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学生編集委員会企画:第39回日本ロボット学会学術講演会レポート(オーガナイズドセッション:確率ロボティクスとデータ工学ロボティクス~認識・行動学習・記号創発~(5/5))


2021年9月8日から11日にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第39回学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.

今回レポートするのは,セッション2日目,9月10日の午前に開かれた「確率ロボティクスとデータ工学ロボティクス~認識・行動学習・記号創発~(5/5)」です.


このセッションは,移動ロボットの自律移動技術に関する研究について1件の企画討論と3件の講演が行われました.簡単にそれぞれの発表を紹介します.


1件目は,「信頼できる自動運転のための技術」についての企画討論です.自動運転を構成する技術システムの研究に携わっている研究機関と企業の研究者の方々より,自動運転の信頼性をテーマとした発表・議論が行われました.


2件目は,東北大学と理研AIPセンターのグループによる「観測データを用いた物体間のレイアウト拘束情報の取得および地図構築の高精度化」です.環境に配置される物体同士のレイアウト上の拘束を考慮した地図構築手法の改良に向け,事前に知らないレイアウト拘束を取得する方法やレイアウトの変更を認識する手法を提案されていました.


3件目は,東北大学と理研AIPセンターと情報通信研究機構のグループによる「電波を用いたデバイス間距離変動計測によるロボットの実時間位置推定」です.Wi-Wiという技術を応用することで,従来のセンサに頼らない自己位置推定手法を提案されていました.


4件目は,千葉工業大学のグループによる「brute-forceな価値反復を用いた実時間経路計画 ROSパッケージ」です.計算量の問題から利用が難しいとされている価値反復を用いた経路計画をリアルタイムで行う手法を提案されていました.


ここでは,これら4件の発表の中で私が特に関心をもった「観測データを用いた物体間のレイアウト拘束情報の取得および地図構築の高精度化」と「電波を用いたデバイス間距離変動計測によるロボットの実時間位置推定」について詳しく紹介します.


観測データを用いた物体間のレイアウト拘束情報の取得および地図構築の高精度化

現実の環境において,図1のように人間が配置する棚や台などはそれらの距離に制約をもった状態で置かれることが多いかと思われます.東北大学と理研AIPセンターのグループは,このレイアウト拘束に着目した地図構築手法であるレイアウトSLAMを提案しています.本発表では,今までのレイアウトSLAMの改善として,レイアウトが変更された際の認識手法の改良と事前に与えられていないレイアウト拘束の取得手法を提案されていました.レイアウト変更の認識については,センサの観測情報の誤差や物体の位置推定誤差を考慮するように改良しており,従来手法では認識できないレイアウトの変更に対応していました.また,レイアウト拘束の取得手法については,物体の形状を長方形に限定することで幾何的な拘束から新たなレイアウト拘束を得ていました.現状のSLAMではあまり意識されていないレイアウト上の拘束に着目した点が非常に面白かったです.棚や台のレイアウトというものはなかなか変化するものでもないので,この手法が取り入れられるようになれば地図構築もより簡便になるように思いました.

 


図1 レイアウト拘束の例(予稿原稿[1]より転載)


電波を用いたデバイス間距離変動計測によるロボットの実時間位置推定

移動ロボットの自己位置推定において用いられるGNSSやLiDARは,環境によっては推定結果が不安定になる問題を抱えています.この問題の解決に向けて,東北大学らのグループでは,無線双方向時刻比較技術(Wi-Wi)という技術を利用した新たな自己位置推定手法を提案しています.図2に示すWi-Wiモジュールを固定局と移動局(ロボット)に搭載し,モジュールから発せられる電波の位相差によりモジュール間の距離を得ていました.そして,それらの距離をエッジ,各局をノードとしたグラフ最適化により自己位置推定を実現していました.実機実験によると10m×10m四方,固定局3つの場合,3分ほどの走行で各局の位置推定が収束し,0.8m以下の誤差で推定されていました.今回は電波反射が少ない屋外での実験でしたが,今後は反射の影響も無視できない環境での検証も行っていくとのことでした.他のセンサの情報が利用しづらい環境などでも自己位置推定できるということで,従来の移動ロボットが苦手とする混雑環境などでの利用に期待が高まる研究だと思いました.今後新たな自己位置推定手法として確立されるのが非常に楽しみです.

 


図2 Wi-Wiモジュール(予稿原稿[2]より転載)


以上,「確率ロボティクスとデータ工学ロボティクス~認識・行動学習・記号創発~(5/5)」セッションのレポートを終わります.この他にも,「自己位置推定・SLAM (1/2)」のセッションについてもレポートしていますので,そちらもぜひご覧ください.


参考文献
  1. 軍司,大野,小島,岡田,昆陽,田所:“観測データを用いた物体間のレイアウト拘束情報の取得および地図構築の高精度化”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2I1-02, 2021.
  2. 奈良,岡田,小島,滝沢,志賀,安田,大野,田所:“電波を用いたデバイス間距離変動計測によるロボットの実時間位置推定”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2I1-03, 2021.
  3. 上田,池邉,林原:“brute-forceな価値反復を用いた実時間経路計画 ROSパッケージ”,日本ロボット学会第 39 回学術講演会予稿集,2I1-04, 2021.

 

大毛雄人 (Yuto Oge)

2022年千葉大学大学院融合理工学府基幹工学専攻機械工学コース博士前期課程在学. 移動ロボットの研究に従事.