2021年9月8日から9月11日にかけてオンラインで開催された日本ロボット学会第39回学術講演会のセッション参加レポートをお届けします.
今回,私が担当したのは,9月10日に行われたセッションの一つである「ロボットと優しいマルチモーダル・コミュニケーション(2/2)」です.ロボットやシステムと人が対話していく上で,必要になる人に寄り添うための技術や課題などが紹介されました.まずは,プログラムの概要について述べていきたいと思います.
1件めは,名古屋大学による「マルチモーダルインタラクションが拓くソーシャルウェア[1]」です.Society5.0(仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより社会課題を解決する人間中心の社会)を背景に,e-コーチング(生活の各場面においてコンピューターによるコーチング)がどのように研究されてきたのかを発表者自身の研究事例を踏まえて解説するといったものでした。その中の一つには,高齢者をe-コーチングする事例があり,高齢者に歩行支援ロボットを用いて歩いてもらう上に,信号の認知トレーニングを課し,マルチタスクのモデル研究を行っていました.シングルタスクの場合と比較しても認知・身体能力の向上が見られていました.この事例はe-コーチングでいう技能分析・評価にあたるものでしたが,そのほかにも情動制御,体験共有などのマルチモーダルインタラクションにかかわる研究が紹介されていました。また,それらの研究を通じ,マルチモーダルインタラクションがAIやIoT技術のメリットを向上させるとともに,負の側面や社会的影響のバランスをとるものであると説明されていました.
2件めは,国際電気通信基礎技術研究所(以降,ATR)および奈良女子大学,大阪大学による「自己接触動作に伴う応援発話がもたらすストレス耐性向上効果の検証[2]」です.自己接触により応援してくれる装置により,自己接触の促進とともにストレス耐性の向上がもたらされるのかどうかを検証するというものでした.実験では,ストレスを与えるものとして疑似面接のようなタスクを被験者に課し,疑似面接の前,最中,後の3フェーズにおいて,発話内容をそのフェーズに適したもの(疑似面接の前では「ゆっくりしゃべるといいですよ」など)にするシステムになっており,唾液アミラーゼを通してストレス値の検証を行っていました.
3件めは,ATRおよび北陸先端科学技術大学院大学による「介護施設への赤ちゃん型ロボットの継続的導入に向けた予備的調査[3]」です.認知症やその周辺症状が抱える社会課題に対し,赤ちゃん型ロボットのドールセラピーがどのように働くのかを調査するというものでした.発表では,赤ちゃん型ロボットが飽きられることなく長期利用が可能なのか,認知症の被験者一人だけでも運用できるのかなどの疑問が焦点となっていました.
4件めは,ATRによる「ロボット応用のための他者との関係性や状況に応じた身体接触の調査[4]」です.メンタルヘルスなどを目的に身体接触を行うソーシャルロボット開発のために,他者との関係性,状況に応じて身体接触がどのよう行われるのかを調査するというものでした.実験では,他人に見立てたマネキンに対して,行われる身体接触が計測され,マネキンに触れた被験者の部位や面積について調査がされていました.
これらの中から特に興味を持った「介護施設への赤ちゃん型ロボットの継続的導入に向けた予備的調査[2]」について,詳しくレポートしていきたいと思います.
介護施設への赤ちゃん型ロボットの継続的導入に向けた予備的調査[2]
現在,認知症高齢者の増加は世界的な問題になっています.そして,この認知症は徘徊や鬱などの周辺症状を引き起こすことから,介護者などの負担が増えるなど本人だけにとどまらない大きな社会課題に発展しています.そこで今回,ATRおよび北陸先端科学技術大学院大学らは,これらの周辺症状を改善する一つの切り口である,ドールセラピーが認知症高齢者に,どのように受け入れられるのかの調査を行いました.
図1 実験に扱われた赤ちゃん型ロボットおよび高齢者との関わり[3]
図2 各被験者が示した反応の割合[3]
実験は9人の認知症高齢者に対して行われ,介護スタッフを通じて,図1のような赤ちゃん型ロボットがあやされている際の反応が観察されました.その後,10回以上のインタラクションについて介護スタッフにインタビューが行われ,図2と図3の結果が得られました.図2は被験者の反応がポジティブ,ネガティブ,ニュートラルのどれに該当するか,インタビュー結果をもとに分類されています.ポジティブな反応の数と,それ以外の反応の数が半々といった具合になっています.また、図3では,初回は全員に受けいられているものの,最終回にはポジティブな反応が3割まで低下しています.このように,赤ちゃん型ロボット対する反応は経時的に変化したことがグラフからわかります.発表においてこれらは,赤ちゃん型ロボットが泣くことにより,被験者が次回以降の利用を敬遠するほか,騒音を起こすなど周りに影響を与えることが原因だと推測されていました.今後は,このユーザだけでなく周りに影響を与えるという特徴を活かし,ロボットの行動をうまく設計することでユーザおよび周りのQoLを高めていく研究をなさるようです.
今回の実験では,赤ちゃんの泣くという行為からネガティブな反応がでてしまっていました.しかし,介護者や家族の方と協力して対応できるような行為を設計してあげれば,コミュニケーションも増えて,より認知症の改善につながりそうだなと発表を聞いていて思いました.2025年には高齢者の約5人に1人が認知症患者になることが予測されているようなので,引き続き研究を行っていっていただきたい分野だと個人的に思いました.
図3 導入初回と最終回におけるロボットに対して各反応を示した被験者の割合[3]
以上,「ロボットと優しいマルチモーダル・コミュニケーション(2/2)」のセッションレポートでした.ほかにも様々な最先端の技術を用いた研究が発表されていますので,気になった方は是非ご一読ください.
参考文献
- 間瀬:"マルチモーダルインタラクションが拓くソーシャルウェア",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-01,2021.
- 林,安在,才脇,住岡,塩見:"自己接触動作に伴う応援発話がもたらすストレス耐性向上効果の検証",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-02,2021.
- 住岡,大和,塩見:"介護施設への赤ちゃん型ロボットの継続的導入に向けた予備的調査",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-03,2021.
- 大西,住岡,塩見:"ロボット応用のための他者との関係性や状況に応じた身体接触の調査",日本ロボット学会第39回学術講演会予稿集,2G2-04,2021.
若林諒(RyoWakabayashi)
2021年青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科卒業.現在同大学大学院博士課程前期課程在学中.(日本ロボット学会学生会員)