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日本ロボット学会誌44巻8号「未来の食とロボットⅡ」


 

「未来の食とロボットⅡ」特集について

日本ロボット学会誌44巻8号「未来の食とロボットⅡ」

 【解説】

  • 食材や食品を把持・盛り付けするためのロボットハンド(王 忠奎・川村 貞夫)
  • 食品用ソフトハンド(平井 慎一)
  • Bodyverse という新しい生命観―味蕾・消化管オルガノイドが拓く化学感覚ロボティクス(岩槻 健)
  • 可食ロボット要素技術の展開(渡辺 将広・多田隈 建二郎)
  • 二次元ガスセンサによる匂い分布と流れの可視化(林 健司) 

 「食」とロボットの関係を考えるとき,そこには食品を作る,運ぶ,つかむ,盛り付ける,食べる,味わう,そして食後の感覚を評価するという,多段階のプロセスが存在する.食品は工業製品とは異なり,形状,柔らかさ,粘着性,水分量,壊れやすさが大きく異なる.さらに,同じ食品であっても個体差や調理状態によって物性が変化する.そのため,食品を扱うロボットには,単なる位置決め精度や力制御だけでなく,対象物の変形を許容しながら優しく把持し,必要に応じて形を整え,人にとって美しく安全な状態で提供する高度な身体性が求められる.
 本特集「未来の食とロボットⅡ」では,食品を扱うためのロボットハンド,柔らかい食品の把持・操作,盛り付け作業の自動化,可食ロボット研究,味覚・嗅覚センシングといった観点から,未来の食を支えるロボット技術を展望する.食品把持や盛り付けに関する研究では,崩れやすく不定形な食材を対象とするため,柔軟機構,接触状態の理解,力覚・視覚情報の統合が重要となる.柔らかい食品ハンドの研究は,従来の剛体機械では扱いにくかった食品を,人の手のようにしなやかに操作するための基盤技術である.また,可食ロボットの研究は,ロボットを食環境で用いるだけでなく,ロボットそのものを食品や薬剤,体内で分解可能なデバイスとして捉える新しい領域を切り開いている.
 さらに,味覚センサや嗅覚センサは,食品のおいしさ,品質,熟成,劣化,香りといった人間の感覚にかかわる情報を工学的に扱うために欠かせない技術である.これらのセンシング技術が発展することで,調理や盛り付けの自動化に加え,食の安全性評価,個人の嗜好に合わせた食品提供,さらにはロボットによる食体験の最適化が可能になると期待される.
 本号で紹介する研究は,食品を対象としたロボット技術が,工場内の自動化にとどまらず,家庭,介護,医療,外食,エンターテインメント,さらには身体内部で機能する可食デバイスへと展開し得ることを示している.未来の食卓では,ロボットは単に人の代わりに作業する機械ではなく,人の感覚や健康,楽しさ,社会的つながりを支える存在になるかもしれない.本特集が,食とロボットの融合がもたらす新しい可能性を考える一助となれば幸いである.(伊藤文臣 中央大学)