロボットの移動技術や、外骨格ロボットのアシスト制御技術等、マニピュレーションとロコモーションにおいてもその力制御の重要性はますます増加している。

本研究は、トルク制御可能であることを想定した多関節多脚・多腕ロボットの作業移動のための受動性に基づく実用的な接触力制御の枠組みを提案し、等身大の油圧駆動ヒューマノイドロボットを用いて有効性を実証したものである。

発表論文では、提案手法が受動性に基づいた冗長問題解法に基づくため、1)接触力の計測を必ずしも必要とせず、2)逆運動学演算を必要とせず、3)逆動力学演算を必要とせずに、複数の接触点に作用する接触力を最適に制御できることを理論的に示している。また、応用例として、トルク制御可能な油圧駆動ヒューマノイドロボットへの適用方法を示している。

冗長関節を持つ等身大2足歩行型ヒューマノイドロボットが複数の接触力を実時間で最適に制御しながら、未知の外力に対してしなやかに対応しつつバランスを維持するデモを行ったのは本研究が世界初である。提案手法は2足歩行ロボットをはじめ、多脚式建設ロボットや補助装具など幅広い脚式ロボットに適用することができ、実際、発明者らによってトルク制御型外骨格ロボットや4脚ロボットにも適用されている。

なお、本研究の発表とほぼ同時期に、Stanford大のグループが逆動力学に基づく全身運動制御法を提案していたが、シミュレーションのみの評価であった。本研究は実用性の観点から受動性に基づく解法と簡便な接触力最適化アルゴリズムを示し、理論と実験の両方でその有効性を証明した点に独創性と優位性がある。実際、本研究を皮切りに、トルク制御型の歩行ロボットの開発が国際的に活発化し、現在に至っては複雑な接触状況における実時間最適化を含めた最適全身軌道計画に研究のトレンドが推移している。

ここで紹介する動画は、ランダムに傾斜が変化するシーソー上のバランス、片足・両足支持の遷移動作、準動歩行、強い外乱に対する転倒回避動作の様子や、力制御の特徴を活かした関節軌道の重ね合わせによる周期的足踏みや動歩行、高速バッティング動作の様子を示している。詳細はJST-ICORP計算脳プロジェクト終了報告書にまとめられている。

油圧駆動2足歩行型ヒューマノイドロボットCB-i
油圧駆動2足歩行型ヒューマノイドロボットCB-i

動画


対応論文


玄相昊:複数の接地部分と冗長関節を有するヒューマノイドロボットの受動性に基づく最適接触力制御

日本ロボット学会誌, vol.27, no.2, pp.178-187, 2009.3.(2009年 第23回日本ロボット学会論文賞受賞)

関連論文


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[2] Hyon, S. and Cheng, G., Gravity compensation and full-body balancing for humanoid robots, in Proceedings of IEEE-RAS International Conference on Humanoid Robots, pp.214-221, Genoa, Italy, 2006.

[3] Hyon, S. and Cheng, G., Disturbance rejection for biped humanoids, in Proceedings of IEEE International Conference on Robotics and Automation, pp.2668-2675, Roma, Italy, 2007.

[4] 玄相昊,Gordon Cheng, 冗長自由度を有する脚式ロボットの実用的な接触力制御手法とバランス制御への応用, 第25回日本ロボット学会学術講演会, 千葉, 2007.9.

[5] Hyon, S. and Cheng, G., Simultaneous adaptation to rough terrain and unknown external forces for biped humanoids, in Proceedings of IEEE-RAS International Conference on Humanoid Robots, Pittsburgh, USA, 2007.

[6] Hyon, S., Morimoto, J. and Cheng, G., Hierarchical motor learning and synthesis with passivity-based controller and phase oscillator, in Proceedings of IEEE International Conference on Robotics and Automation, Pasadena, USA, 2008, pp.2705-2710.

[7] 玄相昊, ヒューマノイドの姿勢制御に関する一考察 , 第26回日本ロボット学会学術講演会, 神戸, 2008.9, AC2J2-05.

[8] Sang-Ho Hyon, Jan Moren and Mitsuo Kawato, Toward humanoid batting: prediction and fast coordinated motion, 第26回日本ロボット学会学術講演会, 神戸, 2008.9, AC2J2-01.

[9] 玄相昊, 複数の接地部分と冗長関節を有するヒューマノイドロボットの受動性に基づく最適接触力制御, 日本ロボット学会誌, vol.27, no.2, pp.178-187, 2009.3.

[10] Hyon, S. Compliant terrain adaptation for biped humanoids without measuring ground surface and contact forces, IEEE Transactions on Robotics, vol.25, no.1, pp. 171-178, 2009.3.

[11] 玄相昊, 準静的に獲得した関節軌道を利用して動的な類似運動を逐次的に学習する方法, 日本ロボット学会誌, vol.27, no.9, pp.1025-1028, 2009.

[12] Hyon, S., A motor control strategy with virtual musculoskeletal systems for compliant anthropomorphic robots, IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, vol.14, issue 6, pp.677-688, 2009.6.

[13] Hyon, S., Osu, R. and Otaka, Y., Integration of multi-level postural balancing on humanoid robots, IEEE International Conference on Robotics and Automation, Kobe, Japan, 2009, pp.1549-1556.

[14] Hyon, S., Morimoto, J. and Kawato, M., From compliant balancing to dynamic walking on humanoid robot: Integration of CNS and CPG, IEEE International Conference on Robotics and Automation, Anchorage, USA, 2010, pp.1084-1085.

[15] Hyon, S., Matsubara, T., Morimoto, J., Kawato, M., XoR: Hybrid drive exoskeleton robot that can balance, in Proc. IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems, 2011.9, San Francisco, USA, pp.3975-3981.