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第135回 スポーツとロボット技術(実施報告)


第135回ロボット工学セミナー実施報告書

スポーツとロボット技術

 

開催日時:2021年7月2日10:00~18:00
会場:オンライン開催
参加者数:49名
オーガナイザー:西川鋭(九州大学)
サブオーガナイザー:五十嵐広希(産業技術総合研究所)

 

セミナー概要

スポーツは道具の進歩と共に姿を変えてきた歴史があり,今後も技術進展と共に発展することが予想されます.その意味で近年のロボットやAI技術の進展が大きな影響を与えることが期待されます.また,スポーツには,俊敏性,即応性,協調性,巧みさといった様々な知能機械要素が含まれ,これらの課題に取り組むことによりロボットやAI技術自体の発展が期待できるため,題材として興味深いという側面もあります.本セミナーでは,スポーツを題材とするロボット,スポーツへのロボット技術の適用の両面のアプローチの研究者を招き,幅広く最新の成果をご講演いただきました.


第1話 ロボカップにおけるスポーツロボティクスへの挑戦

大阪大学 浅田 稔 先生

1997年から始まったロボカップ国際大会は20数年の歳月を経て,サッカーのみならず,災害救助のレスキュー,日常生活支援のホーム,生産現場での応用のワーク,そして,子どもたちのジュニアと発展してきました.本講演では,スポーツロボティクスの観点から,サッカードメインを中心に,知覚,行動,認知,学習の発展過程を振り返り,最終ゴールにむけたロードマップを提示し,達成可能性について議論していただきました.ロボカップの競技が含む個々の課題もさることながら,この取り組みを継続,発展させていく枠組みについて議論があり,質疑でも盛り上がりました.


第2話 高速・高応答な野球ロボット

広島大学 妹尾 拓 先生

スポーツのようなダイナミックな動きを実現する上で,高速性は一つの重要な指標です.本講演ではまず高速性の種類,戦略や,物体操作への様々な応用例をご紹介いただいた後に,高速ビジョンと高速アクチュエーションを統合した高応答なセンサフィードバックによる野球ロボットを紹介していただきました.野球の中心的動作としては,視覚による認識(トラッキング)と4つの基本運動(バッティング・ピッチング・キャッチング・ランニング)が取り上げられました.高速性という観点で幅広い応用先を示すことで,スポーツ技能のロボット応用の可能性を感じさせるご講演となりました.


第3話 人の可能性を引き出す卓球ロボット「フォルフェウス」

オムロン株式会社 浅井 恭平 様

オムロン株式会社では,オムロンユニークな人と機械の関係性「融和」を訴求するため,7年間にわたり人の可能性を引き出す卓球ロボット「フォルフェウス」を継続的に開発しています.卓球は,考えながら高速なラリーをすることから「100m走をしながらチェスをするようなスポーツ」と呼ばれており,挑戦的な課題です.本講演では,そんな卓球というスポーツをフォルフェウスに実行させるための技術や,ラリーを通して人の可能性を引き出すメタAI技術について紹介いただきました.個々の技術要素の完成度の高さが目を引き,今後の発展への期待を感じさせるご講演でした.


第4話 力学シミュレータとヒューマノイドロボットによる水泳研究

東京工業大学 中島 求 先生

スポーツとしての水泳は,物理的に見て非常に複雑な現象であり,力学的な研究対象として大変チャレンジングです.演者らはこの水泳に対し,ロボティクス的アプローチとして,全身の関節運動を与えて,泳速度などが結果として求まる力学シミュレータを開発し,さまざまな応用研究を行ってきました.またシミュレータの検証を目的として,泳ぐヒューマノイドロボットの実機も開発しています.本講演ではこれらの内容について紹介いただきました.パラリンピックへの適用例のついての紹介もあり,聴講者からシミュレーションによる最適化についての質問も多く飛び交い,更なる研究の進展,応用によるスポーツ技能の発展への貢献を期待させるものとなりました.


第5話 超人を創る,スポーツを創る

東京大学 稲見 昌彦 先生

本講演では,バーチャルリアリティ,ウェアラブル技術,ロボット工学を用いて,人間の認識,行動を支援することを可能とする人間拡張工学に関する研究事例を示すとともに,その社会実装としての超人スポーツの取り組みを紹介していただきました.さらに,技術が人間の身体観の変化にどう影響を与えてきたか,そして我々の身体観は今後どのように変化してゆくのか,スポーツ創造と身体の未来に関し具体例を紹介しつつ論じていただきました.人間の身体拡張ということで,今までにない体験を含み,試して初めてわかることも多いなど,技術と身体運動の組み合わせの可能性を感じさせるご講演でした.


第6話 3DセンシングとAIによる体操採点支援システム

富士通株式会社 佐藤 卓也 様

富士通ではFIG (国際体操連盟)と共同で体操採点支援システムの開発をしています.体操採点支援システムは,LiDAR方式の3Dレーザセンサで取得した3次元点群から,機械学習と幾何モデルフィッティングにより選手の3D骨格座標を求め,ルールベースやDeep Learningによって技を認識してアプリ画面上に表示します.本講演ではシステムの概要や各機能の説明,国際体操連盟との取り組みの紹介をしていただきました.各種スポーツ競技で機械による判定の補助が進むなか,体操競技ならではの特性も踏まえた,実際に現場で用いるシステムの開発の貴重な事例のご紹介となりました.


まとめ

本セミナーでは,スポーツに関わるロボット技術について様々な観点からご講演をいただきました.幅広くご講演いただいたため,一見するとばらばらな内容に見えるところもあると思います.しかし,講演や質疑の中で他講演者の内容への言及が見られるなど,共通する話題もあり,それぞれの研究の方向性を1歩引いたところから見るきっかけになることで,関係性の発見や発展可能性が見られる有意義なセミナーになったと思います.
遠隔配信でのセミナーの回数も増えてきました.今回のセミナーでも質問はSli.doで受け付けたのですが,長所,短所両方あるように感じます.利点としては,匿名が可能なため質問への心理的障壁が低い,自由なタイミングで書き込めるため質問を多く集めやすい,また,今回のセミナーでは講演中に書き込まれた質問に答えつつ進めるという形式で進めた講演者もいたように講演者の話を強制的に遮ることなく必要に応じてインタラクティブに講演を進められる,といった点が挙げられます.短所としては,基本的に1往復のやりとりになってしまうことで議論の発展をさせづらいという点が挙げられ,この点に関しては改善策を探っていく必要があると思います.セミナーにおいては,質疑を含んでインタラクティブに話を聞ける点は重要と考えるため,今後一層の工夫が求められると考えます.


謝辞

ご多用のところ快諾いただいて素晴らしいご講演をいただいた先生方にまず感謝申し上げます.またこのセミナーにご参加頂いた参加者の皆様,質疑やアンケートに積極的にご参加頂いた皆様にお礼申し上げます.本セミナーの企画におきましては,日本ロボット学会事業計画委員会の皆様方,特に前委員長の新妻実保子先生(中央大学),現委員長の島圭介先生(横浜国立大学)には企画案や進め方へのご意見を頂き,大変お世話になりました.サブオーガナイザーの五十嵐広希様にはSli.doでの質問書き込みの障壁を下げるために最初に簡単な質問をして一度書き込んでもらうことをご提案いただくなど,運営の補助にとどまらず有益なご意見を頂きました.日本ロボット学会事務局の皆様,特に村上ちほ様には運営全般に渡り大変お世話になりました.心より感謝申し上げます.

 

文責 西川鋭(九州大学)