第148回ロボット工学セミナー実施報告
「ロボットのためのビジョンシステム」
日時:2023年8月28日(月)10:00~16:50
会場:オンライン (Zoom)
参加者数:35名
オーガナイザ:安川 真輔(九州工業大学)
セミナーURL:https://www.rsj.or.jp/event/seminar/news/2023/s148.html
セミナー概要(口上)
ロボットのビジョンシステムには,多様かつ予測不能な視覚環境下で入力光からタスクを遂行するために必要な情報を抽出することが要求されます.自律ロボットに採用される組み込みビジョン装置は電力やペイロード,サイズが制限された中で高度なセンシング性能を達成する必要があるため,各々のロボットに要求されるタスクや,その動作環境に応じて,画像処理アルゴリズムだけでなくイメージング技術やハードウェア演算器も含めた全体設計が必要不可欠です.本セミナーでは,高速演算や距離計測等の新しい機能を有するイメージセンサを含む,新しいビジョンセンシング技術とその活用法に焦点をあてて,第一線で活躍されている研究者の皆様をお招きし,基礎から最新の研究までご紹介いただきます.
第一話: コンピュテーショナル CMOS イメージセンサの基礎と最新動向
静岡大学 香川 景一郎
ロボットビジョンシステムを構成する主要な要素として,多次元的な光の分布を デジタ ル信号に変換するイメージセンサがある.この講演では,ロボットが自身の行動決定に利用する情報を外界から直接取得できるビジョン技術として,機能性イメージセンサについて,研究事例を踏まえて解説して頂いた.ロボットエンジニアを対象とした内容とはいえ,センサや半導体技術中心の講演であったため,基本的な知識に関する質問等があった.
第二話:時間同期式プロジェクターカメラシステムとその応用
千葉大学 久保 尋之
プロジェクタを照明としてシーンに光を当てたときの様子をカメラで観測するシステムはプロジェクターカメラシステムと呼ばれ,3次元形状の計測など様々な用途で用いられている.この講演では,時間同期式のプロジェクターカメラシステムやイベントカメラを活用したプロジェクターカメラシステムについて原理からロボット等への応用について解説して頂いた.この技術を実際に実装するための方法等の質問があった.
第三話:高速ビジョンとその活用
千葉大学 並木 明夫
視覚情報をベースとしたロボットの高速制御を実現するには予測や学習といった推定処理で視覚情報の遅延を補うケースがあるが,ランダム性や高速性を有する対象・環境に対しては,精度や信頼性の低下が否めない.その解決への一アプローチとして,本講演では高速ビジョン技術及び高速アクチュエータ技術,それらを感覚運動統合する技術について解説して頂いた.またそれらの技術を用いたロボットへの活用事例について紹介して頂いた.高速ビジョンの活用例として飛行ロボットの例があがり,第4話の講演を呼応する内容であった.また高速ビジョン技術をロボットに利用していく際のノウハウ等の質問があった.
第四話:組込みビジョン技術とその飛行ロボット応用
立命館大学 下ノ村 和弘
ドローンは移動速度が大きく,風などの外乱を常に受けることから,センサ情報処理や制御には高いレートが要求される.また,ペイロードの制約から,特に小型のドローンではカメラやコンピュータを含む搭載機器への制限が多い.この講演では,小型の無人飛行ロボットのための組込みビジョンシステムについて,講演者が研究開発に携わってきた空中作業用飛行ロボットにおける適用事例を中心に紹介して頂いた.照明環境への対応方法や,飛行ロボットにビジョン技術を導入するノウハウについて質問があった.
第五話:センシング PoC を実現する開発キットの紹介
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 荒井 大輔
市販のセンサを PoC に活用する場合,同期を取るまでに苦労することや,取得できる画 像に制約があるなど,センサの扱いが課題となるケースが見られる.講演者の会社が提供するセンシング PoC キットでは,イメージセンサの扱いに煩わされず,画像や音声のデータ処理アルゴリズム開発に注力できるような環境の提供を目指して構築されているものであり,そのハードウェア構成やソフトウェア開発環境を解説すると共に,活用事例についても紹介して頂いた.講演後の質問・コメントの中には参加者からも利用してみたいという声があった.
まとめ
特に問題なく最後まで進行できた印象である.どの講演も多くの質問があり,当初の企画の狙いの一つである,画像処理系学会で開催されるチュートリアル講演との棲み分けとして,深層学習以外の高速ビジョンや計算撮像のロボット応用に焦点を当てたセミナーが開催できたと考えている.一方で,最後の企業の講演のみ,質問時間が別途あるとはいえ,講演時間自体は30分程度で終了してしまい,他講演と比較して短かったことから,より深く事前に講演内容まで踏み込んだ方が良かったかもしれないと感じた.また内容もツールの紹介にとどまっており,Slidoに集まったコメントから紹介したツールに関心を持っている参加者がいる一方で,私自身としてはもう少し,そのツールを実現している技術や企業の新しい技術トピックについて解説して頂く方向を考えてもよかったのではないかと反省した.