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[随想:ロボット現役40年、いまだ修行中vol.1]総合科学とサイバネティクス【後編】/小平紀生


本記事はrobot digest 2019年4月3日掲載記事を転載しております。

 過去には日本ロボット学会の第16代会長(2013~14年)を務め、現在も日本ロボット工業会システムエンジニアリング部会長などロボット業界の要職を数多く務める三菱電機の小平紀生氏。同氏は黎明(れいめい)期から40年以上もロボット産業と共に歩んできた。その半生を振り返るとともに、ロボット産業について思うところをつづってもらう「随想:ロボット現役40年、いまだ修行中」の第1回。前編では小平氏が中学時代に好きだったサイエンスフィクション(SF)小説を紹介してもらった。主人公が分野横断的に幅広い知識や技術を駆使して活躍する物語だ。「あらゆる知識を総動員することが重要」、こうした考え方は後のメカトロニクスやロボット産業にもつながるという。

 

あらゆる知識を動員せよ

 

 「問題解決のためにはあらゆる分野の知識を総動員しなければならない」。これは中学2年生の時の家庭教師の先生にも言われた言葉で、今でもよく覚えています。
 家が東京工業大学(東工大)の近所だったので、東工大の学生にアルバイトとして数学を教えてもらっていました。数学の問題を解いても「テストで点が取れるだけじゃ駄目。さまざまな分野の知識と組み合わせて、使えるものでなければならない」と教えられました。その奈良坂紘一先生は、当時はただの化学系の学生でしたが、東京大学の教授を経て今は名誉教授になられています。中学生という多感な時期に、後に有機化学の大家となる方から得た薫陶は大変な財産だと思っています。

 

制御や情報技術を統合


筆者所有のロゲルギスト著「物理の散歩道」(岩波書店、1963年発行)

 

 仕事でロボットに携わるようになってからは「ロボット一筋40年」ですが、実は「ロボット一筋50年」とも言えます。中学生のころには「将来はロボットに関わる仕事をするんだ」と決めていました。

  父が機械工学の教授だったこともあって、家には工学や物理学などの本がたくさんあり、それを盗み見ることもよくありました。
 特に「物理の散歩道」という本が面白かった。物理学者たちが集まって、身近な現象などをテーマに自由闊達(かったつ)に議論した内容を収めたものです。ベストセラーで今でも新装版が売られていますので、読んだことのある方もいらっしゃるでしょう。

 本作の主人公は「総合科学者」で、「総合科学」は各学問分野が細分化されすぎた時代に、分野横断的にさまざまな技術や知識を統合した架空の学問とされています。生じた問題に対し、あらゆる分野の知識や技術を総動員して問題解決する姿に憧れました。

 物理の散歩道は、米国マサチューセッツ工科大学の教授だった数学者ノーバート・ウィーナーが20世紀半ばに提唱した「サイバネティクス」に影響を受けた本と言われます。
 サイバネティクスとは機械や生物の制御や通信・情報処理などを一元的に扱う学問で、同名の本も出版され、後の世に多大な影響を与えました。コンピューター関連で使われる「サイバー」という言葉の語源にもなっています。
 この本にも興味が湧き、中学生時代に読んでみましたが、当然のことながら序文でさえ全く歯が立ちませんでした。高校時代に挑戦しても駄目で、大学時代は同期生も何人かこの本を読んでいましたが、私は完全に内容を理解するまでには至らなかった。きちんと読みこなせたのは、社会人になった後のことです。

 

後のメカトロニクスの下地に

 

 80年代には機械工学や電子工学、情報処理などが融合したメカトロニクス技術によるファクトリーオートメーション(FA)が盛んになります。産業用ロボットもFA機器の一つで、80年にはロボット普及元年を迎えます。その下地作りには、サイバネティクスなどの「複数の分野を統合して役立つものにする」という考え方が寄与したのではないかと思います。
 また、それらの本は私が「ロボットに関わる仕事をしよう」と志すきっかけにもなりました。私が中学校を卒業したのは68年。川崎重工業が国産初の産業用ロボットを作る前年のことでした。

――続く

(構成・ロボットダイジェスト編集デスク 曽根勇也)

小平紀生(こだいら・のりお)
1975年東京工業大学機械物理工学科卒業、同年三菱電機入社。2004年主管技師長、13年主席技監。日本ロボット学会会長などを歴任し、現在は日本ロボット工業会のシステムエンジニアリング部会長やロボット技術検討部会長、FA・ロボットシステムインテグレータ協会参与、セフティグローバル推進機構理事兼ロボット委員会委員長などを務める。東京都出身、66歳。