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学生編集委員会企画:第41回日本ロボット学会学術講演会レポート(一般セッション:把持・グリッパ(2/2))


1 はじめに

2023年9月11日(月)から14日(木)にかけて仙台国際センターで開催された第41回日本ロボット学会学術講演会のセッションレポートをお届けします.


2 本文

今回レポートするのは,2日目に開催された一般セッション「把持・グリッパ(2/2)」です. このセッションでは合計5件の発表が行われました.

1件目の発表は,富山大学のグループによる「Effect of the position of grasping legs to the performance of walking with grasping for multi-legged robots」[1]です. こちらは,多脚ロボットの把持歩行(一部の脚で物体を把持しながら歩行する動作)に関する研究でした. 把持性能・歩行性能を同時に高める把持脚の選び方を明らかにすべく,複数の脚が環状配置されたロボットを想定してシミュレーションを行ったところ,把持性能・歩行性能がともに高いケースでは把持脚同士が均一な間隔で散らばっている傾向が見られたとのことでした. ここで本研究チームはDispersion(分散度)という指標を導入し,把持脚の散らばりと把持性能・歩行性能との関係を定量的にまとめました. 従来は直感や経験則で判断されていた把持脚選定の良し悪しが,独自の指標の導入によって定量的に明らかになる様は非常に明快であり,大変興味深く発表を拝聴しました.

2件目の発表は,立命館大学と産業技術総合研究所のグループによる「IPMCセンサ内蔵ソフトフィンガを用いた把持物体の大きさ推定」[2]です. こちらは,弁当の食材パッキング作業の自動化を目的とした研究でした. 大きさの不均一な食材をパッキングするためには,その大きさをセンシングして適切な配分や組み合わせを判断する必要があります. そこで本研究チームは,高い感度と応答性を併せ持つIPMC (Ionic Polymer Metal Composite) センサに着目し,これを内蔵したソフトフィンガによって把持物体の大きさを推定する手法(図1)を提案していました. 食品の把持はそれだけでも難しい課題ですが,そのサイズを計測してより効率的なパッキング作業を実現するというのは非常に挑戦的なトピックかと推察します. 今回の実験では把持対象物が変形しないことを前提としたシステムとなっているようでしたが,これを実際の食品に適用した際にどんな課題が表れるのか,それに対してどのような解決策が示されるのか,今後もぜひ注目していければと思います.


図1: IPMCセンサ内蔵ソフトフィンガによる把持対象物の大きさ推定の様子[2]


3件目の発表は,立命館大学のグループによる「折り紙構造を用いた液体掬い取りグリッパ」[3]です. 本発表では,クラゲや稚魚の運搬,味噌汁の盛り付けなど,液体と固体を同時に運搬する作業の自動化を目的としたグリッパ機構(図2)が提案されました. このグリッパの大きな特徴は,折り紙構造を有する六角柱状のシリコーンゴム膜を備えている点です. 対象容器の底にグリッパを押し当てると,膜が折りたたまれて六角柱の底面が閉じられ,液体・固体を同時に掬い取ることができます. レードル等に比べて掬い取り時の水流の発生を最小限に抑えられるため,液中の固体を正確に掬い取れるほか,注ぐ動作も容易であることをメリットとして挙げられていました. 私は液体を掬い取る機構の従来研究についてあまり詳しくありませんが,本機構は非常にシンプルかつ合理的な機構に見受けられ,大変興味深く発表を拝聴しました. 同じ動作を実現するうえで他にはどのような構成が考えられ,それらに比べて折紙構造がどう優れているのか,といった点も興味を惹かれるところであり,今後の展開からも目が離せません.


図2: 折紙構造を有するシリコーンゴム膜を備えた液体掬い取りグリッパ[3]


4件目の発表は,大阪大学と産業技術総合研究所のグループによる「リニアガイドを用いた高荷重2指平行グリッパー」[4]です. こちらは,簡単に入手できる部品を用いて自作が容易な高荷重のグリッパの設計を目的とした研究でした. 高荷重グリッパに一般的に用いられる機構にはリンク機構とウェッジスクリュー機構の2つがありますが,後者は部品間の摩擦の影響を受けやすいため,通常自作が困難とされています. そこで本研究では,リニアガイドを用いることで摩擦の影響を受けにくく自作が容易なウェッジスクリュー機構を提案,それを組み込んだグリッパ(図3)を設計し,静力学解析からリンク機構に対する提案機構の優位性が示されたとのことでした. 今後はここまでに得られた知見をもとに実機製作・実験に取り組まれるとのことで,これからの動向も非常に楽しみな発表でした.


図3: ウェッジスクリュー機構を用いた高荷重グリッパのプロトタイプ[4]


5件目の発表は,芝浦工業大学とJUKI株式会社のグループによる「埃取りブラシ素材を用いた布表面を引っ張る把持ハンドの開発」[5]です. こちらは布のハンドリング,中でも積層された薄い布を1枚ずつ搬送する作業の自動化を目指した研究でした. 薄い布はその変形しやすさゆえ,2指ハンドや吸引,針などを用いた従来手法で1枚ずつ搬送することは容易ではありません. そこで本研究チームは,埃取りブラシ素材を布に押し当てて毛先を引っ掛けた後,布を引っ張ることで把持するハンド(図4)を提案しました. これにより,しわ等の意図しない変形を最小限に抑えつつ,重ねられた布から1枚のみを分離・搬送することを実現しています. 本発表では押し付け力やハンド開き幅と把持成功率との関係についての実験結果が示されましたが,対象とする布の材質や繊維の太さがどのように影響するのかなど,このハンドの特性がこれからさらに明らかになっていくことが期待されます.


図4: 埃取りブラシ素材により布を一枚ずつ把持可能なハンド[5]


3 おわりに

「把持・グリッパ」と一口に言っても,本セッションでは多脚ロボットに関する研究から食品,液体,布を扱うグリッパ,高荷重化を目指したグリッパまで,非常に幅広くかつどれも個性的な内容が発表され,終始楽しく取材させていただきました. 当日に本セッションを聴講できなかった方にも,このレポート記事を通じて各研究の魅力が少しでも伝わりましたら幸いです. 本記事内で書くことのできた内容は各研究のほんの一部のみですので,詳細についてはぜひ予稿をご覧いただければと思います.

以上,「把持・グリッパ(2/2)」のセッションレポートでした. 学生編集委員による他の講演レポートもぜひご覧ください.


参考文献

[1] T. Hayakawa, T. Yasuda: “Effect of the position of grasping legs to the performance of walking with grasping for multi-legged robots”, 日本ロボット学会第41回学術講演会予稿集, 1E2-01, 2023.
[2] 竹林,松野,杉野,堀内,物部,平井: “IPMCセンサ内蔵ソフトフィンガを用いた把持物体の大きさ推定”, 日本ロボット学会第41回学術講演会予稿集, 1E2-02, 2023.
[3] 名手,王,平井: “折り紙構造を用いた液体掬い取りグリッパ”, 日本ロボット学会第41回学術講演会予稿集, 1E2-03, 2023.
[4] 余,万,清川,小山,原田: “リニアガイドを用いた高荷重2指平行グリッパー”, 日本ロボット学会第41回学術講演会予稿集, 1E2-04, 2023.
[5] 北見,吉見,平山: “埃取りブラシ素材を用いた布表面を引っ張る把持ハンドの開発”, 日本ロボット学会第41回学術講演会予稿集, 1E2-05, 2023.


釼持優人(Yuto Kemmotsu)

2023年東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程修了.同年より同研究科博士後期課程および日本学術振興会特別研究員DC1.把持対象の形状に適応するグリッパ機構に関する研究に従事.IEEE,計測自動制御学会学生会員,日本機械学会正員.(日本ロボット学会学生会員)