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日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan2009Integration, Intelligence, etc.〈インテグレーション・知能ほか〉スローイング&バッティングロボット


石川 正俊東京大学,千葉大学
並木 明夫東京大学,千葉大学
妹尾 拓東京大学,千葉大学

この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。

従来のロボット研究は,産業用ロボットのようなプレイバックロボットでは特定の繰り返し作業に対して高速動作を実現した例もあるが,ヒューマノイドロボットのようにセンサ情報を用いて適応的にタスクを実行するロボットの場合では,そのほとんどが静的あるいは準静的なフィードバックを用いていた.特に高度な認識・判断をおこなうのに有効な視覚情報に関して,従来の画像処理が30Hzという低速であったため,機械システムの性能を最大限に引き出すことができず,低速な動作しか実現できていなかった.そこで本研究では,要素間のボトルネックを排除してシステム全体の制御ループを1kHzまでに引き上げる超高速ロボットシステムの実現を目指し,スローイング&バッティングロボットを開発した.

特に問題となっていたビジョンに関して,申請者らは以前からアーキテクチャや処理アルゴリズム等の開発をおこない,1kHzの高速ビジョンを実現している.同時に,センサ系だけでなく運動系の改良にも取り組み,軽量高速多指ハンドの開発も独自におこなっている.センサ・処理系・アクチュエータの帯域幅をミリ秒オーダーで統一する設計思想のもと,開発してきた要素を統合して超高速ハンドアームシステムを実現した.実証タスクとして,2台のロボットを用いてボールを投げて打ち返すという連続的な高速動作を実現し,様々な環境変化に対して従来よりもはるかにロバストな高速動作が可能であることを示した.

このロボットシステムは,従来のロボットの動作速度の限界を打ち破る運動性能と人間を超える高速の認識機能を実現したものである.従来のロボットが静止状態に近いものを対象としていたのに対して,動的に変化する対象物に対してもロボットの応用可能性を広げたものであり,特にFA・製造ラインの高速化・高精度化,ロボットの高速視覚制御等への応用が期待される.現状の知能ロボット研究の多くが「人間と同じ動作の実現」を目指しているのに対して,本研究は機械システムの限界に挑む研究であり,人間を超える能力を有するロボットの研究を加速するとともに今後のロボット技術の対象範囲を拡大する可能性を示唆するものである.