日本のロボット研究の歩みHistory of Robotics Research and Development of Japan2008Sensing〈センシング〉ロボットビジョンのための高速光学系の開発
奥 寛雅 | 群馬大学 |
奥村 光平 | 鈴榮特許綜合事務所 |
石川 正俊 | 東京大学 |
この論文は、ロボット研究開発アーカイブ「日本のロボット研究開発の歩み」掲載論文です。
ミリ秒で応答可能で,かつ画像処理に十分な解像度で画像を結像できる高速液体レンズであるダイナモルフレンズと,同じくミリ秒でロボットビジョンの視線方向を制御でき,かつ高い解像度を実現する光学ユニットであるサッカードミラーを開発した.ここではこれらをまとめて高速光学系と呼んでいる.
ダイナモルフレンズはピエゾアクチュエータにより発生する圧力で液体界面形状を高速に変形させることで動作し,2msの焦点距離ステップ応答が報告されている.一般にカメラレンズのフォーカス,ズームは共に焦点距離の調節で行なっており,ダイナモルフレンズの実現はフォーカスとズームの制御をミリ秒の応答速度で実現可能であることを意味している.
また,サッカードミラーは慣性モーメントの小さな電動の回転鏡2枚でカメラの視線方向を制御する光学ユニットであり,フルハイビジョンの高い画質と40度の視線方向制御を3.5msで行う高速応答とを実現した.瞳転送系とよばれる光学系とを組み合わせることで,小さな鏡でも広い画角と高い解像度の画像の取得を可能にしている
.これらの高速光学系の開発によって,従来は不可能であったフレーム毎の焦点距離・ズーム・視線方向の変更が可能であることが実証され,これまで実時間性に乏しかったためにあまり積極的には研究されてこなかった光学系制御による対象・環境認識手法について研究が発展していくことが期待される.
実際に,以下に挙げる論文では実際にダイナモルフレンズと高速画像処理を組み合わせることで,15.8msの高速オートフォーカス,動的物体へのフォーカストラッキングが報告され[2],またサッカードミラーと高速画像処理とを組み合わせることでラケットにより打撃される球の安定したトラッキングが報告されている[1].またこれ以外にも任意焦点・被写界深度の動画像合成[4]や三次元運動推定[6]等様々な応用へ利用可能であることが報告されている.
2010年 第24回学会誌論文賞受賞
2013年 第27回学会誌論文賞受賞