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第128回 ソフトロボットのこれまでとこれから(実施報告)


日本ロボット学会 第128回ロボット工学セミナー 実施報告

ソフトロボットのこれまでとこれから

 

日 時:2020年9月10日(木)10:00~18:00

会 場:オンライン開催

参加者数:114名

オーガナイザー:舛屋 賢(東京工業大学)

サブオーガナイザー:西川 鋭(東京大学)

 

セミナー概要

 人の近くでロボットが動くことがより求められるようになった昨今,柔らかさに着目したロボティクス,いわゆるソフトロボティクスへの注目が世界的に高まっています.国外においては,ソフトロボットに関する国際論文誌Soft Roboticsが創刊され,2018年からソフトロボットに関する国際会議RoboSoftが始まっています.国内においても,2018年より新学術領域「ソフトロボット学」が始まり,今後一層の発展が期待されている状況です.このような状況のもと,本セミナーでは,「ソフトロボットはどのようにこれまで扱われてきたか,どのようにこれから扱っていくべきか」について,第一線で活躍されている研究者の皆様をお招きし,ご講演していただきました.

 本セミナーでは,ソフトロボットを現在扱っている,または,これから扱おうとしている研究者の方々を主な対象としました.テーマを「モデリングと制御」,「アクチュエータとセンサ」,「歴史と展望」の3つとし,各テーマについて2名の講師をお呼びし,これまで/これからのソフトロボットについて,ご講演していただきました.

 また,本セミナーではCOVID-19の流行に伴い,聴講者・講師の安全を重視し,聴講者・講師も含めて,全員遠隔から配信および受講する形式としました.さらに,講師の先生方の希望を踏まえ,日本ロボット学会として初めてzoomによる配信を行いました.

 

第1話 ソフトロボティクスの諸相と展望

東京大学  新山 龍馬 先生

 ソフトロボットの歴史・全体像,課題と展望について,新山先生の研究内容を交えつつ,ご講演いただきました.「ソフトロボットとはどのようなものか」から始まり,ロボット分野における動向,マニピュレータ・連続体アームのようなアプリケーションと,幅広い点からソフトロボットについて概説していただき,ソフトロボット研究を現在行っている方だけでなく,行おうとしている方にとっても有意義な内容だったと思います.また,ソフトロボットで進行中の課題・未解決問題を通して,「ソフトロボットのこれから」について,ひとつの方向性をお話しいただきました.

 

第2話 ソフトロボット学の入口戦略としての弾性ロッドモデル

筑波大学  望山 洋 先生

 ソフトロボットのモデリングをテーマに,その入口戦略として弾性ロッドを対象にしたモデリングについて,望山先生が行われてきた研究を含めて,ご講演いただきました.弾性ロッドがどのようにモデル化されてきたか,どのように計算問題に落とし込まれてきたかについて,数式を交えつつ,ご紹介いただきました.とくに,根元のレンチが既知ならば形状推定が可能という点は大変興味深い内容であり,望山先生にはリアルタイム推定のデモを実際に遠隔で行って頂きました.

 

第3話 ソフトロボットの運動制御問題と解決法

立命館大学/チトセロボティクス 川村 貞夫 先生

 ソフトロボットを実用化する際の問題点とその解決のためのアプローチについてご講演いただきました.従来の産業ロボットから柔らかいロボットへつなぐために,剛体ロボティクスを振り返りつつ,ソフトロボティクスのモデリングやシステムインテグレーションについてお話しいただきました.さらに,立命館大学で進められているプロジェクトについてご紹介いただきました.次世代ロボットの開発論を通して,ソフトロボットを開発していくためのひとつの方向性を示していただけたことは,聴講者の皆様にとって有意義だったと思います.

 

第4話 ソフトロボティクスのための高分子アクチュエータ

豊橋技術科学大学 高木 賢太郎 先生

 ソフトアクチュエータの一種である高分子アクチュエータのこれまでの歴史,材料と特性,入手方法や自作方法,そして近年の応用研究について,高木先生の現在までの研究を交えつつご講演頂きました.とくに,代表的な高分子アクチュエータであるIPMC,誘電エラストマー,釣糸人工筋について国内・国外の研究事例をご紹介頂きました.高分子アクチュエータとロボットがこれからどのように関わっていくかについて,高木先生の見解を踏まえた方向性をお話しいただけました.

 

第5話 センサ統合による空気圧人工筋肉の高機能化

岡山大学 脇元 修一 先生

 ソフトロボットのためのセンサ技術として,代表的な空気圧アクチュエータであるMcKibben型空気圧人工筋肉にセンシング機能を埋め込む高機能化についてご講演いただきました.空気圧アクチュエータについて簡単にご紹介いただいた後,導電エラストマー・誘電エラストマー,IPMCや圧電高分子を用いたソフトセンサの研究事例についてお話しいただきました.最後に,脇元先生が行われてきたスリーブ繊維を機能性繊維に置き換えたセンシング方法やその製作方法についてご紹介いただきました.

 

第6話 新学術領域「ソフトロボット学」の紹介とソフトロボット学のこれから

東京工業大学 鈴森 康一 先生

 鈴森先生が代表を務めておられる新学術領域「ソフトロボット学」の紹介と,ソフトロボットのこれからについてご講演いただき,これからのソフトロボティクスを研究していく中での方向性を示していただきました.前半では,「ソフトロボット学」が何を目指し,どのような活動を行ってきたかについて,実際の成果であるIPMCを用いたロボットや空圧人工筋の研究を交えつつ,ご紹介いただきました.後半では,ソフトロボットが目指すものとして,パワーとソフトを兼ね揃えるパワーソフトロボティクスやヒューマン・マシン・インターフェース,鈴森先生が提唱されているE-kagenの概念について,お話しいただきました.

 

まとめ

 本セミナーでは,「ソフトロボットはどのようにこれまで扱われてきたか,どのようにこれから扱っていくべきか」について,モデリングと制御,アクチュエータとセンサ,歴史と展望といった点から,第一線で活躍されておられる研究者の皆様にご講演いただきました.私自身,ソフトロボットの現状や課題について勉強になることが多く,その奥深さを再認識させていただきました.また,本セミナーの聴講者の半数近くが企業からの参加者であったことから,ソフトロボットはアカデミアのみならず,産業界からも注目されている分野であることを再確認できました.

 また,セミナーの運営において,遠隔配信をzoom,質疑応答をzoomでの口頭質問・sli.doで実施しました.zoomを利用した遠隔配信は,WebExの場合と異なり聴講者が自身のアカウントを確認できない点に問題点がありますが,発表者ツールとしては利用しやすいものでした.また,当日の円滑な運営のために,講師の方を含めたリハーサルを実施しました.一方で,sli.doを通した質疑応答では,質問と講演の対応をとるために,どの講演か指定してもらうように工夫し,より活発に質疑応答が行えたと思います.

 講演後の参加者アンケートでは,改善点・希望として,動画の音声と講師の音声が被って聞こえづらい点,接続に関する点,休憩時間に関する点が挙げられておりました.これらについては,リハーサルでの確認や運営方法の改善を検討し,今後のセミナーへ反映していきたいと考えております.一方で,アンケートにおける講演の評価(回収数64,回答率56%)は,期待通り:58票,中間:6 票,期待はずれ:0 票という結果であり,全体として満足度の高いセミナーになったと思います.

 最後に,本セミナーが, 参加者の皆様の研究開発,ならびにソフトロボット研究の発展へ貢献できれば幸いです.

 

謝辞

 ご多用の中ご講演をご快諾いただいた講師の皆様, 熱心に聴講し議論に参加いただいた参加者の皆様へお礼申し上げます.本セミナーの企画におきまして,事業計画委員会の皆様,とくに前委員長の辻様(埼玉大学),現委員長の新妻様(中央大学)に,セミナーの運営では,ロボット学会事務局の細田様,水谷様,村上様,サブオーガナイザーの西川様(東京大学)に,大変お世話になりました.また,西川様(東京大学)には,最終的に遠隔配信となりましたが会場手配にご助力いただきました.心より感謝申し上げます.

 

2020年12月8日

文責 舛屋 賢(東京工業大学)