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第136回 組立動作の自動制御技術(実施報告)


第136回ロボット工学セミナー実施報告書
組立動作の自動制御技術


開催日時 2021年9月1日10:00 – 16:50
会場 オンライン開催
参加者数 87名
オーガナイザ 沖 賢太朗(オムロン株式会社)
サブオーガナイザ 岩本 憲泰(信州大学)


セミナー概要

近年の少子高齢化に伴う労働力不足の問題を背景に,生産現場では未だに多くの人手を伴う組立作業をロボットで自動化することが求められています.従来は,治具を使って組立対象物の位置の変動を少なくした上でロボットに目標位置を直接教示することで対応していましたが,近年の多品種少量生産の需要から,治具をなるべく使わず,組立対象物が接触したときの状況に応じて柔軟に対応するようにロボットを制御する技術の必要性が高まっております.こういった背景から,本セミナーでは,大学および企業において「接触を伴う柔軟で巧みな動作を実現させるための技術」の第一人者としてご活躍されている先生方を講師にお招きし,最新の研究成果を交えてご講演いただきました.


第1話 組立作業の自動化のためのマニピュレータのプランニング,マニピュレーション技術

大阪大学 原田 研介 先生

組立作業を自動化させるためには,対象物をうまく「把持して」「操作する」ための計画を自動で生成する必要があります.本講演では,まず,ロボットの把持計画の基本的な考え方として,把持の種類と対象物形状のプリミティブ表現を用いた探索問題に落とし込むことで様々な物体の把持が可能であることをご説明いただきました.また,その考え方を応用して「ものを把持可能な空間」と「ものを操作可能な空間」をグラフで表現することで,物体の片手持ち替え作業や同じ物体同士をいろんなパターンで組み立てるなど,複雑な作業を表現可能であることをご紹介いただきました.最後に,さらにそれらを応用して簡単なレシピや説明書の文章に基づく動作の自動生成に関する研究のほか,新規グリッパの開発や力制御パラメータの自動調整など最新の研究成果をご紹介いただきました.まるで作業者を教えるようにロボットに接触作業の教示が可能な未来をリアルに感じるご講演でした.


第2話 近接覚センサと小型・低摩擦アクチュエータによる高速・低反力マニピュレーション

大阪大学 小山 佳祐 先生

ロボットが人のように組み立て作業を行うためには,人が無意識に行っている対象物の位置のずれを修正するための感覚系・運動系がロボットにも必要です.本講演では,まず,感覚系の最新研究成果として,ロボットの指先に設置可能なサイズの次世代近接覚センサについてお話しいただき,対象物-センサ間の距離計測方法の一新と独自チップの開発により,従来のセンサで検出困難な鏡面・透明体を含む多様な表面物体の位置姿勢を高速・高精度に認識できることをご説明いただきました.また,運動系の最新研究として,ロボットの指先に組み込む次世代アクチュエータについてお話しいただき,歯車部に磁石を用いることで,小型・低摩擦かつ高速・広ダイナミックレンジな剛性制御が可能となることをご説明いただきました.いずれもデバイスとしての完成度が高く,組み込んだロボットの動作も人間のように高速であることから,今後の実用化に期待を感じるご講演でした.


第3話 バイラテラル制御に基づく模倣学習による高速汎用物体操作

筑波大学 境野 翔 先生

人のように巧みな接触動作をロボットで実現する場合,「作業中の力加減をどのようにうまくロボットに教えるか」という問題は非常に重要です.本講演では,まず,遠隔デバイスを用いて,ロボットに作業の位置と力加減を同時に教示するためのバイラテラル制御の基本的な考え方についてご紹介いただきました.また,最新の研究成果として,バイラテラル制御と深層学習を組み合わせることで,人の作業中の細かな力加減の模倣学習が可能であることをご説明いただき,独自の位置・力制御系と組み合わせることで,消しゴムで字を消す,定規で線を引く,人と協調して食材を盛り付けるといった従来のロボットでは教示が難しいタスクを,少ない学習データでも,多少の環境変動があっても正常に実行可能なレベルまで学習可能であることをご紹介いただきました.バイラテラル制御について基本的な考え方を抑えつつ,最新の取り組みの内容についていっそう理解が深まるご講演でした.


第4話 深層学習とロボティクスを用いた実世界環境での学習と適応

株式会社 Preferred Networks 高橋 城志 様

ロボットによる接触作業は,対象物の形状が複雑な場合にモデル化が困難であることから,近年,深層学習を用いる研究が注目されています.本講演では,ロボットの計画系・知覚系に深層学習を活用する最新の取り組みについて3つのテーマご講演いただきました.1つ目は,人の赤ちゃんの行動学習から着想を得たモータバブリングという手法でロボットの身体性を事前に学習しておくことで,少ない学習回数で未知の作業に適応可能となることを示す研究についてご紹介いただきました.2つ目は,人のように画像情報と触覚情報といった複数のモーダル情報を組み合わせた接触作業を学習する際に,各モーダルの信頼度をロボットが自律的に決定するユニットを導入することで,従来よりも早く学習可能となることを示す研究についてご紹介いただきました.3つ目は,学習に使用可能なデータが少ないという接触作業の背景から,あらかじめ自己教示あり学習でモデル化した不確実性に基づいて最も確実性の高い行動をさせることで,少サンプル学習によるロボットの行動の信頼性を高める研究についてご紹介いただきました.いずれも基本的な考え方からわかりやすくご説明いただき理解が深まるとともに,今後のロボット分野における深層学習の活用の発展がますます期待されるご講演でした.


第5話 柔軟要素を持つロボットによる組立学習

オムロンサイニックエックス株式会社 濵屋 政志 様

接触時の位置の微妙な修正という機能を持たせるためにロボットに物理的に柔らかい関節を用いることが有効であることはすでに知られていますが,モデル化が難しく,ロボットの作業中の適切な目標位置・力加減を人手で調整するのは従来の技術では困難でした.本講演では,独自に開発したロボットの柔軟な手首機構と,その柔らかさに注目した目標位置と力加減の深層強化学習により,少ない学習回数で高い作業成功率を達成するための最新の取り組みについてご紹介いただきました.特に,組立作業の基本であるペグインホールタスクを対象として,ガウス過程で不確実性をモデル化した強化学習,人からの誘導と敵対の2種類のインタラクションによる効率的な模倣学習,過去に取得済みのソース環境を使い回すことで新たな環境に適応する転移強化学習といった最新の研究成果をご紹介いただきました.柔軟関節 + 深層学習というユニークな切り口から,今後のロボットのさらなる進化が期待できるご講演でした.


まとめ

本セミナーでは,タイトルである「組立作業」から一段階抽象化して,「外部の環境や対象物との接触現象を巧みに利用しつつ作業を実行する」ロボット技術をテーマとして,第一線でご活躍されている先生方にご講演いただきました.結果,何名かの先生にまたがって挙げられていた「関節の柔らかさ」や「力加減の直接的な教示方法」など,組立作業の基本である「接触」をロボットで実現するための今後研究されるべき重要な要素について理解を深める助けとなったほか,組立作業の自動化に向けた新たなアプローチを検討するきっかけとなったのではないかと思われます.また,大学および企業より先生方を講師としてお招きしたことから,技術の基本的な考え方から現在の現場の生きた要求まで幅広い情報をご講演いただくことができ,参加された皆様の学びを深める有意義なセミナーになったのではないかと思っております.
本セミナーもCOVID-19対策のため遠隔配信にて開催いたしました.運営としても遠隔配信のノウハウが蓄積されスムーズにセミナーを開催できるようになって参りましたが,以前の対面形式のセミナーと比べると講演中や質疑の応答では依然として臨場感に欠けるという問題がご講演の先生からも指摘されております.特に,セミナーにおいて講演中の聴講者の表情は,講演内容への興味や理解の指標として講演される先生方にとって重要な情報です.聴講者の表情により講演内容が変化することで,聴講者の皆様の理解や議論の質の向上につながるため,今後一層の改善が必要であると考えます.


謝辞

ご多用のところ快諾いただき素晴らしいご講演をいただきました先生方に,まずは感謝申し上げます.また,本セミナーにご参加いただきました参加者の皆様,質疑およびアンケート回答に積極的にご参加いただきました皆様に御礼申し上げます.本セミナーの企画におきましては,日本ロボット学会事業計画委員会の皆様,特に前委員長の新妻実保子先生(中央大学),現委員長の島圭介先生(横浜国立大学)には,企画案や進め方にご意見いただき大変お世話になりました.サブオーガナイザの岩本憲泰先生には,当日のセミナーの運営を積極的にサポートいただきました.日本ロボット学会事務局の皆様,特に村上ちほ様には,セミナーの運営全般において大変お世話になりました.心より感謝申し上げます.