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【書評】ソフトロボット学入門:基本構成と柔軟物体の数理


 

著者:

新学術領域「ソフトロボット学」研究班・日本ロボット学会 監修 
鈴森 康一・中嶋 浩平・新山 龍馬・舛屋 賢 編著


情報:

ISBNコード:978-4-274-22998-5
発行所:オーム社
体裁:A5版,320頁
定価:3,600円(税別)
発行年月:2023年1月


 この本を読んで最初に思ったことは,「研究室に入ってくる学生に読ませたい」です.「ソフトロボットって何だろう?」,「何となくソフトロボットということは分かるけど詳細はよく分からない」,そんな方にお勧めです.次に思ったのは,改めてソフトロボットが網羅する領域の広さです.これまでロボットが扱ってきた分野を拡大できる可能性を感じました.さらに,未解決問題の多さにも実感しました.改めてソフトロボット学は研究者や技術者にとってのブルー・オーシャンである,との思いを強くしました.以下,各部に分けて所感を述べていきます.

 

序章 ソフトロボットの概念

 ソフトロボットの歴史ならびに産業や科学技術におけるソフトロボットの位置づけが述べられており,勉強になりました.特にその歴史は興味深いもので,ロボットを柔らかくしていく経緯がよく分かります.まだ学問領域として立ち上がったばかりのこともあり,産業応用や社会における活用の方向性がまだまだ不透明であることもよく分かりました.

 

第1部 柔軟物体の数理と情報処理

 もしかしたら前提知識が少ない学生などには難しい内容かなと思いながら拝読しました.一方でロボットに関する知識を一定程度もつ身からは,分かりやすい数理でありました.柔軟体のモデリングは,材料力学屋ではなくロボット屋からみた有限要素解析の理解法が書かれています.言い過ぎかもしれませんが,これを読めば自分で有限要素解析のためのコードを書けてしまうかもしれません.やわらかい知能は若干,抽象的です.リザバーコンピューティングを少し知っている身からすると,「リザバーにおける情報処理能力ってこんな風に評価するんだ」,と感心する一方で,学生には理解が難しいのではと危惧しました.

 

第2部 やわらかい機能性材料とデバイス

 やわらかいアクチュエータとやわらかいセンサについて述べられています.ソフトロボット学は日進月歩で多用なアクチュエータやセンサが開発されているため,全てを網羅していないという批判もあるかもしれませんが,基本となるアクチュエータとセンサに関して網羅出来ているのではと思います.アクチュエータに関しては,剛体のアクチュエータではあまり考えられなかった,動力源やアクチュエーション法が興味深いです.それぞれのアクチュエータを駆動するための基礎モデルが提示されているのは有難く,これからソフトロボットを開発しようとする方に有効でしょう.センサの方は項目だけみると,従来のセンサと何も変わらなそうですが,やわらかいボディにセンサを埋め込むための方法や理論が述べられており,参考になります.特にひずみセンサは従来から,センサ部をひずませて計測する手法がとられてきたこともあり,ソフトロボットを土台にしても,新しいセンシング原理が生まれるというのはなかなか考え難いのかもしれません.

 

第3部 ソフトロボットシステムの設計と制御

 設計・製作の章は,研究室の学生だけでなく学部学生に読ませて,実際にソフトロボットを作らせたいと思いました.それぞれの研究室で試行錯誤しながら実施してきた方法論が上手くまとまっていると思います.いくつかノウハウまで記載されているので,実際にソフトロボットを開発している方にも参考になります.最後の基本機能と制御の章では,網羅的にソフトロボットの応用例が述べられています.いろんな応用例があるのだと思う一方で,開拓されていない様々な応用がたくさんあるのだろうとの推測も生まれました.制御に関しては,従来のロボット工学ではあまり用いられなかった流体力学や熱力学などの知識も今後重要になるであろうとの認識に至りました.

 

まとめ

 ソフトロボットを齧っている私でも,この本を読んで,新しい発見と理解を得ました.ソフトロボット初心者だけでなく,ソフトロボットに興味のある方全員に一読いただきたい良書です.


(渡辺哲陽 金沢大学理工研究域)