執筆日 2019年9月13日
執筆者 菅宮友莉奈
2019年9月3日から7日にかけて早稲田大学で開催された日本ロボット学会第37回学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.
今回レポートするのは,学会の2日目午後のオーガナイズドセッション.人と関わりあうロボットのためのSocialware(1/3)です.まず,セッションの前に座長の先生からソーシャルウェアとはなにかというお話がありました.ソーシャルウェアとは,ロボットを社会的な点から考えるというものです.例えば,ロボットが人を避けて移動するときに,「障害“物”の回避」として考えるか「“相手”に不安を与えない回避」として設計するか.後者の社会的な面について強調したセッションです.
09ソーシャルウェアとは
早速1件目をご紹介させていただきます.ATRの塩見先生による「ロボットの視線と体の向きが優先度合の表出に与える影響の検証」でした.ロボットの視線が印象に与える影響を調査されていました.状況としてはロボットに携帯を説明させるのですが,被験者は⼀⼈がVIP もう⼀⼈がお付きの⼈(フォロワー)と役割を与えられています.そのときに,ロボットの視線・体の向きがVIPとお付きの人にどのぐらいの割合で向いているといい感じなのかというものです.結果はVIPに多めで9:1~8:2ぐらいが最も心地よいとのことでした.
続いて2件目は理研の大武先生による「グループ会話支援ロボットBONO-05の開発」です.社会交流が少ない人は認知症を発症する人の割合が8倍との研究があるそうです.そこで,高齢者の方のグループ会話を促進するためにこのロボットを開発しました.グループ会話では参加者の方が持ち寄った写真についてテーマトークするのですが,発話量に差が出てしまうので,そこをロボット(BONOちゃん)でコントロールします.具体的にはあまりしゃべっていない人には「○○さんはいかがですか?」と質問し,よくしゃべっている人には「○○さんありがとうございました.」と話を遮ってしまいます.実際の動画を見ると「え.唐突に遮るんだ.かなり不快なのでは?」と思ってしまいました.
しかし,人間の司会者対BONOちゃんで発話量のコントロールと使い心地を実験により調べたところ,BONOちゃんの優位性が示されました.まず,人では会話をブチっと切れないところBONOちゃんは切れるのでコントロールが優位.そして,ブチッとやられる不快感については「ロボットだし仕方ないなぁアハハ」「俺しゃべりすぎてたなハハハ」という感じのようです.ロボットは遠慮をしないというのは,社会的な視点でロボットを捉えたときに利点ではないかと話題になっていました.
BONOちゃん
続いて,3件目も同じ研究グループの徳永先生による「対話ロボットBONO-06の開発」です.BONOちゃんの設計について詳細にお話しくださいました.要求事項についてスライドを撮影してきたので是非ご覧になってください.個人的には181gという重さに驚きでした.私が使っているスマートフォンが156gなのでほとんど変わらないですね.実は,会場にBONOちゃんが来ていて発表者の机においてあったので,「あの大きさでそんなに軽いのか」と見つめてしまいました.先ほどの写真にあったことに気づかれたでしょうか.スーツケースに入れて運ぶというコンセプトもあるので,大きさ(小さすぎても存在感がない)と重量はこだわっているそうです.
要求事項
最後は筑波大学の田中先生による基調講演で「安心テクノロジー」です.「素朴に私が感じていることをお伝えしたい」という導入から始まりました.「安心」というスライドから始まりました.一番気になっていることが安心だそうです.田中先生は触れることに注目してこれまで開発をしてきていて,「暖かさ」,「柔らかさ」,「表面性状」を自在にできる皮膚を作ってこられました.
「暖かさは一番簡単でこれが体表温度をコントロールしたロボットですね.」と田中先生.さらっと言われてしまい衝撃を受けてしまいました.私の不勉強でしょうか.ロボットの体表温度のコントロールは一般的ですかね.ものすごい技術かと思うのですが.温度コントロールができるロボットThermoodyについては下記の動画を覗いてみてください.
http://fumihide-tanaka.org/lab/research/thermoody.html
続いて,柔らかさについても可変にしちゃったそうです.詳細はSIで発表予定とのことです.さらに,触ると柔らかさが変わるセラピーロボットにも挑戦中とのこと.うーん.田中先生ちょっと常識の外にいらっしゃる気がします.すごすぎる.
最後に田中先生が「私はずっと身体接触がロボットには必要だと思ってきたのですが,間違っていたのでしょうか?今日たくさんの対話の専門の先生たちの話を聞いて,音声のようなインタラクションだっていいじゃないか.と思ってしまったんです.どうなんですか!僕は15年間間違っていたんですか!?ちょっと教えてください」と締めくくられました.その後会場では様々なインタラクションと社会における位置についてディスカッションが始まりました.
最後に,このセッションは参加している方の社会的背景がよくわかるなと思いました.一つ自分をさらけ出さないと意見をいえないような部分があると思いました.技術的な解決の前に「自分の経験上こう感じます」だからこのような方法はどうでしょうか.というような論調です.だから,セッション中に「この方は娘がいるんだな」,「この方は最近加齢を感じているのか」,「この方は本当に多くの高齢者としゃべったのだな」,「この方はタスクをもらうのが好きなんだな」などいろいろ邪推してしまいました.ここの部屋にいろいろな背景を持った方がいて,それぞれの意見が合わさっていく瞬間にいるなと感動しました.
ディスカッション風景
以上で,「人と関わり合うロボットのためのSocialware(1/3)」のセッションレポートを終わります.このほかにも「優しい介護「ユマニチュード」とロボティックス」,「ヒューマン・サポート・ロボティクス(1/2)」,「医療ロボット(1/3)」「医療ロボット(2/3)」のセッションについてもレポートしておりますので,そちらも是非ご覧ください.
【講演プログラム】
2F2_OS6:人と関わりあうロボットのためのSocial-ware (1/3)
2F2-01 ロボットの視線と体の向きが優先度合の表出に与える影響の検証
荒井 ほのか(ATR,同志社大),木本 充彦(ATR,慶應義塾),飯尾 尊優(ATR,筑波大,JSTさきがけ),松村 礼央(ATR,karakuri products),下原 勝憲(同志社大),○塩見 昌裕(ATR)
2F2-02 グループ会話支援ロボットBONO-05の開発
○大武 美保子(理研),徳永 清輝(理研)
2F2-03 対話ロボットBONO-06の開発
○徳永 清輝(理研),大武 美保子(理研)
2F2-04 【基調講演】安心テクノロジー
○田中 文英(筑波大)