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第125回 物流ロボットにおける物体認識技術とハンドリング技術の最前線(実施報告)


日本ロボット学会  第125回 ロボット工学セミナー

物流ロボットにおける物体認識技術とハンドリング技術の最前線

日 時:2020年4月24日(金)10:30~17:00

会 場:オンライン開催

参加者数:225名( 86組 )

オーガナイザー:桒原 伸明(アイシン精機株式会社)

サブオーガナイザー:廣川 潤子(株式会社東芝)

 

1. セミナー概要

 近年,Eコマースの増大に伴う宅配の増加,加えて少子高齢化や人件費高騰などの理由から,物流業界のロボットによる自動化がより強く望まれています.物流センターでは従来,自動保管・入出庫,自動搬送・仕分けなどマテリアルハンドリング機器が用いられていましたが,近年,物流ロボットを利用したダンボールの積み下ろしや日用品・食品のピッキングが実働段階を迎えつつあります.そこで本セミナーでは,まず物流ロボットに起ころうとしているイノベーションについてご紹介して頂きました.さらに,物流ロボットに使われる物体認識技術およびハンドリング技術についてご紹介して頂きました.

 本セミナーでは,物流ロボットによる変革および画像認識,ハンドリングの研究に関し,主にビジネスの観点から産業応用に興味のある企業人を対象とした.また研究にビジネスの視点を取り入れたい研究者や学生も対象としました.最新の業界動向と研究の応用まで話題を提供するため,講師 2 名に業界動向について,講師 2名には研究および実用事例をご紹介頂き,合計4 話で構成する形式としました.

 また,本セミナーではCOVID-19の流行に伴い,聴講者,講師の安全を重視し,日本ロボット学会としては初めて講師,聴講者も含めて,全員遠隔から配信および受講する形式としました.(図1)

 

2. セミナー報告

2.1 第1話 物流における先端技術の活用とビジネスモデルの革新

ローランド・ベルガー 小野塚 征志 様

 本公演では,Logistics 4.0と称される物流の世界起きている変革についてご紹介いただきました.企業に所属している研究者では,なかなか気づくことができない一段上の視点から,物流ロボット,物流業界全体で起きている変革について幅広い事例をご紹介いただきました.印象的だったのは,物流業界が労働集約的な業界から,自動化により装置産業化され,大きく投資することにより業界のプラットフォーマーが現れるのではないかという予測でした.この予測は,今後の企業研究の戦略および,大学の研究者や学生の研究の方向性の立案にも参考になる内容であり,貴重な機会になったと思います.

 

2.2 第2話 目と脳を持ったケースピッキングロボット:デパレタイジングとパレタイジング

Kyoto Robotics株式会社 徐 剛 様

 本公演では,主にデパレタイジングロボットとパレタイジングロボットによる事例についてご紹介いただきました.飲料のケースなどを把持するための実用的なハンドの紹介や,物流ロボットにおけるマスタレスの重要性などご紹介いただきました.物流倉庫に実際に求められているロボットを開発し稼働させてきたKyoto Roboticsならではの講演であったと思います.また,ケースが崩れないように積む工夫など,現状開発しているシステムが多くの技術の積み重ねで実現されていることが分かりました.これらの内容は実際に物流ロボットの導入を考えている事業者の方には有益な情報になったと思います.

 

2.3 第3話 物体ハンドリングのためのロボットビジョン技術

中京大学   橋本 学 先生

 本公演では,三次元センサの分類,物体の三次元の位置姿勢を認識する技術,把持位置推定など,ピッキングに用いられる幅広い技術を俯瞰してご紹介いただきました.加えて,現在注目されている未知の一般物体のピッキングの課題について,Amazon Robotics Challengeの挑戦に基づいて紹介いただきました.実際にコンペで出題された物体を用いて実際にどの点が困難であるか,どのように対応するか解説頂き,一般物体のピッキングが如何に困難な課題であるか実感できました.最後にお茶をたてるロボットを題材として,物体の機能を認識するという先進的な取り組みを紹介いただき,今後の展開が楽しみな内容でした.

 

2.4  第4話 ソフトグリッパによる柔軟物ハンドリングへの試み

立命館大学   平井 慎一 先生

 本公演では,食品などの不定形の物体のハンドリングを実現する一つの方策として,物体と接触する部位に柔らかい材料を用いたハンドについて様々な成果をご紹介いただきました.多様なハンドの紹介があり,多指ハンド以外にも,紐で物体を囲む事で把持するバインディングハンドなどもご紹介いただきました。このようなハンドは食品だけでなく、日用品などの他の物体への応用も期待されると思います.ご講演を通して,多様な形状の物体を把持しようとする時に,把持戦略を如何に高度にしても物理的に把持できない物体が多く,その課題の解決手法として,ハンドが重要であると改めて感じました.

 

3. まとめ

 近年の物流ロボットにおける物体認識技術とハンドリング技術の実用事例に関して第一線で活躍されている講演者の取り組みを紹介させて頂きました.さらにロボット工学セミナー初の試みとして,完全に遠隔形式で御講演頂きました.

 会場聴講者の8割以上が民間企業からの参加であったことから,産業界から物流ロボットの自動化は注目されており,今後はより発展が期待されている分野であることを再認識致しました. 

 質疑応答におきましては,セミナー最後に質疑応答時間を設けた事もあり,多くの質問(21回)を頂きました.

 参加者アンケートによる講演の評価(回収数 39,回答率 24%)は,期待通り:29 票,どちらでもない:7 票,期待はずれ:3票という結果でした.講演毎の評価については,すべての講演が22票以上良い評価を得ており,全体として評価の高いセミナーだったと思います.

 今回当日の運営トラブルを避けるために,講師の方と遠隔配信システムの動作確認を行うリハーサルを実施しました.しかし,講演中,講演者 のスライドがうまく表示されなかったり,動画のコマ落ち,別の音声が挿入され聞き取りにくいといったトラブルが発生してしまいました.また,事後のアンケートでは,音声のノイズが多かった,音声が聞き取りづらかったというご意見も頂きました.参加者の皆様にはご不便をおかけしましたことをお詫び申し上げます.これらの不備につきましては,原因と対策を整理して,今後のロボット工学セミナーの運営に反映し,より良いセミナー運営に尽力いたします.

 最後に,本セミナーが今後の物流ロボット分野の発展に少しでも貢献できれば幸いです.

 

 謝辞

 ご多忙の中,講演をご快諾頂いた講師の方々,そして熱心に聴講いただいた参加者の皆様にお礼申し上げます.また,企画・運営におきましては,事業計画委員会の皆様をはじめ,ロボット学会事務局の水谷様,村上様,サブオーガナイザーをお引き受けいただいた廣川様(株式会社東芝),最終的に完全遠隔セミナーとなった為,会場をキャンセルしてしまいましたが,会場手配をご担当下さった白藤先生(東京大学)には大変お世話になりました.感謝申し上げます.

桒原 伸明(アイシン精機株式会社)