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【書評】浅田稔のAI研究道 ―人工知能はココロを持てるか


浅田 稔 著

発行 近代科学社(2020年)

 

未来のAIロボット研究者への道標

 近年AI研究は深層学習の発展から爆発的に増加し,実社会や企業においてその存在を認識され利用されるほどに浸透している.本書はこうした大量データと超高速プロセッサーの力ずくによる量の課題解決のアプローチに対して疑問を投げかけるもので,量を桁違いに増やすことでの質の課題解決を行う方向性ではなく,人工物との共生社会に必要な心的機能の実現 [ココロの創成課題]に取り組むことで質の課題解決達成を目指してきた研究の軌跡である.本書は対談やコラムを交えながらロボティクスやAIの若手研究者にとって多くの刺激的な情報を与えてくれ,歴史を知ることができ,研究者としての道を切り開くためのアドバイスを与えてくれる.本書の内容としては人工視覚,自律性,認知発達ロボティクス,情動から共感,脳神経系の構造と身体との結合,身体表現,共同注意,模倣,人工痛覚,音声,言語,社会脳など幅広い内容が分かり易くまとめられておりこの分野の学問を知るための最初の一歩として非常に適していると考えられる.また既に専門性を持っているAIやロボティクスの研究者にとっても様々な方向性から新たな知見を与えてくれる可能性がある.

 

 いくつか興味深い記述を以下に記載する.

  • スモールドネットワークとレザバー計算.隠れ層の相互結合のレザバー層を含めた再帰型ネットワークの計算手法の一種で入力から隠れ層への重みを固定し隠れ層から出力のパラメータのみを学習する高速簡易化した計算手法であり,レザバー部分のネットワーク結線構造としてスモールワールドネットワークが大脳皮質のモデルとして注目されている.
  • 最近のMirror Neuron System(MNS)学習モデルとしてMNSの働きは運動の観測からの運動指令の想起だけに限らずtouching sightのような自分の腕が触られていなくとも視覚という感覚の観測から自身の腕が触られているような感覚想起のモデルが提案されている.深層型オートエンコーダを用いた複数感覚・運動信号の予測学習をロボット用いて達成している.学習認識過程で重要なことは同時に触覚や運動指令も想起されている点でありこれは心的機能の実現につながる.

 

 誌面の都合上この二つに絞ったが他にもAIロボット研究の視点から興味深い内容が多く盛り込まれている.AI黎明期においてロボティクスの知能がどの様に研究されていったのか知るために重要であり,またこうした脳や神経系,認知の研究に基づく新たな研究のアイディアが得られる可能性があると言えるだろう.これから研究を始める学生や現在研究に取り組んでいる若手研究者にはぜひ読んでいただき,自分の研究道の一つの道標として欲しい.

 

(有木由香 ソニー)