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日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1975Business〈企業の研究開発〉知能アーク溶接ロボット「ミスターアロス」


土橋 亮(株)日立製作所
古川 隆(株)日立製作所
安藤 司文(株)日立製作所
三宅 徳久(株)日立製作所

この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。

産業用ロボットは1970年頃より急速な普及を見たが,その代表的なものは自動車産業向けのスポット溶接ロボットであり,アーク溶接分野の自動化は遅れていた。アーク溶接作業は連続経路制御が必要であり,経路教示の煩雑さ,作業対象の個別誤差補正の難しさ等がその主な理由であった。これらの問題を解決するため,1975年,当時市場に現れはじめたマイクロコンピュータをいち早く採用するとともに,非接触式距離センサを採用した知能アーク溶接ロボット「ミスターアロス(Mr. AROS:Arc- welding Robot with Sensor) 」を開発,製品化した[1] [3]。

  1. 全体仕様 電気-油圧サーボ駆動による直角座標系の構成で手首には2自由度を持つ。制御装置には,当時の製品としては恐らく世界で初めてマイクロコンピュータを採用している。
  2. センサ アーク溶接特有の熱,光等の影響を受けにくい渦電流式の距離センサを2つ備え,溶接トーチと作業対象物との相対位置を検出可能とした。
  3. 特徴的機能[2]
    ・ 補間,座標変換: 経路上の代表点のみをPTP(Point to Point)方式でティーチング(教示)し,トーチ先端の経路を補間演算して各軸位置を演算制御することでCP(Continuous Path)動作を実現。
    ・ センス機能: 教示位置近傍にトーチを位置決めするだけで,センサにより溶接線位置を自動検出。
    ・ チェック機能: 溶接実行の前に,センサにより代表教示点の位置を自己探索し,教示位置を自動修正。
    ・ コーナー点座標演算: チェック機能を用いて修正した教示点から,直線同士の交点である隅部の位置座標を自動演算。
    ・ ならい制御: センサを用いたオンラインの動作軌道修正制御。

これらの機能により,経路教示の大幅な容易化,ならびに作業対象物の位置,形状誤差等への適応が可能な,知能アーク溶接ロボットを実現した。現在の産業用ロボットでは珍しくない機能であるが,当時としては画期的なものと言え,1975年度の1975年の日刊工業新聞十大新製品賞,日刊工業新聞デザイン賞を受賞した。また本ロボットのシリーズとして,大型構造物溶接向けの門型構造ロボット,圧力容器の枝管等の肉厚円筒同士を自動多層溶接する鞍型溶接ロボット[4]などがある。

写真1 知能アーク溶接ロボットミスターアロス
写真1 知能アーク溶接ロボットミスターアロス