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【書評】ロボット工学ハンドブック(第3版)


著者:

日本ロボット学会編

編集委員長:菅野重樹

編集委員:長谷川泰久(Ⅰ編主査),原田研介(Ⅱ編主査),尾形哲也(Ⅲ編主査),永谷圭司(Ⅳ編主査),倉林大輔(Ⅴ編主査)

 

情報:

ISBNコード:978-4-339-04679-3
発行所:コロナ社
体裁:B5判,上製,箱入り,1086頁
定価:38,000円(税別)
発行年月:2023年3月

 

 

 満を持して,ロボット工学ハンドブック(第3版)が出版された.2005年発行の新版ロボット工学ハンドブックから,なんと18年が経過しており,菅野編集委員長のまえがきにある通り,全面改訂である.その内容からは,第3版とすべきか,新刊とすべきか迷ったとあるくらいの膨大な加筆と新規内容の追記である.実は,評者が副会長時代,今回の出版に際し,「ロボット工学」ではなく,学会名称の「ロボット学」に改めるべきと理事会で議論し,菅野委員長と直談判したのは,2018年8月1日の羽田空港の第2ターミナル4F のドンサバティーニであった.出張の最初の日で,このあと,国際シンポを始め,4日間の超過密スケジュールだったので,あまり時間が取れなかったことを覚えている.伏線として,2019年から学会誌の通称を「ロボ學」にして,改定することが決まっており,その件もあって,ハンドブックの名称を「ロボット学」にすべきではとお願いしたが,結論として,時期尚早となった.評者はいまでも,「ロボット学ハンドブック」でも良かったかと信じている.それは,体系化された結果ではなく,技術の進展とともに常々アップデートしていくことを一学問分野としてのロボット学のフィロソフィーとしたいからでる.この判断を読者におまかせするとして,中身を見てみよう.

 


図1ロボット工学ハンドブックの目次の変遷


 図1は,これまでのハンドブックの目次の変遷である.1990年版から2005年版への目次の変化はそれほど大きくなく,各項目の内容の情報更新程度である.しかし,今回の第3版への変化は大きく,あえて矢印で対応をつけたが,第I編「ロボット学概論」は, 1章の「ロボットの学問の体系化」を除けば,ほぼ新規内容である.2章の「ロボットのマイルストーン」では,大型の研究開発プロジェクトの紹介を始め,競技会や関連学会の紹介,5章の「ロボットと起業」ではベンチャー育成につながる事例が紹介され,さらに,6章の「ロボットと知的財産権」や7章の「生活支援ロボットと安全性と社会実装のためのシステムデザイン」の項目が設けられ,社会実装のさまざまなケースが扱われている. しかし,今回の大きな柱と評者が捉えるのは,8章の「人間科学とロボティクス」である.ここで,認知科学,発達心理学などが盛り込まれ,ロボット学の学術的意味を深める領野である. これは,評者が提唱・推進してきた「認知発達ロボティクス」の分野であり,今後も発展が望まれる. さらに,10章の「日本におけるロボット競技会」では,ロボカップをメインとするロボット競技会の説明であり,ロボカップ創設者の一人として喜びを感じる.


 そして,11章の「ロボットと哲学・倫理」,12 章の「ロボットと文化・社会」,13章の「ロボットの法と保険」と続き,人文社会系の学問分野におけるロボットの意味,意義,価値などが詳細に議論されている. 14章の「エンターテインメントロボット」,15章の「ロボットと物語」などでは芸術分野との関連が,そして,16章の「ロボットによる未来社会」ではアバターを始めとして,最新テクノロジーが醸し出す新たな社会課題などが扱われており,読み物としても十分楽しめる内容だ.


 もちろん,これ以降の編も18年間のギャップを埋めるべく,最新情報が盛り込まれており,ロボット関連の研究・開発者の座右の銘はもちろんのこと,他の分野の方々にも十分楽しんでもらえるとともに,何らかの機会に出会うかもしれない課題解決のヒントにもなるだろう. これだけの内容の執筆・編集には多大な労力が払われたことは察するに難くなく,菅野編集委員長を始め,執筆者の方々には感謝申し上げる.


 最後に蛇足かもしれないが,この時代なので,電子書籍化をお願いしたいし,次回はマルチメディアのオンライン版を切望する.


(浅田 稔 大阪国際工科専門職大学,大阪大学)