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学生編集委員会企画:第40回日本ロボット学会学術講演会レポート(一般セッション:経路計画)


1 はじめに

2022年9月5日から9日にかけて東京大学で開催された第40回日本ロボット学会学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.今回レポートするのは,セッション2日目,9月6日の午後に開かれた「経路生成」になります.このセッションでは,「ロボットの動かし方を計算する経路生成アルゴリズム」について8件の講演が行われました.会場は立ち見の方が出るほどの大盛況で,本セッション「経路生成」への注目度の高さが伺えました.


2 セッションレポート

1件目は,千葉工業大学のグループによる「価値反復による準静的な障害物を考慮した実時間経路計画」です[1].一般的な経路計画では,スタートからゴールまでの大まかな経路を求める大域計画と予期せぬ障害物等を避けるための局所計画を組み合わせて用いられますが,これらの切り替え所が難しいといった問題点があります.そこで本研究では,障害物に対して価値関数を書き換えていくことで,障害物回避も大域計画で取り扱うことを提案されていました.発表の最後には,地図情報なしでもオンライン計画で経路生成できるデモを紹介してくださり,非常に優れた経路生成手法だと感じました.


2件目は,名古屋工業大学のグループによる「加加速度モデルに基づいたDWAの改良手法」です[2].ロボットは一定以上の加加速度がかかると転倒する恐れがありますが,ローカル経路計画アルゴリズムの一つであるDWA (Dynamic Window Approach)には,加加速度の制御は含まれていません.そこで,本研究ではDWAを拡張し,加加速度も制御に含めることを提案されています.車の乗り心地向上のために加加速度の制御が重要だという話を聞いたことがありましたが,いまひとつ飲み込めていませんでした.今回,加加速度制御により安定性が向上するという一例を知ることができ,勉強になりました.


3件目は,北海道科学大学のグループによる「次亜塩素酸水溶液噴霧ロボットの行動計画と殺菌効果 に関する実験的研究」です[3].除菌活動の自動化のため,LiDARによるSLAMを用いた自律走行ロボットで次亜塩素酸を自動で噴霧するシステムを紹介されていました.LiDARを用いているので,暗闇でも作業可能で,人がいない夜間などにも本システムを適用することができます.人が通る場所の確保など自律走行ロボットが通ってほしくないスペースを指定するためにバーチャル壁というものを導入している点が非常に面白いと思いました.本学会が終わるとすぐに追実験があるとのことで,今後の進展が楽しみです.

 


Figure 1: 使用機体概観[4]

 


Figure 2: 動作の様子[4]


4件目は,早稲田大学のグループによる「RRT に基づいた伸展型ソフトインフレータブルロボットのための経路計画手法の開発」です[4].薄膜樹脂フィルムからなるチューブに空気を満たしたインフレータブル構造をボディとし,先端部分にはニクロム線による発熱部を取り付けたソフトロボットを用いています(図1, 図2).発熱部により樹脂ボディを熱溶着により屈曲させながら,伸展させることで,乱雑な環境や狭小な空間への移動や調査への応用に期待されています.経路生成はサンプリングベースの手法の一つであるRRT (Rapidly-exploring Random Tree)を用いていました.この際,熱溶着の都合上,屈曲角度を一定にする必要があり,生成された経路に屈曲角度がすべて一定値になるような補正をかける手法が提案されていました.ロボットの動作中に自身のボディを変形させながら前に進むというのは非常に面白いアプローチだと思いました.本講演では2次元の移動のみしか行われていませんでしたが,熱溶着を適切に制御することで高さ方向にも対応できたら,さらに汎用性の高い手法になると感じました.


5件目は,宇都宮大学のグループによる「移動ロボットによる障害物回避のためのLiDAR俯瞰画像を用いた動作計画」です[5].未教示環境における障害物回避を目的に,2D LiDARから得られたスキャン点群の距離と角度情報から周囲環境マップのような俯瞰画像を生成し,この俯瞰画像を入力としたCNNを動作計画器としていました.加えて,学習段階で俯瞰画像の特徴量が消失する劣化問題への対策として,ResNetで用いるBuilding Blockを適用して解決を図っていました.結果,先行研究と比べて障害物回避の成功率を大幅に高めていました.距離と角度情報から俯瞰画像を生成するという大がかりな前処理が精度向上に貢献しており,学習における前処理の大事さを感じました.


6件目は,東北大学のグループによる“Voronoi-based multi-path roadmap using imaginary obstacles for multi-robot path planning”です[6].ロボット経路を生成する有名な方法の一つにロードマップ法があり,このロードマップの作成にはボロノイ図がよく使われます.しかし,この方法では,道幅が十分に広くても,一本の道に対して一本のルートしか生成されず非効率な面がありました.そこで,本発表では道幅が広い場合,道の中央や交差点部に仮想障害物を置くことで,一本の道に対して最大二つまでのルートを設定できるようにしていました.一連の流れは図3のようになっています.これにより,成功率,メイクスパン,総移動距離のすべてについて大きな改善が得られていました.また,一本道上の二つのルートを所々でつないだ場合,これらの指標はさらに僅かに改善していました.仮想障害物を置くという工夫により,大きなアルゴリズムの変更なく,大きな改善が得られている点が非常に優れていると感じました.

 


Figure 3: Process flow for creating multi-path roadmap[6]


7件目は,早稲田大学のグループによる「待機・迂回を含む後退的行動と接近・接触を含む前進的行動を併せ持つ自律移動ロボットの統合的軌道計画」です[7].接近・接触等の能動的な働きかけにより目的地に向かう「前進的行動」と戦略的な待機や迂回により一時的に目的地から遠ざかる「後退的行動」を統合的に取り扱い,ロボットに社会性のある行動を取らせることを可能にしていました.多くの軌道計画では,距離などの分かりやすい客観的な指標を最適化しますが,本発表では定義しづらい人間の心象をうまく指標に落とし込み,最適化に用いていました.今後,ロボットと人間の距離がさらに縮まってくると,心象の数値化というものの重要性は高まってくると思います.良い勉強をさせていただきました.


8件目は,東京大学のグループによる「複数 AGV の動特性を考慮したCBS-TAベースのタスク割り付け・動作計画アルゴリズム」です[8].従来研究ではAGVの動特性まで考慮したものはなく,離散時間のステップ毎に移動・待機等が考えられていましたが,本発表では時間を連続的に扱い,移動は加速・減速を考慮していたり,待機は経路によって算出したりと動特性を考慮していました.シミュレーション結果,優先度法に基づくアルゴリズムで算出されたものより優れた結果が得られていました.今回,従来研究より現実に則した問題設定をされており,今後は外乱が発生しても導解可能なロバスト性の高いアルゴリズムを構築していくとのことです.徐々に物流の完全自動化が近づいてきているのを感じ,今後の発展が非常に楽しみです.


以上で「経路生成」のセッションレポートを終わります.既存の有名な経路計画に各々のタスクに合った工夫がなされており,どの研究もとても楽しく聞かせていただきました.未知状況での経路生成や協調性のある経路生成など「ロボットをより賢く」というような潮流を感じました.

 

References

[1] 上田,池邉,林原:“価値反復による準静的な障害物を考慮した実時間経路計画”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2I2-01,2022.
[2] 林,田口:“加加速度モデルに基づいたDWAの改良手法”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2I2-02,2022.
[3] 竹澤,印藤:“次亜塩素酸水溶液噴霧ロボットの行動計画と殺菌効果に関する実験的研究”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2I2-03,2022.
[4] 佐竹,石井:“RRTに基づいた伸展型ソフトインフレータブルロボットのための経路計画手法の開発”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2I2-04,2022.
[5] 鵜沼,星野:“移動ロボットによる障害物回避のためのLiDAR俯瞰画像を用いた動作計画”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2I2-05,2022.
[6] H. Aryadi, R. Bezerra, K. Ohno, K. Gunji, S. Kojima, M. Kuwahara, Y. Okada, M. Konyo, S. Tadokoro:“Voronoi-based multi-path roadmap using imaginary obstacles for multi-robot path planning”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2I2-06,2022.
[7] 今治,亀,金田,濱田,斎藤,櫻井,菅野:“待機・迂回を含む後退的行動と接近・接触を含む前進的行動を併せ持つ自律移動ロボットの統合的軌道計画”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2I2-07,2022.
[8] 清水,服部,種田,後藤,太田:“複数AGVの動特性を考慮したCBS-TAベースのタスク割り付け・動作計画アルゴリズム”,日本ロボット学会第40回学術講演会予稿集,2I2-08,2022.

 

中西佑太 (Yuta Nakanishi)

2021年横浜国立大学理工学部機械・材料・海洋系学科卒業.現在同大学大学院理工学府機械・材料・海洋系工学専攻博士前期課程在学中.