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日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan2011Integration, Intelligence, etc.〈インテグレーション・知能ほか〉昆虫微小脳を用いた完全自律な脳-機械融合系の実現


髙嶋 淳国立障害者リハビリテーションセンター研究所
峯岸 諒東京工業大学
倉林 大輔東京工業大学
神﨑 亮平東京大学

この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。

本研究では,生物の適応的な行動の発現メカニズムを解明することを目的とし,カイコガのオス成虫の身体を小型の移動ロボットに置き換えたサイボーグシステム,脳-機械融合系を開発した.これにより,空気中に漂う化学物質からその発生源を探る,匂い源探索行動における脳神経活動とその運動の関係を同時に計測することに成功した.

この実験系は,カイコガのもつ主要感覚器は保存した状態で,かつ,従来非常に困難であった移動ロボット上での微弱な神経信号計測を可能とし,さらにリアルタイムに行動指令を修飾できる点が新奇である.

実現のポイントは,第一に実験系に適した生物の選定と生体信号計測経路を確立することであり,第二に外乱に強い高信頼性の超小型生理計測システムを構築することである.本実験系で採用したカイコガオス成虫は,神経信号経路や伝達信号に対する知見が豊富に蓄えられているモデル生物であり,侵襲的な計測を行っても行動が変化しない特徴がある.さらに,我々は蓄積された生理学的知見をもとに,脳で生成された行動指令伝達の複数ある経路の内,主経路である複雑で計測が困難な中枢神経ではなく,計測が比較的容易でかつ,行動指令のS/N比の高い頚運動神経を見出し,そこからの行動指令計測手法を確立した.本研究で開発した超小型の低ノイズ高倍率アンプは,丁寧な回路設計とノイズ対策を施すことにより,十数ミリ角という小ささに加え,80dB以上という超高倍率にも関わらず,安定した神経信号計測ができた.これに加え,振動や電磁ノイズに強いガラス電極を選定し,ロボット本体からの振動が伝わりにくい構造を採用するなど,さまざまな工夫することで,移動ロボット上での安定した神経信号計測を実現した.

本研究の成果である,脳-機械融合系は,行動をリアルタイムに修飾することができるため,匂い源探索中の適応能の数理モデル構築などに貢献している.

2011年 第25回日本ロボット学会学会誌論文賞受賞
2010年 IEEE Robotics and Automation Society Japan Chapter Young Award (2010 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems)
2010年 第16 回創発システム・シンポジウム創発夏の学校最優秀ポスター賞
2009年 計測自動制御学会SI部門賞若手奨励賞
脳-機械融合系
脳-機械融合系