日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1984Manipulation〈マニピュレーション〉マニピュラビリティの研究
吉川 恒夫 | 京都大学大学院工学研究科 |
この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。
ロボットアームの設計や,ロボットアームにある作業をさせる場合の作業空間内での作業位置,姿勢の決定に際しては種々の要素を考慮しなければならないが,そのうちでも重要なものの一つは,アーム先端に取り付けられた手先効果器の位置や姿勢をどの程度自由に操作できるかということであろう.本研究では,このような操作能力を運動学的な観点から定量的に表す指標として可操作性(manipulability, マニピュラビリティ)という概念を提案したものである.具体的には,アームの関節速度ベクトルの大きさが1より小さいという制限のもとに実現し得る手先速度の全てからなる集合を考える.するとこれは楕円体になるのでこれを可操作性楕円体とよび,その体積を可操作度とよぶ.そしてこれらの大きさや形をアームの操作能力の一つの目安として用いることを提案し,その有効性をいくつかの簡単な機構例によって検討したものである.
この概念はその物理的な意味合いが明確であり,数学的にも行列の特異値分解を用いて簡明な形で定式化できる.またロボットアームの特異姿勢とも深い関係が見られる.そのため,この概念は種々の方向に展開され拡張されてきた.たとえば,著者らのグループでは(1)冗長ロボットアームや冗長手首機構の特異点回避制御および軌道計画,(2)動特性を考慮した可操作性の解析(動的可操作性),(3)マスター・スレーブシステムの設計評価指標,などの研究を行ってきた.また,可操作性の概念の一般化や数学的厳密化などに関しても現在まで種々の研究が行われて来ている.