2020年9月8日から10日にかけてオンライン開催された第39回日本ロボット学会学術講演会セッション参加レポートをお届けします.
今回レポートするセッションは9月10日の午後に開かれた「2J3:フレキシブルロボット(1/2)」です.このセッションでは合計6件の発表が行われました.まずはその内容を簡単にご紹介します.
1件目はJAXAの研究グループによる,「鳥の生体模倣によるモーフィング翼の構築」です.この発表では,鳥のような俊敏な飛行を実現するために,複数のモーフィング機構を統合し,鳥の翼動作に近い駆動を表現できる翼構造の提案と開発について報告しています.
2件目は早稲田大学・早稲田大学大学院・東京ガス株式会社,導管ネットワークカンパニー・早稲田大学ヒューマノイド研究所,早稲田大学理工学術院の研究グループによる,「ガス管本支管深部での走行が可能な空気圧駆動型管内移動ロボットの開発」です.この発表では,ガス管内の長距離検査を実現するために,狭い管内においても高い牽引力を実現する伸縮アクチュエータの開発について報告しています.
3件目は立命館大学の研究グループによる,「根菜類運搬作業を目的とした柔軟エンドエフェクタの開発」です.この発表では,高重量物体の把持や高速性が求められる根菜類運搬を目的とした空気圧駆動ベローズを用いた柔軟なエンドエフェクタの開発について報告しています.
4件目は早稲田大学の研究グループによる,「ガゼット折りチューブを用いた伸展型ソフトインフレータブルロボットの開発」です.この発表では,伸縮型ロボットを幅広く活用することを目的としたガゼット折りチューブに関する,伸展動作性能の向上について報告しています.
5件目は山形大学の研究グループによる,「関節が柔らかい弾性腱駆動ロボットアームによる手書き作業」です.この発表では,関節が柔らかい弾性腱駆動ロボットアームによる軌道制御法を提案し,柔軟性を必要とする文字や図形を書く作業に提案した手法を適応した結果について報告しています.
6件目は筑波大学の研究グループによる,「スナップシェル:パラレル機構による面状スナップモータ」です.この発表では,小型かつコンパクトな人工拍動ポンプの開発を目的とし,弾性体の飛び移り座屈を利用した瞬発力発生機構であるスナップシェルを応用した拍動ポンプを提案しています.また実験の結果より従来研究に比較して効率が向上したことを報告しています.
これらの中から,私が特に興味を持った2件目の「ガス管本支管深部での走行が可能な空気圧駆動型管内移動ロボットの開発」と6件目の「スナップシェル:パラレル機構による面状スナップモータ」について,詳しくレポートします.
「ガス管本支管深部での走行が可能な空気圧駆動型管内移動ロボットの開発」
(早稲田大学・早稲田大学大学院・東京ガス株式会社,導管ネットワークカンパニー・早稲田大学ヒューマノイド研究所,早稲田大学理工学術院)
この発表では,Fig. 1に示すガス管内の検査を目的とした空気圧駆動型管内移動ロボットWATER-6 (WAseda Tokyo gas Endoscope Robot-No.6)を提案しています.WATER- 6ではFig. 1に示すような8か所の曲がり管とその後の分岐管を通過した後,本支管における検査に重点を置いた開発がなされています.対象としているガス管は最小内径(分岐点)が22 mmですが,最大内径(本支管)が50 mm程度です.そのため,大型なロボットはガス管内へ侵入できないうえに,ロボットが力の発生に利用可能な空間が小さいため,大きな発生力を得づらい環境です.結果的に,現在までに管路全体の検査ができていません.
先行研究では,アクチュエータの内部に引張バネが使用されていました.しかしながら,単純に引張バネを使用して大きな復元力を得る場合,引張バネの線形が大きくなり狭い管内に侵入可能な小型ロボット構築が困難でした.加えて,引張バネは伸縮時に軸回りの回転力を生むため,検査ロボットに特別な工夫なしで引張バネを使用する場合,ロボットに搭載した内視鏡により取得された映像も回転し,管内の状態確認が困難になるという課題がありました.
この発表では,著者らが先行研究において開発したロボットのアクチュエータに工夫を加えることで,狭い管内でも大きな発生力を得ることを目的としています.そこで,Fig. 2に示すような逆巻き嚙合バネを伸縮アクチュエータの構成要素としました.この変更により,小型な伸縮アクチュエータの復元力を54 Nまで増加させ,伸縮に伴う回転の発生も減少させることに成功しています.さらに,Fig. 1のモックアップ管における実験において,WATER- 6による本支管の移動を確認したことについて報告しています.
この発表において,アクチュエータの復元力を増加させるために,2つのバネを組み合わせるという発想力とそれを具現化し,モックアップ管における実験まで包括的に実施されていることから,従来のロボットでは検査が困難であった管内を検査可能とするロボットの研究・開発を大幅に進歩させる発表だったと感じました.
Fig. 1 想定するガス管の仕様.(予稿原稿 [2] より転載)
Fig. 2 逆巻き嚙合バネの模式図.(予稿原稿 [2] より転載)
「スナップシェル:パラレル機構による面状スナップモータ」(筑波大学)
この発表では,Fig. 3に示す小型かつコンパクトな人工拍動ポンプの開発を目的とした弾性体の飛び移り座屈を利用したポンプ機構を提案しています.
弾性体の飛び移り座屈を利用した拍動ポンプとしては,著者らの研究グループにより開発されたスナップモータ(帯状弾性体 (板バネ) の片側に取り付けたモータにより弾性力を蓄積し,飛び移り座屈現象によりその弾性力を一気に開放して撃力を発生する機構)を応用した拍動ポンプがすでに発表されています.しかしながら,先行研究において開発された拍動ポンプのエネルギ効率は0.7 %と低い結果となっていました.
この発表では,弾性体の飛び移り座屈を利用した拍動ポンプのエネルギ効率を向上することを目的としています.そこで,著者らは,3つのスナップモータパラレルに配置したスナップシェルを応用した拍動ポンプの提案と開発を行っています.開発されたスナップシェルを応用した拍動ポンプを用いた実験より,水を運搬する際のエネルギ効率が算出されました.結果的には,開発されたポンプのエネルギ効率は14 %となり,先行研究において開発された拍動ポンプのエネルギ効率0.7 %を大きく上回る結果となったことを報告しています.
この発表において,飛び移り座屈現象を利用した小型ポンプのエネルギ効率を大きく向上させた結果を得られたことが報告されており,エネルギ効率の向上メカニズムに関して議論されました.今後さらに研究が進み,弾性体の瞬発力により流体を押し出す際に特有な手法によりエネルギ効率の向上する手法が解明されることを期待します.
Fig. 3 拍動ポンプ(予稿原稿 [6] より転載)
以上で「2J3:フレキシブルロボット(1/2)」のセッションレポートを終わります.この他にも,「1H4:移動ロボット」「2J4:フレキシブルロボット(2/2)」のセッションについてもレポートしていますので,そちらも是非御覧ください.
参考文献
[1] 大瀬戸篤司, 和田大地, 玉山雅人, “鳥の生体模倣によるモーフィング翼の構築,” 日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,2J3-01, 2021.
[2] 小西瑶果, 先﨑翔太郎, 中村蒼子, 児玉理, 清水智壮,大貫彰彦, 前田亮, 石井裕之, 高西淳夫, “ガス管本支管深部での走行が可能な空気圧駆 動型管内移動ロボットの開発,” 日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,2J3-02, 2021.
[3] 森佳樹, 藤本光学, 片山拓哉, 城野章宏, 王忠奎, 川村貞夫, “根菜類運搬作業を目的とした柔軟エンドエフェクタの開発,” 日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,2J3-03, 2021.
[4] 佐竹祐紀, 石井裕之, “ガゼット折りチューブを用いた伸展型ソフトインフレータブルロボットの開発,” 日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,2J3-04, 2021.
[5] 小宮僚, 邵超, 関谷淳志, 水戸部和久, “関節が柔らかい弾性腱駆動ロボットアームによる手書き作業,” 日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,2J3-05, 2021.
[6] 森優也, 望山洋, “スナップシェル:パラレル機構による面状スナップモータ,” 日本ロボット学会第39 回学術講演会予稿集,2J3-06, 2021.
伊藤文臣 (Fumio Ito)
2021年中央大学大学院博士前期課程修了後,同大学博士後期課程入学.同年より日本学術振興会特別研究員 DC1,日本ロボット学会学生編集員.現在に至る.
生物を規範とした外骨格型瞬発力発生機構や,蠕動運動による管内移動ロボットに関心を持つ.
IEEE graduate student member,日本機械学会学生会員.
日本ロボット学会誌40巻5号に掲載