日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1970Integration, Intelligence, etc.〈インテグレーション・知能ほか〉不気味の谷
森 政弘 | 東京工業大学 名誉教授 |
この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。
、筆者により発見された「不気味の谷」現象の解説である。1970年当時、外見が非常に生の手に似て、血管の膨らみから指紋に至るまでが本物の手にそっくりの、筋電によって制御される義手(ウイーンハンドと呼ばれていた)が開発された。しかしその義手と握手をすると、骨のないふにゃふにゃした感じと体温のない冷たさで、非常な不気味さを感じた。この現象を人体全体(とくに顔)にまで拡張して気付いたのが「不気味の谷」現象だった。すなわち、ロボットの人間に対する「類似度」を直交座標の横軸に、またそのロボットに人間が接した場合に感じる「親和感」を縦軸に取った場合、座標原点付近では、類似度も親和感もほとんどゼロで、類似度が上がって行くに従い、親和感も増加して行く。しかし、類似度がほとんど人間に近くなった近傍で、親和感は急激に負の領域にまで落ち込んでしまい、人間は気味悪く感じるようになってしまうのである。この親和感曲線が負に落ち込むことを、「不気味の谷」現象と名付けた。「不気味の谷」は「動き」が加わると、さらに深くなるのである。この現象の発見は1970年で、当時は発表するに適した学会誌もなく、エッソ・スタンダード石油社のPR誌energyに載せただけで、何の反響もなく長く眠っていたが、2005年という35年も後になって、欧米で引用され始め、2012年にIEEE ROBOTICS & AUTOMATION 誌, Vol.19, No.2 に掲載されてからは、一躍世界中の、ロボティクスだけでなく心理学・哲学・デザイン・ハリウッドの映画、等の分野からも注目を集めるようになった。