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第42回日本ロボット学会学術講演会レポート(一般セッション:移動機構(1/3))


1 はじめに

2024年9月3日(火)~6日(金)にかけて大阪工業大学梅田キャンパスで開催された第42回日本ロボット学会学術講演会のセッションレポートを行います.今回レポートをするのは2日目の9月4日の午後に開かれた「移動機構(1/3)」セッションです.悪路や段差など様々な環境で活動するための移動機構に関する研究発表が3セッションに渡って行われ,本稿ではその1つについて報告します.


2 発表内容

2.1 悪路斜面の走行を考慮した姿勢制御システムに関する研究[1]

除草作業ロボットの斜面における横滑り現象の研究について,従来の手法では平行移動を伴う横滑りは角度制御系では対応できないことから,本研究では気圧センサを用いた横滑り抑制制御系を自律型除草作業ロボットに搭載し,斜面における横滑り抑制制御実験を行いました.

加速度センサとジャイロセンサで読み取ったロボットの姿勢角と,気圧センサで読み取った気圧値を,PI制御器により左右のクローラに入力するフィードバック制御系と,設置型気圧センサとロボットに搭載した気圧センサで読み取った気圧値の差分を入力とした校正システムを用いることで横滑りを抑制しました.傾斜角50[deg] の斜面にて走行実験を行った結果,気圧センサと校正システムを導入することでより横滑りを抑制できることが分かりました.

本研究では移動性能に注目しましたが,筆者は実際の除草作業に応用する際に,提案された校正システムの有無がどれくらい除草性能に影響を与えるのか関心を持ちました.


2.2 電動油圧式モジュラー車輪ロボットの構想[2]

整地と不整地の両方を移動できるモジュール型ユニットの開発には,利用率の低いアクチュエータの効率的な利用が求められます.そこで本研究では,状況に応じて油圧回路を切り替えてモードを変更し,駆動輪や油圧アクチュエータの速度や力を調整できるモジュールを開発しました.

油圧回路上には,油圧回路を切り替える複数のバルブ,駆動輪,駆動輪や油圧ポンプを動かすモータ,クラッチ,車高調整機能を持つシリンダが設置されています.クラッチやバルブを組み合わせることで駆動輪や油圧アクチュエータに加わる油圧を調節し,モードを切り替えます.実験では,通常のN-modeから油圧アクチュエータの速度が上がるS-mode,力が上がるB-modeにそれぞれ切り替えた際の,油圧アクチュエータの角速度や内部圧力の変化をシミュレーションで確認しました.S-modeとB-mode共に,切り替え後も角速度と内部圧力を目標値に追従することが出来ることが分かりました.

筆者は今後実機で活用する際の各モードのふるまいを見れることを期待したいと感じました.


2.3 径可変車輪の開発とその応用[3]

不整地から整地まで対応できる車輪の開発として本研究では,1つのアクチュエータで径の拡張が可能なアイリス機構を用いた径可変車輪(図1)を開発しました.

開発したアイリス機構を応用した径可変車輪をローバー実験機(図2)に搭載し,真円度,段差乗り越え性能,旋回性能を検証しました.径は最大約230[mm]から最小約170[mm]に変化し,最小径の際に真円度が下がることが分かりました.また段差乗り越えでは最大径ならば 60[mm] の段差を乗り越えられ,最小径では50[mm]の段差を乗り越えることが出来ました.旋回性能実験では,ローバの車輪を最大径と最小径に設定し,ステアリングを行わないときの実験機の軌跡を複数回計測しました.その結果,軌道に大きな差異が生じてしまい,これは最小径の真円度が低いことが原因と考えられます.現在は左右の径可変車輪の径を各々変えて姿勢制御することで,傾斜面を水平方向に進むための研究を行っています.

筆者はアイリス機構の様にロボットの機構の大小を制御することで多くの環境に対応できる技術に感心しました.

 


図1: 径可変車輪

 


図2: ローバー実験機


2.4 らせん溝付きメカナムホイールの開発(溝形状による段差踏破特性と平地走行性能の検証)[4]

発電所での事故現場といった狭隘な不整地では不整地移動の技術に加えて全方向移動出来ることが求められます.

そこで本研究では不整地移動技術のクランク車輪と全方向移動技術のメカナムホイールの両方の機能を合わせ持つメカナムクランクを開発し,段差踏破性が向上するためのサブローラ溝形状に関して,三角形溝と四角形溝の段差踏破性の比較と,車輪溝の有無で直進性能が低下するかの検証が行われました.段差踏破性の実験では,三角形溝では高さ16[mm]まで,四角形溝では13[mm]まで踏破できることが分かりました.三角形溝では段差の角との隙間がなくなることでより摩擦が大きくなるくさび効果が発生し,段差踏破性を上げることが出来ました.また車輪溝の有無は直進性能に影響が出ないという結果も得られました.

本研究では段差踏破性の実験が行われましたが,筆者は不整地上での横移動性能といったメカナムホイールとしての性能に関しても興味がわきました.


2.5 3D動力学シミュレーションを用いた階段昇降に対する四輪リムレスホイールロボットの最適設計と実機検証[5]

従来の配膳・警備などの移動ロボットでは階段昇降が不可能であるという課題に対し,本研究では階段昇降が可能なリムレスホイールに着目しました.

自動最適設計シミュレーションの結果をもとに粘弾性関節を搭載した4輪リムレスホイールロボットを構成し(図3),取付具で粘弾性関節を固定化した関節(固定関節と呼ぶ)とした4輪リムレスホイールロボットと階段昇降性能を比較しました.6軸力覚センサを用いてスポークの関節にかかる力を計測したところ,脚部先端で地面を捉える逆転よりも,曲面で地面を捉える正転の方が負荷がかからないことが分かりました.また,正転での階段昇降の実験(図4)では,速度に関しては固定関節ロボットの方が速く,安定性では粘弾性関節ロボットの方が車輪中心高さが低くなり優れていることが分かりました.

筆者は固定関節の速度と粘弾性関節の安定性を使い分けられる技術があると面白いと感じました.

 


図3: リムレスホイールロボット

 


図4: 階段昇降の実験環境


2.6 ポテンシャルエネルギーの蓄積・放出機構を内部に搭載したキューブ型跳躍ロボットの設計と試作[6]

不整地の高低差を乗り越える跳躍ロボットでは離着時の衝撃で作動部が破損する恐れがあるという背景から,本研究では作動部が外殻で守られたロボットを開発しました.

本ロボットの外殻は立方体の骨格からなり,骨格各面からアクチュエータ内のモータに糸を,骨格各頂点からアクチュエータ頂点にゴムを取り付け,モータで糸を巻き取ることでアクチュエータの位置を変化させ,ゴムにポテンシャルエネルギーを貯えさせます(図5).アクチュエータ内部は,欠歯歯車であるギアA 1とカム機構によって軸方向に下げることが出来るギアA 2で構成されるギアAと,糸を巻き取るギアBで構成され(図6(a)),跳躍の際はギアA 2が下がりギアAが欠歯歯車になることで(図6(b)),糸を巻きつけたギアBを解放し(図6(c)),貯えていたゴムのポテンシャルエネルギーを放出します.跳躍実験の結果,理論値の0.77mに比べて約5cmほどの跳躍が見られました.理論値に届かなかった原因としてゴム同士による摩擦や,エネルギーを完全に放出する前に離陸してしまったことなどがあげられます.

本ロボットでは,ゴムやカム機構を用いることで,より少ない自由度とモータで跳躍ができることが特長でした.立方体各面から糸をアクチュエータに取り付けているため,鉛直・垂直・水平方向の僅か3自由度のみで跳躍する方向や高さを可変に出来ることに魅力を感じました.

 


図5: 内部機構

 

図6: 跳躍時のギア変更


3 おわりに

本稿ではGS10:移動機構(1/3)セッションの報告をしました.不整地や段差に対して,ホイール形状や姿勢制御や変形機構など様々なアプローチを行っている研究を見ることが出来ました.ロボットの「移動」は日常から災害現場,プラントまで広く活用される能力であるため,今後の発展が楽しみな研究分野であると感じました.


参考文献

[1] 林倖平, 横田雅司, “悪路斜面の走行を考慮した姿勢制御システムに関する研究” , 第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集, 1J3-01, 2024.

[2] 織田健吾, 玄相昊, “電動油圧式モジュラー車輪ロボットの構想” , 第42回日本ロボット学会学術講会, 1J3-02, 2024.

[3] 大津夏生, 野中祐太郎, 江上正, “径可変車輪の開発とその応用” , 第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集, 1J3-03, 2024.

[4] 野田幸矢, 仲井洸貴, “らせん溝付きメカナムホイールの開発(溝形状による段差踏破特性と平地走行性能の検証)” , 第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集, 1J3-04, 2024.

[5] 土山隼世, 松下光次郎, 西岡大空, 森脇幸一郎, 北村高秀, “3D 動力学シミュレーションを用いた階段昇降に対する 四輪リムレスホイールロボットの最適設計と実機検証” , 第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集, 1J3-05, 2024.

[6] 吉田安紀彦, 亀崎允啓, 川原圭博, “ポテンシャルエネルギーの蓄積・放出機構を内部に搭載した キューブ型跳躍ロボットの設計と試作” , 第42回日本ロボット学会学術講演会予稿集, 1J3-06, 2024.

 

保母諒太朗(Ryotaro Hobo)

2023年名城大学理工学部機械工学科卒業.現在,電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム専攻博士前期課程在学中.踏板・蹴込板の清掃を行う階段昇降小型ロボットの研究に従事.日本ロボット学会学生編集委員.