著者:
日本ロボット学会 監修、香月理絵 編著
荒井幸代・大前学・大日方五郎・川崎敦史・橘川雄樹・小林祐一・菅沼直樹・田崎豪・谷沢昭行・新田修平・野呂瀬琴・馬場厚志・藤吉弘亘・目黒淳一・森出茂樹・谷口敦司・山下倫央 共著
情報:
ISBNコード:978-4-274-22701-1
発行所:オーム社
体裁:A5版、400頁
定価:3,800円(税別)
発行年月:2021年4月
少し逸れた話から始めさせて頂きますが,私は2011年から研究室に配属され,つくばチャレンジ(自律移動ロボットの技術チャレンジ)を通して,研究のあれこれを学びました.そして2016年度より,自動運転に関する研究に従事してきました.つまり私の研究の大元には,自律移動「ロボット」があり,自動運転も私からしたら「ロボット」に見えるのです.しかし自動運転の研究を始めてから,研究議論中にふと私が「ロボットは」と言うと,「自動運転車はロボットですか?」とよく質問されました.使われる技術はほぼ同じでも,ロボットと自動車だとどうやら違うものと認識されることが多いようです.
なぜこの様な話をしたかというと,この様な認識が日本の自動運転の進化を妨げたのではないかと感じているからです.つまり,自動車屋さんとロボット屋さんの繋がりが上手くいっていないのではないか,と思ってしまっているのです.私事ですが,2017年,ロサンゼルスで開かれたIntelligent Vehicles Symposiumに初めて参加したとき,ある中国人研究者から,「日本は自動車とロボットの国なのに,なぜ自動運転に関しては遅れているのか?」と聞かれました.私は返答につまってしまいました.この様な経験があるため,「ロボットの分野で活躍されるトップの研究者の方々が,自動運転に関する書籍を日本語で発刊した」ということに関して,この分野の発展へのすばらしい貢献であると感じ,それを言いたいがためにこの様な話をしました.
本書の良い点・悪い点
良い点
本書は機械学習,特に深層学習を中心に自動運転をまとめています.これは「オーソドックス」な自動運転を経験してきた者からすると新鮮です.自動運転では「モデルベース法」が主流といえます.そのためおおよそ自動運転に関する本は,モデルベースの話をまとめています.
一方ロボット屋さんは,良くも悪くも適当であり,良い技術をシステムにうまく組み込める器用さがあると感じています.自律移動において機械学習を「うまく」適用する術はまだ確立していると言い難いと思いますが,この様な書籍は,時代の変化に適応した良い入門書であると思いますので,新たな技術の確立への道を加速させてくれるものになると期待できます.
悪い点
深い技術は学べません.本書の狙いは「深層学習を軸とした自動運転技術への入門」にあると察しました.そのため,これを批評することはお門違いとも思いますが,本書を読んだだけで自動運転とは何か,が真に深い所まで理解できるわけではない,ということを理解して頂きたく,敢えて批評させていただきます.
また私の専門は自己位置推定なので,敢えて厳しく言うと,自己位置推定に関する機械学習の活用例がほとんど取り扱われていないところは少し残念でした.しかし,基礎的な話は幅広くまとめられていますので,これをベースに発展に繋げることを前提とすれば良いと思います.
結論
良書であると思います.以下端的な理由です.
- ロボット屋さんらしい切り口で自動運転を網羅的に解説している(位置推定やSLAMから始まり,物体認識から制御まで)
- 機械学習を含めて,最新の自動運転で使われている技術が満遍なく学べる
(赤井直紀 名古屋大学大学院工学研究科)