日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1981Integration, Intelligence, etc.〈インテグレーション・知能ほか〉作業環境教示システム
長谷川 勉 | 電子技術総合研究所 (現 九州大学大学院システム情報科学研究院) |
この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。
ロボットマニピュレータに対する動作ティーチングとその再生による作業プログラミング手法は広く用いられたが,適用範囲の拡大にともないその使いにくさや限界も明らかになった.高水準ロボット言語はこれらの問題を解決するに提案開発された.メリットがあったが,作業記述をコンパクトにできたとしても,その実行に必要な環境記述が膨大なものとなるという問題が生じる.言語は一次元の逐次記述であり,3次元の空間的広がりを有する作業環境の記述には適さない.
人が,他の人に仕事を教えるときには,作業対象を指さしながら対話を行い,手順や対象を教えるのが自然である.ロボットに作業環境を教える場合にも,人が対象物を指し示しながら教示する方法が自然でかつ有効であると考えられる.そこで,
1) 環境内の物体あるいは位置を指し示しだけでその三次元位置が入力できるレーザポインタ
2) 現実の作業環境と計算機内部につくられた環境モデルの線画とを重ね合わせて表示するスーパインポーズディスプレイ
を考案開発し,これを用いた環境教示システムを開発した.このシステムにより,つぎのようなことが可能になった.
a) 作業環境に人が入る必要がなく,離れた場所から容易に環境モデルを生成できる.
b) 生成された内部モデルを人が理解しやすい線画の形で,対象物と重ねてモニタ上に表示できる.モデル生成の過程と結果を容易に確認できる.
c) 位置や角度などの数値データを人はほとんど取り扱わずにすむ.
モデリングについてはこの研究に引き続き,精度の向上[1][3],自動化比率の向上[2]などの成果を得ている.また内容を拡張して,IEEEに英文投稿して採録されたが,この過程で査読者から「研究内容は興味深いが,現状(当時)のロボット言語では環境記述は作業座標系の空間的配置のみであり,形状まで記述する必要があるのか?」というコメントを得た.このことが,環境幾何形状に基づくロボットマニピュレータの障害物回避に関する一連の研究[4-6]の契機となった.