2021年9月8日(水)から11日(土)にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第39回学術講演会のセッションレポートをお届けします.
今回レポートするのは2日目,9月9日に開催されたテクニカルセッション「1J4アクチュエータ」です.このセッションでは6件の発表が行われました.まずはその内容を簡単にご紹介いたします.
1件目は大分大学による「ツインドライブMR流体アクチュエータを用いた汎用ハプティックデバイスの開発[1]」です.先行研究で開発した,医療ロボットの操作に特化した仕様である遠隔操作型手術支援ロボットのためのハプティックデバイスHaptic MR Device for Endoscopic Surgeryを発展させ,デルタ機構とTD-MRAを融合した汎用型ハプティックデバイスを提案しています.
2件目は東京理科大学による「McKibben型人工筋肉の構成変更による出力調整[2]」です.McKibben型人工筋肉がパッシブな場合において,スリーブの長さ(編み込み角度変更)により変位量と出力を制御することができ,結果として,断面積が異なっていても,同じような変位量と出力の関係が実現できることを示しています.
3件目は広島市立大学・大阪大学による「SCPアクチュエータの自動製造装置と導電性ナイロン繊維を用いた長大なSCPアクチュエータの試作[3]」です.SCPアクチュエータ製造の完全な自動化を目的とし,撚糸機の機構を見直すことでSCPアクチュエータに特化した製造装置を提案しています.
4件目は久留米工業高等専門学校・北九州市立大学・NPO法人安全工学研究所による「開発したMRブレーキを用いた受動制御によるアームの持ち上げ操作[4]」です.市販のものよりも実用的で高効率かつ小型軽量なMRブレーキを設計・製作し制御性能の検証をしています.
5件目は名古屋大学・名城大学による「立体培養における遠心力による高細胞密度培養筋の作製[5]」です.バイオアクチュエータの作成にあたって,より高細胞密度の培養筋の作製を目標とし,ゲルと混合した筋細胞を遠心力で圧縮する手法を提案しています.
6件目は東京工業大学による「PLZT素子と静電自励振動アクチュエータを用いたワイヤレス小型移動ロボットの試作[6]」です.小型移動ロボットに搭載できるサイズの直流高電圧電源としてPLZT素子に着目し,静電自励振動アクチュエータと組み合わせたワイヤレス小型移動ロボットを提案しています.
この中で特に興味を持った4件目の「開発したMRブレーキを用いた受動制御によるアームの持ち上げ操作」と6件目の「PLZT素子と静電自励振動アクチュエータを用いたワイヤレス小型移動ロボットの試作」について詳しくレポートしたいと思います.
「開発したMRブレーキを用いた受動制御によるアームの持ち上げ操作」(久留米工業高等専門学校・北九州市立大学・NPO法人安全工学研究所)[4]
近年,世界的に高齢化が進展し,人間と機械が直接接するような福祉機器の開発が急務となっています.人間と機械が接する装置に用いる制御には,高出力,高精度よりも十分な安全対策が重要です.そこで国際安全規格ISO12100で優先される本質的安全設計方策の要求にこたえる制御として,印加する磁場に応じてレオロジー特性が変化するMR流体を用いた制御方式が期待されています.著者らはこれまでの研究でMR流体の高応答特性を積極的に活用し,与えられるエネルギーを必要時にMR流体によって伝達させることにより駆動する制御システムを開発するため,市販のMRブレーキを使用した持ち上げ受動実験を行ったそうです.しかし,市販されているMRブレーキは種類が少なく大型であるため,精度の向上が困難でした.そこで本研究では市販されているものよりも実用的で高効率かつ小型軽量なMRブレーキを設計,製作し,実験によって制御性能を検証しています.
今回著者らが作製したMRブレーキのCAD断面図を図1に示します.図中の緑色部分にMR流体が充填されており,そのMR流体に印加される磁場の磁束密度を高め,ブレーキトルクを増加させるため,図中の黒色,茶色(円盤)部品を透磁率が高い強磁性体で製作し,それ以外の部品を非磁性体の材料で製作したそうです.それにより,図の点線のような磁気回路を形成し,円盤間のMR流体に磁束を集中させています.材料は,強磁性体として鉄鋼材料であるS45CとSS400を用い,非磁性体としてアルミ金属,エンジニアリングプラスチックのポリアセタール,3Dプリンタによる樹脂を用いています.また,作製したMRブレーキの仕様比較を表1に示します.円盤の枚数を増やすことによってトルクを大きくすることに成功したそうです.
製作した実験装置を図2に示します.作製したMRブレーキを伝達装置として用い,モータによって与えられる振り上げ方向の回転エネルギーを必要に応じて伝達することによって,振り上げ操作の受動制御を行う仕組みとなっています.
一つ目の実験ではモータを一定速度(23 rpm)で回転させ,目標角度を5段階に変更し連続位置決め制御を検証しており,市販のMRブレーキと変わらない精度で追従できていることが確認できました.目標角度の絶対値が大きい時は値が大きくずれていましたが,これは取り付けたアームの腕が長く,またそのアームの先端に重りをつけているため,アームが水平の位置にある時と垂直にある時でモーメントが変わりうまく制御ができなかったと考えられます.
二つ目の実験では目標角度を正弦波として軌道追従制御を検証しており,モータの速度は各実験で調整しています.目標角度の絶対値が大きくなっても追従できるが,目標角度が小さいほど最大誤差は小さくなり正弦波の周波数が小さくなるほど最大誤差が小さくなりました.
所感としては,本研究では目的の一つである大きいブレーキトルクが得られており,精度についても担保されているので市販のブレーキとの差別化が図れていると感じました.また今回の装置製作にあたり,キー溝の加工や3Dプリンタで作製した部品仕上げは手作業で行っていたとのことだったので,今後は加工の精度を上げていくことでさらなる安定性が実現できると感じました.今後の実用化に向けた更なる研究に期待しています.
図1 設計したMRブレーキの構造[4]
表1 MRブレーキの使用比較[4]
図2 実験装置[4]
「PLZT素子と静電自励振動アクチュエータを用いたワイヤレス小型移動ロボットの試作」(東京工業大学)[6]
近年,災害現場などに生じる狭小空間では昆虫サイズの小型ロボットの活躍が期待されています.筆者らは小型ロボットに用いるアクチュエータとして静電自励振動アクチュエータに注目し,先行研究で本アクチュエータを用いた小型移動ロボットを試作しその走行に成功しています.先行研究で用いた小型移動ロボットは外部の高圧電源と接続されていました.本装置をワイヤレス駆動させるにはロボットに搭載できるサイズの直流高電圧電源が必要となります.その要件を満たす高電圧電源として,紫外線の照射により高電圧が発生するPLZT素子に着目しました.そこで本研究ではPLZT素子と静電自励振動アクチュエータを組み合わせたワイヤレス小型移動ロボットの試作と動作検証について報告しています.
今回著者らが考案したロボットの構成と駆動原理を図3に示します.本ロボットは走行面に接する脚をもったボディ,上部に搭載されたPLZT素子,そのPLZT素子と接続されている前後に配置された電極,ロボット下部から非導電性フィルムによって支持された導電性振動子から構成されています.ロボットに上から紫外光を照射すると,PLZT素子から電圧が発生し,前後の電極が帯電します.図3のように振動子と接している前方電極が正に帯電したとすると振動子も正に帯電します.すると,静電気力によって後方へと振動子が移動し,後方電極と衝突します.この時ロボット本体には後ろ方向の撃力が加わりますが,足先にかかる前方向の摩擦力が大きいためロボットはほとんど移動しません.後方電極と接したことにより今度は振動子が負に帯電します.すると,静電気力によって前方へ振動子が移動し,前方電極と衝突します.この衝突によりロボット本体に前方向の撃力が加わります.この時に,足先にかかる後方の摩擦力が小さく,撃力が摩擦力を超えるため,ロボットがわずかに前進します.以上の過程を繰り返すことでロボットは走行する仕組みになっているそうです.
実際に試作した小型移動ロボットを図4に示します.こちらのロボットを用いて筆者らは動作検証実験を行いました.検証では,ロボットをポリエチレンシート上に置き,UV照射器を用いて波長365 nmの紫外光を真上から照射した際にロボットが走行するか確認をしたそうです.結果としてはUV照射器を点灯してから4 秒後に振動子が振動を始め,その200 秒後には,ロボットが4.1 mm走行したことが確認できました.紫外光を照射してから振動子が振動するまでの遅れはPLZT素子の光起電力効果の応答速度が十分ではなく電極の帯電に時間がかかることが原因であると考えられているそうです.
またこのワイヤレス小型移動ロボットは予稿投稿後の研究で走行速度を向上することにも成功しているとのことでした.振動周期の向上や,床の材質によらない移動の実現などの課題点もあるそうなので今後の研究ではそれらの課題を解決する方法を模索し,更なる機能向上に期待したいと思います.また筆者らが述べていた今後の展望として,動作シミュレーションを行うことでロボットの走行特性を理論的に示し,それをもとにロボットの走行性能の向上を目指していくとのことだったので,今後の展開がとても楽しみです.
図3 ロボットの構成と駆動原理[6]
図4 試作したワイヤレス小型移動ロボット[6]
以上,「1J4アクチュエータ」のセッションレポートでした.最先端の技術を応用したロボットの事例をたくさん知ることができたのでとても貴重な経験になりまた.どの研究も今後の展望に期待しています.私はこのほかにも「1D1宇宙ロボティクス(1/2)」のセッションレポートも担当しているのでそちらも是非ご覧ください.
参考文献
[1] 高野哲仁,池田旭花,山口晃徳,阿部功,菊池武士:“ツインドライブMR流体アクチュエータを用いた汎用ハプティックデバイスの開発”,日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,1J4-01,2021.
[2] 平野風歌,津島正典,松本賢太,橋本卓弥,小林宏:“McKibben型人工筋肉の構成変更による出力調整”,日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,1J4-02,2021.
[3] 厚海慶太,西川敦:“SCPアクチュエータの自動製造装置と導電性ナイロン繊維を用いた長大なSCPアクチュエータの試作”,日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,1J4-03,2021.
[4] 南山靖博,井上大河,江田直希,清田高徳,杉本旭:“開発したMRブレーキを用いた受動制御によるアームの持ち上げ操作”,日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,1J4-04,2021.
[5] 野村匠永,竹内大,Kim Eunhye,福田敏男,長谷川泰久:“立体培養における遠心力による高細胞密度培養筋の作製”,日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,1J4-05,2021.
[6] 宮﨑裕暉,難波江裕之,遠藤玄,鈴森康一:“PLZT素子と静電自励振動アクチュエータを用いたワイヤレス小型移動ロボットの試作”,日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,1J4-06,2021.
鵜澤匠吾 (Shogo Uzawa)
2022年中央大学理工学部精密機械工学科卒業予定.2022年中央大学大学院理工学研究科精密工学専攻博士前期課程進学予定.蠕動運動型ポンプを用いた宇宙トイレの研究開発に従事.日本ロボット学会学生編集委員.
日本ロボット学会誌40巻6号に掲載