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RSJ2019学生講演レポート[2B1(OS15):科学技術の社会実装指向研究開発および技術者教育の展開(1/2)]


執筆日 2019年9月5日
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 修士2年 田力 健人

 

 2019年9月3日から7日にかけて早稲田大学で開催された第37回日本ロボット学会学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.

 

 今回レポートとして,9/5の午前中に開かれた「科学技術の社会実装志向研究開発および技術者教育の展開」に関する研究発表6件の取材を行いました.本セッションではどのようにロボット教育を行うかやロボット開発における人同士の関係についての発表が行われました.

 

まずは,ざっとプログラムを紹介します.
 1件目は北九州高専による「デジタルものづくりを活用した技術者教育の実践」.情報・ノウハウが乏しい中小企業に対しノウハウ,製品開発からフィールドサービスまで,地元中小企業の将来のデジタル化のイメージを実感できる教育プログラムを説明されました.
 2件目は宮城教育大学による「STEM人材の育成を目指した社会実装指向のロボット教育」.STEM教育の今後の可能性について発表し,STEMの観点によるロボット教育について知ることができました.
 3件目は東京高専のグループによる「協働型双腕ロボットアームの衝突シミュレーションと社会実装に向けて」.協働型ロボットの衝突シミュレーションにより今後のロボットの使用において安全確保の貢献を目指していました.
 4件目は岐阜県のグループによる「協調的なロボット開発チームの参加者に求められる行動特性の検討」.協調的なロボット開発チームの参加者に必要とされる行動特性を調査し,共感性を持って取り組むことが行動の推進力を生んでいると分かりました.
 5件目は和歌山高専のグループによる「複数研究室による移動ロボットプラットフォームを用いた社会実装指向のロボット開発」.複数の研究室で開発・利用している移動ロボットのプラットフォームとその協働開発ネットワークについて述べられました.
 6件目は株式会社リコーのグループによる「独立型履帯ユニットを用いた教育・研究用不整 地移動ロボット」.小型の不整地移動体のための履帯ユニットを提案し,それを用いたインターンシップでの研究結果を提示されました.

 これらの中から,私が特に興味を持った3件目の「協働型双腕ロボットアームの衝突シミュレーションと社会実装に向けて」と6件目の「独立型履帯ユニットを用いた教育・研究用不整 地移動ロボット」について,詳しくレポートします.
「協働型双腕ロボットアームの衝突シミュレーションと社会実装に向けて」(東京高専)
 近年,製造業における人手不足,コストの削減,生産性の向上といったあらゆる課題の解決策として,協働ロボットの製造現場への導入が注目を集めています.その中で発表者は過去に産業ロボットによるネジしめロボットの開発を行なっていたそうです.また,協働型双腕ロボットYumiも使用し,これは外食産業などの新領域への導入が期待されています.
 その協働ロボットは安全柵を取り払った,人と隣り合って作業を行うロボットでありながらも,人などの他の物体に衝突する際はそれを認識し,停止しなければいけません.例えば衝突した際にはツメや工具の接触で人が怪我をしてしまいます.そこで本研究では動力学シミュレーションを核とする協働型双腕ロボットの衝突シミュレータを試作し,多様のケースを想定し,衝突時に各関節に発生するトルクや力の変化を計算機上で検証することを試みています.手法としてはABB社の動作シミュレーションソフトRobot Studioと動力学シミュレーションを組み合わせ,動力学シミュレーションにODEを用いていました.ODEは私も研究で使用したことがあり,オープンソースで使用しやすく,適切なライブラリだと思われます.
 実験として作成した衝突モデルが図1です.

 


図1 作成した衝突モデル

 

 

本ロボットアームに球体を衝突させるように自由落下させていました.実験結果として示されたのが図2です.

 


図2 実験結果

 

 

結果としてトルクの最大値が手先に近づくに連れて小さくなることが計測結果から確認でき,傾向としては妥当な結果が得られたということです.
 次に人間との衝突シミュレーションを行なっていました.ロボットと協働する際に衝突するパターンを4つに分け,今後は実機と比較しながらシミュレーションの様々なパラメータを調節していくようです.私自身もロボットを安全柵なしで使用することがあるのでこのようなシミュレーションが開発されていくことに期待しています.

「独立型履帯ユニットを用いた教育・研究用不整地移動ロボット」(株式会社リコー)
 株式会社リコーでは最近ロボットの開発に着手しており,特に移動ロボットの研究が行われているそうです.移動ロボット研究用の移動体プラットフォームは多く提案されてきましたが,汎用的なプラットフォームは少ないと説明されていました.そこで不整地を走行可能で,移動制御技術の研究及びアプリケーション検証に用いることができる小型の不整地移動体のための履帯ユニットを提案されました.
 履帯ユニットを用いたロボットアプリケーションは様々開発されています.最もシンプルな移動体構成例として示されたのが図3です.

 


図3 最もシンプルな移動体構成例

 

 

また,他のアプリケーションの例として図4が示されました.

 


図4 アプリケーション例

 

 

このように様々な場面で移動ロボットを使用できるため汎用的であると感じられます.また,論文では本移動ロボットを用いてインターンシップ生が株式会社リコーにて研究を行なった結果も示されています.汎用的な履帯ユニットを用いることでハードにあまり詳しくない学生にも新しいアプリケーションを開発しやすくなっていると分かりました.ぜひ私自身も移動ロボットの開発に取り組む際には本履帯ユニットを用いてみたいと思いました.

 以上で「科学技術の社会実装志向研究開発および技術者教育の展開」のセッションレポートを終わります.


【講演プログラム】
2B1_OS15:科学技術の社会実装指向研究開発および技術者教育の展開(1/2)

2B1-01 デジタルものづくりを活用した技術者教育の実践
○久池井 茂(北九州高専)
2B1-02 STEM人材の育成を目指した社会実装指向のロボット教育
○門田 和雄(宮教大)
2B1-03 協働型双腕ロボットアームの衝突シミュレーションと社会実装に向けて
○長澤 広尚(東京高専 専攻科),多羅尾 進(東京高専)
2B1-04 協調的なロボット開発チームの参加者に求められる行動特性の検討
○尾関 智恵(岐阜大),毛利 哲也(岐阜大)
2B1-05 複数研究室による移動ロボットプラットフォームを用いた社会実装指向のロボット開発
○津田 尚明(和歌山高専),藤原 康宣(一関高専),多羅尾 進(東京高専)
2B1-06 独立型履帯ユニットを用いた教育・研究用不整地移動ロボット
○山科 亮太(㈱リコー),志村 浩(㈱リコー),川口 敦生(㈱リコー),Cruz Nacpil Edric John(東大),谷口 明日斗(元 阪大),反田 雄太(元 鹿大)