日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1994Business〈企業の研究開発〉可搬式汎用知能アームPA-10の実用化
大西 献 | 三菱重工業(株) |
大西 典子 | 三菱重工業(株) |
下山 公宏 | 三菱重工業(株) |
この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。
1. はじめに
我々三菱重工はユーザとして,ロボットを使った様々なアプリケーションを開発してきました.ロボットを使ったアプリケーションと言うと,自動車ラインに代表されるように,据置型ロボットが黙々とプレイバックを繰り返すイメージですが,弊社の開発するアプリケーションはこれらとは異なります.プラントや造船・土木現場など今までロボットが適用できていなかった分野の自動化が主たる仕事です.自然,ロボットに要求されるメカ的・システム的仕様への要求は,市販の産業用ロボットと異なり,今までは一品一様に専用ロボットを開発してきました.しかし,毎回専用ロボットを作るには非常に多くの労力とコストを要します.そこで,フレキシブルで “つぶしのきく”汎用ロボットを持っておきたいと考え,表に示す仕様の「可搬式汎用知能アーム(以降PA-10)」を開発しました.
2.コンセプトとその効果
PA-10には,(メカ的特徴)と(システム的特徴)の2つの大きなコンセプトがあります.(メカ的特徴)
(1) 市販の産業用ロボットと同等の10kg可搬,約1mリーチを持ちながら,自重を35kgにおさえました.(写真)
(従来当社比 約1/5)→専用ライン据置だけでなく,屋外で,しかも移動しながら使用できるようになりました. (2) オフセットがなく,左右対称の動作範囲を持つシンプルな関節構造とし,通常より1軸多い7軸冗長自由度をもたせました.(動画1)→狭く,障害物がある環境でも作業できるようになりました.
(システム的特徴)(図)
(1) システムを4つの階層に分割し,階層間のI/Fを公開するオープンシステムを採用.
(2) 最上位(第4階層)にAT互換パソコンを採用し,汎用OS(MS-DOS/Windows/Linux)と高級言語(CやBasicなど)で操作やプログラミングが可能.アームの動作は,ライブラリの形で提供します.
→ロボットをパソコンからダイレクトに制御でき,独自のシステムアップが容易となりました.
(3) サーボドライバへ,高速シリアル通信(ARCNET)経由でユーザが直接アクセスするI/Fを解放.
→ロボットの運動制御アルゴリズム研究者などのヘビーユーザにも対応します.
PA-10の実用化に当たって,いろいろ苦労し,知恵をしぼりました. 例えば,ただ単にコントローラをパソコンにしたからといって,解放されたI/Fや情報が,ユーザが簡単に使える形でなければ,ロボットはオープンにはなりません.回路図やソフトウェアリストを公開するのではなく,全く新しい,I/Fが簡単な階層化システムを作り上げる必要がありました.また,システムを階層分けしてユーザに開放する以上,各階層毎にも最小限のインターロックを設ける必要がありました.特にサーボドライバは,関節角度や速度を監視・非常停止できるインテリジェントなものを新規開発しました
.3. おわりに
可搬式汎用知能アームのオープンシステムは,アカデミックさこそ多くはありませんが,コンセプトをいち早く実用化し,ユーザの皆様に多く使用して頂いたことにより,オープンシステムのメリット・デメリット,難しさや問題点等を抽出することができました.現状,システムアップが顕著なロボット研究者の方に数多くご利用いただいていますが,もともとの夢は「脱3K」.ライン以外の製造業や非製造業への適用をねらっています.(動画2)
最後に,2001年度に向け進行中のPA-10最新開発プログラムをご紹介します。
(1)運動制御部を高速化(位置制御ループ10msec(現状)を1msec)し,PCIバスに搭載
(2)サーボドライバを高速化(速度ループ675μsec(現状)を約半分)
(3)運動制御部とサーボドライバ部とのARCNET通信を5Mbps(現状)から10Mbpsに高速化
(4)クリーン度クラス1の実力を生かし,半導体や液晶等の業界へ進出
(5)オープンコントローラを継承した50kg以上の高可搬シリーズ化論文
第4回(1999年度)日本ロボット学会実用化技術賞受賞