日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan1991Manipulation〈マニピュレーション〉宇宙ロボットの多腕協調制御
吉田 和哉 | 東京工業大学(現東北大学) |
倉爪 亮 | 東京工業大学(現九州大学) |
梅谷 陽二 | 東京工業大学(現豊田工業大学) |
この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。
軌道上フリーフライングロボットにおいてマニピュレータアームを操作すると, その動作反力によってベースの位置・姿勢が変動してしまう[1]。ロボット衛星が, たとえば故障衛星の捕捉などの作業を行う際には,ターゲットを注視しながら 近接ランデブー飛行を維持し,通信アンテナ等の指向性も常に保たなければならず, マニピュレーション中にベースの姿勢を保持することが強く求められる。 このような要求を満たす制御を実現するために,本研究では,以下の点を明らかにした。
- 図1に示すような一つのアームを搭載する宇宙ロボットにおいて,リアクションホイール によってアームの動作反力による姿勢変動を打ち消そうとすると,ホイールに非常に大きな トルクが必要となり,現実のハードウェアでは達成困難である。 動画1
- そこで図2のように第2の腕(スタビライジングアーム)を搭載する宇宙ロボットを 考える。この場合,第2の腕を反動制御用のカウンターバランスをとして使用することに よりホイールの負担を軽減できる。本論文では,冗長性分解制御の考え方に基づき, 全アクチュエータのトルク配分を重み付きで最適化する手法を明らかにした。 動画2 なお,スタビライジングアームは,対象衛星捕獲後には対象物を保持するための アームとして,または,宇宙ステーション等において作業をするときには,自分自身を 保持するアンカーアームとして使用することが可能である。
1997年に,わが国が世界に先駆けて軌道上フリーフライングロボットの技術実証を行った ETS-VII(図3)は図1の形態をとっており,リアクションホイールのトルク容量の 範囲内でマニピュレーションを行うために,アームの動作速度はゆっくりとしたものであり, 姿勢回復のための待ち時間も必要であった。ベースの 姿勢維持性能を向上させるいくつかの取り組みがなされたが,吉田らのグループはアームの 動作軌道を工夫することによりベースへの反動をゼロにする「無反動マニピュレーション」へと 研究を展開し[2],ETS-VIIを使った軌道上実験によりその有効性・実用性を検証した [3][4]。
実用型のフリーフライングロボットでは,これらの成果を反映して,複数の腕を 持ちそれらを協調させた上で,反動を最小化するマニピュレーションを行うことが 望まれる。
1993年 第7回日本ロボット学会論文賞受賞
http://www.astro.mech.tohoku.ac.jp/~yoshida/ETS-VII/