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学生編集委員会企画:第38回日本ロボット学会学術講演会レポート(一般セッション:産業用ロボット・自動化システム)


2020年10月10日
青山学院大学大学院 1年 工藤 聖人


 2020年10月9日から11日にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第38回学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.


 今回レポートするのは,セッション2日目,10月10日の午後に開かれた「産業用ロボット・自動化システム」になります.人とロボットが協働するための最先端技術が9件紹介されました.


 まずは,ざっとプログラムを紹介します.
 1件目は,奈良先端大学のグループによる「変形物体を含む製品の組立作業計画を考慮した3次元CADモデルからの組立順序作成」です.3次元モデルを入力として,部品同士の接触による拘束や挿入条件を考慮した組立順序を決定する手法を提案されました.
 2件目は,大阪大学,産業技術総合研究所のグループによる「イラスト入り組立説明書を用いた組立作業シーケンスグラフの生成」です.言語情報ではなくイラストを情報としたロボットの動作設計手法を提案されました.
 3件目は,九州工業大学のグループによる「人-ロボット協働課題における状況理解と作業手順生成のための知識データベース設計」です.弁当の詰め作業を想定しており,知識データベースから規則によってロボットが行うべき動作を推論しました.
 4件目は,九州工業大学のグループによる「物流システムの動的最適化に向けた線形計画法の検討とソルバーの標準的比較に向けた取り組み」です.物の流れを効率的な形で設計し,保管・搬送を最適化する手法を倉庫問題に対して提案されました.
 5件目は,株式会社アールティのグループによる「協働ロボットの人型デザインと安全のための表示器に関する試作研究」です.人と協働する上で,ロボットの状態の把握しやすさや安全面などに着目したロボットのデザインを検討されました.
 6件目は,株式会社アールティのグループによる「食品工場向け協働ロボットの3Dプリンタ外装に関する試作研究」です.食品を扱う上で,衛生面や異物混入防止を考慮したロボットの設計を行いました.
 7件目は,山梨大学大学院のグループによる「垂直多関節ロボットを用いた液体容器傾動による注水流量制御」です.容器傾動や前後上下運動によって,所望した注水流量を注ぐ高精度な注水制御システムが紹介されました.
 8件目は,長岡技術科学大学,石川工業高等専門学校のグループによる「慣性モーメントのリアルタイム代入FDTD動力学補償器を用いた産業用ロボットの位置制御法の提案」です.従来手法と同性能でありながら,その設計工数を少なくすることを可能とした手法が提案されました.
 9件目は,株式会社神戸製鋼所のグループによる「アーク溶接ロボットにおけるケーブル引張による先端ずれ補正のための関節剛性同定」です.ロボットの手先付近に接続されているワイヤ・ケーブルの外力により発生する手先位置ずれを,高精度で補償する手法が提案されました.


 これらの中から,私が特に興味を持った7件目の「垂直多関節ロボットを用いた液体容器傾動による注水流量制御」について,詳しくレポートします.


「垂直多関節ロボットを用いた液体容器傾動による注水流量制御」

 医薬品や化粧品,食品を製造する三品産業,鋳造産業など様々な産業で液体が扱われています.その中でも手作業で行う液体薬品の調合作業には,ロボットアームの注ぐ動作を応用できるように考えられます.しかし,従来研究では一つの製品を作ることに特化しているため,多品種少量生産を求められる企業では汎用性や導入コストが課題となっています.このような研究背景から,所望の注ぎ方に対応でき,様々な場面に応用可能であることを目的としたロボットシステム(図1)が開発されました.



図 1:注水ロボット(予稿原稿[7]より転載)


 注水流量制御を行う際に,容器の中心を回転させる場合(図2)と注ぎ口先端を中心として回転させる場合(図3)を考慮していました.言われてみれば確かにそうだと思ったのですが,普段私たちも容器に飲み物などを注ぐ際に,注ぎ口を容器にあて,その点を軸として回転させていました.無意識だから思いもしませんでしたが,これには高注ぎによる液跳ね防止,落下起点を一定に保つことなどを可能にしているそうです.



図 2:容器傾動(予稿原稿[7]より転載)



図 3:容器傾動・搬送同期制御(予稿原稿[7]より転載)


 図4は注ぎ口を中心として回転させた場合の注水動作の様子を示しています.



図 4:搬送同期制御をした注水動作(予稿原稿[7]より転載)


 また,発表時には実験の様子が動画で紹介されました.動画を直接お見せできないのが残念ですが,いくつかの実験結果をレポートします.図5に示されているのは,目標注水流量を300gに設定した際の実験結果になります.グラフからわかるように,高精度で目標注水流量に達しています.



図 5:フィードフォワード制御による実験結果(予稿原稿[7]より転載)


 図6に示されているのは,先ほどの目標注水量300gを100gずつ3回連続して動作を行った結果を示しています.10[sec],15[sec],20[sec]付近で正確に100gずつ注がれていることがグラフからわかります.ここで重要なのは,注ぐことによって元の内容量が変化しているにもかかわらず,高精度で注ぐことが可能であるということです.これは,内容量変化により液体流出開始角度が異なる場合でも高精度な動作をすることを意味しており,ロボットシステムの汎用性の高さを示していると感じました.



図 6:3段階注水の実験結果(予稿原稿[7]より転載)


 このほかにも,10gという少量を1秒足らずで注ぐ実験などが行われていました.どの実験でも驚くほど短時間で正確な動作をしており,「すごい!」とミュートにしてなければ結構響きそうな声を出してしまいました.


 最先端の技術を用いた研究ばかりでとても難しいと感じましたが,自分なりにレポートできたかなと思います.以上で「産業用ロボット・自動化システム」のセッションレポートを終わります.この他にも,「教育用ロボット」のセッションについてもレポートしていますので,そちらもぜひご覧ください.


[講演プログラム]
2D3_GS10 産業用ロボット・自動化システム
[1] 2D3-01 変形物体を含む製品の組立作業計画を考慮した3次元CADモデルからの組立順序作成
〇清川 拓哉(奈良先端大),田力 健人(奈良先端大),高松 淳(奈良先端大),小笠原 司(奈良先端大)
[2] 2D3-02 イラスト入り組立説明書を用いた組立作業シーケンスグラフの生成
〇世良 一成(大阪大),山野辺 夏樹(産総研),Ramirez Ixchel(産総研),小山 佳祐(大阪大),万 偉偉(大阪大),原田 研介(大阪大)
[3] 2D3-03 人-ロボット協働課題における状況理解と作業手順生成のための知識データベース設計
〇白澤 夏樹(九工大),我妻 広明(九工大)
[4] 2D3-04 物流システムの動的最適化に向けた線形計画法の検討とソルバーの標準的比較に向けた取り組み
〇仮屋 拓真(Kyutech),我妻 広明(Kyutech)
[5] 2D3-05 協働ロボットの人型デザインと安全のための表示器に関する試作研究
〇塩谷 昌行((株)アールティ),石川 真也((株)アールティ)
[6] 2D3-06 食品工場向け協働ロボットの3Dプリンタ外装に関する試作研究
〇岩本 大((株)アールティ),中川 範晃((株)アールティ)
[7] 2D3-07 垂直多関節ロボットを用いた液体容器傾動による注水流量制御
〇雨宮 敦(山梨大・院・医工農学総合教育部),野田 善之(山梨大・院・総合教育部工学域)
[8] 2D3-08 慣性モーメントのリアルタイム代入FDTD動力学補償器を用いた産業用ロボットの位置制御法の提案
〇溝 大貴(長岡技術科学大学),大石 潔(長岡技術科学大学),宮崎 敏昌(長岡技術科学大学),横倉 勇希(長岡技術科学大学),矢吹 明紀(石川工業高等専門学校)
[9] 2D3-09 アーク溶接ロボットにおけるケーブル引張による先端ずれ補正のための関節剛性同定
〇小池 武(神戸製鋼所),大根 努(神戸製鋼所),西田 吉晴(神戸製鋼所)