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活動終了報告:ロボット考学研究専門委員会


  • 名称:ロボット考学研究専門委員会 (Philosophy and Practice for Robotics)
  • 委員長:上出寛子 (所属・役職:名古屋大学・特任准教授)
  • 種別:時限(Ⅱ種)
  • 期間:2017年4月1日~2023年3月31日


活動内容・成果の概要

 本委員会では、最先端の科学技術と、われわれ人間が、社会の中でどのように調和できるのかについて、学際的に議論することを目的とした。人間が高度な技術とどのように接し、どのように対応していけば良いのかについて、具体的な課題を設定し、解決策について明らかにする取り組みを行ってきた。そのため、委員の専門分野は多岐に渡り、ロボット工学以外に、心理学、哲学、科学技術社会論、法学など多様な分野間での議論を実施した。

 具体的な活動としては、研究専門委員会は10回実施し、そのうち7回は公開にて行った。大学の研究者だけでなく、研究所や企業の専門家を講師として招き、先進的技術の社会的な課題について最新の知見を共有した。学術講演会でのオーガナイズド・セッションは5回企画し、技術と人との共存について議論した。ロボットと人間の共存に関しては多様な課題が存在するものの、特に学学際的な取り組みが重要となる視点として、プライバシーについての問題を取り上げた。プライバシーは、情報を保護するための技術的なアプローチだけでなく、ユーザの不安や懸念といった心理的な側面や、どのようなプライバシーが侵害されうるのかという哲学的な概念分析なども関わってくる、複雑で現実的な社会問題である。そこで、主要なメンバーで合宿を実施するなどして密に連携し、問題の聖地化と解決を図るべく、科学研究費を獲得した。日本ロボット学会誌においては、特集号を企画し、今後の社会における技術と人の共存のあり方についても報告を行った。この特集号での報告の一部として、近年では人工知能が特に注目されているが、ロボットという物質的な存在の意義や、物に対する接し方や価値観について、東洋、特に日本的な思想や文化的背景から新たに捉え直す必要性が議論された。このような視点を中心に、今後のさらなる議論に繋げていく。


活動終了報告

 本委員会は、2017年4月1日~2023年3月31日に渡り、活動を行ってきました。本委員会の前身には、安心ロボティクス研究専門委員会(2013年4月1日〜2015年3月31日)、ロボット哲学研究専門委員会(2015年4月1日〜2017年3月31日)という2つの委員会がありました。安心ロボティクスは、ロボットに対する人々の安心について研究を行い、ロボット哲学研究専門委員会では、ロボットと人の共存についてより深い概念的な議論を行うことを目指し、それぞれで一区切りの成果を得て、本委員会へつながる形で終了しています。本委員会の名称である「ロボット考学」は、日本ロボット学会名誉会長・森政弘先生の造語です。このロボット考学とは、単にロボットの技術開発だけを考えるのではなく、人間の心理との関係や、ロボットとこれからどう付き合っていくべきなのかといった哲学的考察までを射程に含めた取り組みを意味しています。前進となる2つの委員会でも学際的な議論は行ってきましたが、先進的なロボット技術と人間との調和について、より問題を掘り下げ、何らかの提案を行うことを目指し、本委員会での活動を行ってきました。したがって、本委員会には、ロボット工学以外に、心理学、哲学、法学、医療ロボット、ICT複合領域など、多種多様なメンバーが参加していました。

 ロボットと人間の調和について問題を掘り下げるとは言え、やはり開始当初は手探りの状態が続き、それぞれの分野における最新の知見の共有と、それらに基づく問題の方向性の探索を行っていました。しかしそこで、「これまで“学際的な議論”というものは十分に行った。もう議論の時期は終わった。次はもっと具体的に、何らかの課題を解決する段階だ!」という委員の先生の鋭いご意見があり、学際的なアプローチだからこそ取り組める問題の輪郭を明らかにすべく本腰を入れて取り組みました。そこで出てきたのが「プライバシー」の問題です。プライバシーとは、情報漏洩を防ぐための技術的な課題であるだけでなく、ユーザの心理的な不安、そして関連するメーカを巻き込んだ責任問題も存在し、さらには社会にとっての新規参入者であるロボットが、侵害しうるプライバシーとは一体何なのかという哲学的な課題も含みます。これらについて委員の先生方と積極的な議論を開始し、合宿を2回実施し、科研費を獲得しました。科研のプロジェクト自体はまだ継続していますが、問題の的を絞り、検討の道筋を決めたということで、委員会をここで終了することにしました。研究の成果については、これからも学術講演会で発表していく予定です。

 本委員会は終了しますが、今後もロボット学会の中でプライバシー以外にも関連する議論を続けていきたいと考えています。本委員会が企画した、ロボット学会誌の特集号(第 36 巻第 4 号, 2018 年 5 月号)では、先進的なロボット技術と人間との調和について、東洋的、特に禅仏教的な視点から捉え直すことの重要性が指摘されました。現在ではChat GPTをはじめとする人工知能の研究が注目を集めていますが、ロボットという物理的な存在と人間との関わりについては、ものづくり文化を得意とする日本の思想、文化的背景を起点にして考えることで、社会全体における調和のあり方を新たに発見できる可能性があります。物と人間が対峙したり分断している構図ではなく、お互いに同じ次元で協調しながら持続可能な形で変化していくあり方について、理論的にも実証的にも取り組んでいきたいと思います。