第147回ロボット工学セミナー実施報告
「ロボティクスと最適化の今と未来」
日時:2023 年7 月26日(水)9:50~17:30
会場:キャンパスプラザ京都 第三講義室、オンライン(Zoom)
参加者数:オンサイト24名、オンライン80名
報告者(オーガナイザ):オムロン株式会社 井上聖也
セミナーURL:https://www.rsj.or.jp/event/seminar/news/2023/s147.html
セミナー概要
数理最適化やベイズ最適化といった最適化と名の付く技術を機械やロボットに適用するにはどういった方法があるのか、なにが難しいのか、適用してどんなうまみがあるのか、そういった興味から本セミナーは企画されました。
第1話:組合せ最適化による問題解決の実践的なアプローチ
大阪大学 梅谷 俊治先生
特に、組み合わせ最適化問題と呼ばれる問題を主題に、これまで先生が当たってきた事例を紹介頂きながら、難しさや、定式化のポイントなどについて解説頂きました。なかでも、“クライアントとの向き合い方“は思ってもない視点でした。
第2話:ベイズ最適化の基礎と応用
東京都立大学 豊田 充先生
ベイズ最適化の基本的な概念と探索アルゴリズムを、分かりやすい実行例を用いて説明頂き、制御問題へ適用した際の課題や利点などを、ご自身の研究経験を踏まえて解説頂きました。質疑応答では、適切なハイパーパラメータの設定方法などについて多くの質問が寄せられました。
第3話:モデル予測制御の考え方と使い方
京都大学 大塚 敏之先生
モデル予測制御(MPC)の基礎的な考え方と、それが有効に働くこれまでの研究事例をご紹介頂きました。そして、更にそれらを実現するために重要な実時間最適化手法について触れ、先生らが開発してきた最適化ツールの有用性をご説明頂きました。高速最適化が可能にしたという、四足ロボットのような非常に複雑な系の制御は圧巻ものでした。
第4話:機械学習モデルに基づく最適制御設計の諸課題と対策
豊田中央研究所 森安 竜大様
MPCと機械学習を組み合わせたエンジン制御の研究例をご紹介頂きました。単純に組み合わせると制御指令が不連続になったりする問題を、数学的に素性のよい特殊なニューラルネットワークなどを駆使して解決しており、学術的にも実用的にもかなり注目されるべき技術でした。
第5話:ロボットと機械学習が科学的知見を発見する時代がやってきた
東京大学 一杉 太郎先生
ベイズ最適化やロボット技術などを活用して、高性能素材の探索を行う取り組みをご紹介頂きました。人手で探索するには広すぎる新素材の探索空間を、如何に取り扱うべきか、これまで既にいくつかの企業や団体と協力して進めていらっしゃる実験室のシステム化・クラウド化のプロジェクトの実績と今後の展望を語って頂きました。
アフタートーク
5人の先生とオンサイト参加者の皆様方で、ざっくばらんに最適化やロボティクス技術に関して語り合いました。オーガナイザが予め準備した話題に加えて、参加者の方からの質問などもお受けし、1時間程の時間はあっという間に過ぎてしまいました。特に印象深かったトークのひとつが、「最適化チームとコラボレーションする際に最低限身に付けておくべき技術レベルはどの程度のものか」といった旨の話題で、異分野の先生方を集めたからこそできる視野の広い議論を繰り広げてくださいました。
なお、このイベントは、近年のセミナーの実績から、オンライン参加に極端に申し込みが偏る事が想定されたため、オンサイト参加への特典の一部として催しました。最終的に、参加者の割合はやはりオンラインが多くなりましたが、一定数のオンサイト参加者を迎える事ができました。
まとめ
本セミナーでは、5人の先生方から、“最適化”をキーワードに、理論寄りから実用寄りまで様々なお話を頂きました。この“最適化”に関して、実は敢えて定義を緩くして登壇者を募りました。数理最適化やベイズ最適化を同じ土俵で語るのは危険な行いだったかもしれないと少し反省する一方、様々な手法や研究モチベーションを知る事ができ、参加者の創造力を刺激するよい機会になったのではないかと大いに思います。
また、コロナ渦以降、オンライン開催で行われることが多かったロボット工学セミナーでしたが、本セミナーではハイブリッド開催で執り行う事ができました。これにより、より一層濃いイベントになったかと思います。例えば質疑応答では、会場参加者と登壇者の対話に触発されたかのようにして、オンライン参加者からの質問が投稿される場面がありました。オンラインの「参加しやすい」という利点も残しつつ、可能な方は現地に来てもらい、インタラクティブな議論によってセミナーを一緒に盛り上げてもらうというのはとてもよいセミナーの形だと感じました。ただし、オンサイトの現場とオンラインのシステムどちらをも管理する必要があり、そのあたりの手間や労力の削減にはまだ少し課題があります。
最後に、ご多忙の中快く講演を引き受けてくださいました先生方。運営を支えてくださいましたロボット学会事務局、サブオーガナイザの坂井様、ご参加頂きました全ての方々に心から感謝申し上げます。