第143回 ロボット工学セミナー実施報告
「土木・施工現場のロボット化」
日時:2022年10月20日(木)10:10 - 16:30
会場:東京大学 本郷地区 浅野キャンパス 武田先端知ビル 5F 武田ホール,および遠隔配信
参加者数:61名(うち現地6名,遠隔55名)
オーガナイザー:中村 哲司(株式会社日立製作所)
サブオーガナイザ―:大賀 淳一郎(株式会社東芝)
セミナーURL:https://www.rsj.or.jp/event/seminar/news/2022/s143.html
セミナー概要
近年,土木・建設現場では少子高齢化による労働者不足や熟練労働者の引退に伴う技術継承の断絶などが問題になっています.このような背景から,土木・建設現場に対するロボットの導入・活用,現場のデジタル化による効率化等が求められており,様々な研究開発が行われております.また,国土交通省主導による各種コンソーシアムの設立など,業界内外が連携して,現場のIT化,自動化に関する取り組みが活発化しています.
本セミナーでは,建設機械の自動化や施工ロボット,現場のデータ活用などの,土木・建設現場におけるロボット化・デジタル化に関連する研究開発を行っている5人の講師をお招きし,ご自身の取組み内容についてご紹介頂きました.
第1話 屋外で動き回るロボットを「開いた設計」するとは!?
大阪大学 大須賀 公一 様
屋外のように使用される現場が不明確な,すなわち境界条件(仕様)が明確になっていない「無限定環境」において動作するロボットの設計には,通常のモノづくりと異なる考え方が必要となります。本講演では,「環境と闘ってはいけない 調和して知らぬ間に操る」をめざして,研究されている設計理念に関する内容をご説明頂きました。
あらかじめ環境が想定できない無限定環境に対して,調和的な関係をとることができる身体構造(倣い動作のような構造)を備えることで,環境と身体が一体化する様な状態を取ることができるとご説明頂き,一例として,ご紹介いた土砂災害による河道閉塞時の復旧用ロボットにおける,ホース部の受動車輪についてご紹介頂きました.
第2話 建設施工段階における次世代共通基盤の構築に向けて
清水建設株式会社 松下 文哉 様
建設現場の効率化には,契約や検査などの施工全体のフローにおいて,デジタル技術を用いた省力化が必要となります。本講演では,i-Construction寄付講座,および本講座と日本建設業連合会などの団体との協調領域にて開発しているデータ共通基盤についてご説明頂きました。
データ共通基盤の開発事例として,トレーサビリティを確保できるブロックチェーン技術を応用することで,出来形の実地検査の実測値の改ざんを防止し,発注側と受注側で実施する同じような検査を省力化するシステムについてご紹介頂きました。また,本データ基盤をの社会実装に向けた開発体制や,業界団体との枠組み作り・協創の仕組みに関してご紹介頂きました.
第3話 建設現場へのロボット導入
株式会社竹中工務店 宮口 幹太 様
建設現場へのロボット導入は古く,1980年代からいくつもの事例が上がっていますが,そのほとんどが数回の実践投入で終わり,長く使われ続けることはあまり無いという状況でいた。本講演では,そのような背景を受けて,真にユーザーフレンドリーなロボットを構築するための検討内容と,竹中工務店にて実践投入しているロボットについてご説明頂きました。
建設現場は職人により成り立っているとの考えのもと,職人の本作業ではなく,付帯作業の軽減をロボットの役割と定義し,また,誰にでも使えるように機能やUIをシンプルにすることが“使われるロボット”になるとの設計指針をご説明頂きました。そして,それらの役割を果たすロボットをご紹介頂くとともに,全ての現場で職人が働きやすい環境を実現することがロボット開発の意義であるとの考えのもと,レンタル会社との協働によりロボットを普及させる取り組みについてもご説明頂きました.
第4話 AIによる重機の自動運転
株式会社DeepX 那須野 薫 様
2022年3月に国土交通省内に建設機械施工の自動化・自律化協議会が発足し,建設現場の自動化が加速することが考えられます。本講演では,そのような背景の中で「あらゆる機械を自動化し世界の生産現場を革新する」というミッションを掲げ,自動化建機の発表で一躍有名となったDeepX社の自動化の取り組みについてご説明頂きました。
AIによる建設機械の自律化技術の開発を通す中で,教師あり学習ではデータ収集に膨大な労力がかかるために,強化学習を活用した自律化についてご説明頂きました。特に,安全性を考慮する中で,モデルベースと強化学習の組み合わせが建設機械の自律化に最適であることを見出し,モデルの構築方針や,本手法を適用したクレーン車の自律化事例をご紹介頂きました.
第5話 土木研究所における無人化施工および自律施工に関する取り組み
国立研究開発法人 土木研究所 山内 元貴 様
人が存在しない環境での無人化施工では遠隔操作や機械の自律化が必要となりますが,通信やUI,自動化アルゴリズムなど多岐に渡る技術開発が必要となります。本講演では,土木研究所にて取り組まれている無人化施工の技術開発内容と合わせて,土木研究所で開発を進めているオープンな建設機械共通制御プラットフォームOPERAについてご説明頂きました。
遠隔操作による無人化施工に関して,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)による臨場感のある操作やUAVによる俯瞰映像表示による生産性の向上や迅速なセットアップに向けた取り組みについてご紹介頂きました.また,建設機械の自律化の研究開発の参入障壁を軽減するため,建設会社や建設機械メーカーの協調・競争領域を整理し,機械の制御信号の共通ルール化を目ざしたプラットフォームOPERAのシステム構成,および適用事例についてご紹介頂きました。
まとめ
本セミナーでは,土木・施工現場の自動化・自律化・デジタル化に関して,実践的に取り組まれておられる5名の講師にご講演頂きました。ロボット化やデジタル化による現場の効率化は急務でありますが,どの先生方も,現場での使用を考慮し如何に使いやすい仕組みとするか,また技術要素をオープンにしてでも如何に他者・他社を巻き込むか,そうすることで現場をより良くしたいという思いが背景にあったように思います。そういった意味で,本セミナーにはゼネコン,建機メーカーを始めとする多くの業界の方にご参加頂き,お互いの取組み内容や技術要素について交換できる有意義なセミナーになったと考えます。
本セミナーは昨今のコロナ感染状況を鑑み,約3年ぶりの会場での講演とともに,オンライン形式を併用したハイブリッド開催とすることと致しました。これまでのオンライン開催でのノウハウの蓄積があり,一部不具合があったものの,大きなトラブルも無くオンラインでの講演はスムーズに進行することができたかと考えます。一方で,会場に足を運ぶ参加者が想定より少なく,結果的にオンライン形式と同様,聴講者の顔がほとんど見えない中での講演になってしまいました。また,コロナ対策を平行しながらの会場設営・運営となり,これまでの会場開催のノウハウと異なる対応が必要となるなど,多くの課題が見えたセミナーとなりました。本セミナーでの教訓は委員会内で議論し,今後のセミナーのクオリティー向上に向けたより一層の工夫を検討していきたいと考えます。
謝辞
ご多忙の中,講演をご快諾頂き素晴らしいご講演を頂いた講師の先生方に感謝申し上げます.そして,本セミナーにご参加頂き熱心に聴講いただいた参加者の皆様にお礼申し上げます.セミナーの企画・運営におきましては,事業計画委員会の皆様,特に委員長の槇田 諭先生(福岡工業大学)には進め方や人員確保など大変お世話になりました.また,同委員の五十嵐 広希先生(東京大学)のご尽力により,会場を手配することができました.改めてお礼申し上げます.さらに,ロボット学会事務局皆様,特に水谷様,村上様,サブオーガナイザーをお引き受けいただいた大賀様(株式会社東芝)には,運営,特に当日の会場での運営にて大変お世話になりました.心より感謝申し上げます.