日本ロボット学会 第129回 ロボット工学セミナー 実施報告
福島復興で活躍するロボット
日 時:2020 年 10月 21日(水)9:20~17:10
会 場:オンライン開催
参加者数: 45名
オーガナイザー:山田 大地(日本原子力研究開発機構)
サブオーガナイザー:廣川 潤子(株式会社 東芝)
1. セミナー概要
2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所(以下,1F)事故以降,懸命な復興作業が継続されています.2020年現在1Fサイト内では2号機の燃料デブリ取り出しに向けて作業が進められ,事故後一部不通となっていたJR常磐線が今年3月に9年ぶりの全線開通となったこと等,着実な進展がみられます.一方で,安全・確実に廃炉作業を進めることは決して容易ではなく,また,福島県内には未だ帰還困難区域が設定されており,福島復興完了までの道のりはまだ遠いとも感じます.このような中,放射線環境下で人に替わって作業するロボットは,原子炉建屋内の作業や環境中の放射線の調査等で活躍し,福島復興に欠かせないものとなっています.同時に今後も福島復興を推進するためにロボット工学に対する期待は大きなものとなっています.
本セミナーでは,今後の福島復興におけるロボット技術に対する課題や期待について考えるため,ロボット工学を専門とする講師2名に専門家の観点から,ロボット技術を用いて福島復興に取り組む講師2名にユーザの観点から福島復興で用いられるロボット技術のご紹介をいただきました。
また,本セミナーではポストコロナへ向けた新しい試みとして,テレビ会議システムによる遠隔配信にて福島県内のロボット試験施設である楢葉遠隔技術開発センターの見学を実施しました.
2. セミナー報告
2.1 第1話 福島第一原子力発電所の廃炉において求められるロボット技術・遠隔技術
東京大学 淺間一 先生
本講演では,東日本大震災の地震と津波による全電源喪失にはじまる1F事故に関して,事故直後の緊急時の対応から,原子炉の安定化,廃炉までロボット作業を網羅的にご紹介いただきました。また,これらの作業で見られる成功例・失敗例を整理して説明いただき,それをもとに今後1F廃炉で求められるロボット技術についてご意見を述べられました.
2.2 第2話 福島第一原子力発電所の廃炉用ロボットの開発 ~課題と必要技術
国際廃炉研究開発機構 新井民夫 先生
本講演では,事故後の原子炉の廃炉について,これまで実施されたロボット作業及び2020年現在進められているデブリ取り出しについてご紹介いただきました.原子炉建屋内の状況からはじまり,そこで想定される作業の工法,その工法で要求されるロボット技術まで構造的にわかりやすく解説いただきました.また,最後に紹介された廃炉作業をそこで開発されたロボットを通してロボット学の研究者に期待されるものについてご意見を述べられました.
2.3 楢葉遠隔技術開発センター見学 遠隔配信
ロボットの試験施設である楢葉遠隔技術開発センターの見学では施設内の設備や利用例について
ご紹介いただきました.新型コロナウイルスの感染防止のため,屋内でドローンを飛行させることもできる試験棟の大空間にカメラを入れ,適宜設備の説明いただきました。また,センターで実施されている2号機デブリ取り出しに関する試験について模擬の試験環境を見ながら解説があり,1F廃炉のためのロボットの開発がどのように進められているか見る機会となりました.
2.4 第3話 福島第一原子力発電所事故により飛散した放射性物質を“見える化”する遠隔放射線イメージング技術の開発と実証
日本原子力研究開発機構 佐藤優樹 先生
本講演では,小型軽量化したガンマ線の計測装置の開発と,それを用いた放射線源を見える化する取り組みについてご紹介いただきました.小型軽量化したガンマ線の計測装置をロボットへの搭載し,LiDARやカメラによる地図作成技術を合わせることでホットスポットがある個所を視覚的にわかりやすく提示しておられました. 作業員を被ばくから守るためにロボット技術の1Fサイト内で活用されている具体例な事例であり,質疑ではガンマ線の計測についてロボット技術への要求等について議論されました.
2.5 第4話 環境放射線モニタリングを高度化する無人機 – 1F事故の対応から原子力防災ツールへの適用 -
日本原子力研究開発機構 真田幸尚 先生
本講演では,1F事故の放射性物質の飛散により汚染されたため,無人飛行機を用いた広域を”面”でとらえるモニタリングや,水中ロボットを用いた河川や海域の調査についてご紹介いただきました.また,これらの知見をもとに原子力災害時の無人飛行機による放射線モニタリングへの適用にも取り組まれており,環境モニタリングおけるロボット技術の活用例や課題についてお話いただきました.
3 まとめ
福島復興においてロボットは人に代わって危険な箇所で作業するために用いられ,これは社会からロボットに対する要求の最たるものといえます.しかし,1F事故は過去に例がないものであり,さらには原子炉建屋の内部には未調査の部分もあるため,どのようなロボットがあればよいか明確にならない難しさがあります.このため,まずはこれまでの成功・失敗,そして福島の現状を多くの方に知ってもらうことが重要と考え,講師の方々に福島復興に関する貴重な経験とそこから得られた知見をご講演いただきました.
最後に,本セミナーが福島復興とともにロボット工学の発展の一助となれば幸いです.
謝辞
本セミナーの開催にご理解くださり,ご多忙な中ご講演いただきました講師の方々,そして熱心にご聴講いただきました参加者の皆様にお礼申し上げます.また,企画・運営について数々のご助言・ご助力をいただきました日本ロボット学会事業計画委員会の皆様,事務局の細田様,水谷様,村上様,サブオーガナイザを務めていただきました廣川様(株式会社 東芝)に感謝申し上げます.
山田 大地 (日本原子力研究開発機構)