日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1986Manipulation〈マニピュレーション〉異構造マニピュレータ間におけるバイラテラルマスタスレイブ制御
新井健生 | 大阪大学 大学院基礎工学研究科 |
中野栄二 | 機械技術研究所 |
この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。
本研究は,通商産業省(現経済産業省)大型プロジェクト「極限作業ロボット」(1983~1990)におけるマニピュレーション技術の研究開発に関連して行われたものである.従来,アームを遠隔操作する手法として,特に多関節アームの遠隔制御にはマスタスレイブ方式が一般的であり,操作側のマスタアームと,作業側のスレイブアームは同構造とし,それぞれ対応する関節間でサーボを組むことにより,動作制御が行われていた.また,スレイブアームが人間の腕に類似した人間型マニピュレータを制御する場合は,腕に装着するエグゾスケルトン型マスタを用いる方法も多用される.操作性を高めるために,作業アームの反力をマスタ側にフィードバックする機能を備えると,このエグゾスケルトンマスタは大型となり,かえって操作性が劣化する.
そこで,アームの構造を同一にして対応する関節間でサーボを組むという考えを離れ,マスタはスレイブに対して正確な位置指令を行うと共に操作感覚を忠実にフィードバックする機構と制御を,スレイブは作業が行いやすい機構と制御を組合わせる,というアイデアにいたった.本論文では,構造の異なるアームを用いるバイラテラルマスタスレイブ制御システムの一般的な構成法について示すと共に,3種類の構造の異なるアームを用いて6通りのバイラテラルマスタスレイブシステムを実際に構成し(図1),操作性,作業性の視点で実験評価を行い,その有効性について論述している.本研究成果に基づき,操作性と作業性を重視した汎用マスタアームが試作され(図2),PUMAロボットのスレイブと組合わせ,ビール瓶の栓抜き作業などが実演された.また,本手法をさらに発展させ,自由度が異なるアーム間のバイラテラルマスタスレイブ制御方式の構成法やその問題点についても研究が行われた(図3).また,本件に関しては6件の特許が登録されている.
第2回(1988年)日本ロボット学会論文賞受賞