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RSJ2019学生講演レポート[3I1:産業用ロボット・自動化システム(1/2)]


2019年9月24日(火)

東京大学工学部4年 茶田智来

 

 2019年9月3日(火)から7日(土)にかけて早稲田大学で開催された日本ロボット学会第37回学術講演会のセッションレポートをお届けします.

 

 今回レポートするのは,4日目に行われたセッション「産業用ロボット・自動化システム」です.このセッションは前半・後半の2つに分かれています.ここでは,前半のセッションについてレポートします.

 

 まずは,セッションの内容を簡単に紹介します.

 1件目と2件目の発表は,九州工業大学と(株)デンソーのグループによる「産業用ロボット実演教示システムの構築」と「産業用ロボットの実演教示のための作業者の対象物の捜査情報の認識」です.「教示ブース」において作業者が行った作業を計測・分析し,それを基に「ロボットブース」でロボットの動作を生成し,ロボットハンドによって作業を行う,という流れを実現しています.

 

 3件目は,大阪工業大学の「移動台車上のマニピュレータによる組立作業の行動計画について」です.複数の作業過程の遷移を許容する「状態遷移グラフ」というものを提案し,作業過程の不確実な要素を内包したまま行動計画の多目的最適化を試みた研究です.


 4件目は,奈良先端大による「部品の3次元モデルのみを用いた部品数の多い製品に対する組立順序の最適化」です.組立済みの3D-CADモデルのみで部品の組立順序を生成する方法を提案しています.

 5件目は,芝浦工業大学の「仕上げ作業ロボットへのモデル予測制御の適用に関する基礎検討」です.バリ取りや磨きといった仕上げ作業をするロボットのPID制御のパラメータ調整の手間をモデル予測制御(Model Prediction Control,MPC)によって削減することを試みた研究です.

 6件目は,三菱電機(株)の「Fast Graspability Evaluationの認識パラメータ自動調整手法」です.ばらばらに積まれた部品をつかみ取るロボットの画像認識パラメータを自動調整する手法を提案しています.

最後に,大阪工業大学による「プリンテッド誘電エラストマデバイスとその印刷機構の提案」です.コンパクト・安価で形状を選ばないアクチュエータ「誘電エラストマアクチュエータ」.その製作を自動で行う手法を提案しています.

 

 ここでは,これらの発表の中で,私が特に興味を持った5件目と7件目の発表について,詳しく紹介します.

 

 まずは,5件目の「仕上げ作業ロボットへのモデル予測制御の適用に関する基礎検討」です.

 製造業において,産業用ロボットによる作業の自動化が進められています.しかし,バリ取りや磨きなどの仕上げ作業の自動化はあまり進んでいません.仕上げ作業の肝ともいえるワークに工具を押し付ける力の制御パラメータの調整が難しいからだそうです.この研究では,仕上げ作業ロボットの制御システムに,PID制御ではなくモデル予測制御(以下,MPC)を用いています.MPCとは,未来の応答を逐次予測しながら最適化を行う制御のことです.ロボットが把持した工具をワークに押し付けるモデルとしてバネマス系を作成しています.

 PID制御とMPCの比較を行ったところ,MPCはPID制御以上の性能を発揮し,かつパラメータ調整の手間が少なくなることが確かめられました.

 質疑応答では,切削抗力の影響も考慮すべき,モデルにはダンパも入れた方がいい,などの意見が出ていました.今後この制御方法が進歩し,実用化されることを期待しています.

 

 次に,7件目の「プリンテッド誘電エラストマデバイスとその印刷機構の提案」です.

 誘電エラストマ(Dielectric Elastic Actuator,DEA)とは,誘電体に電圧をかけると大きくひずむ効果(電歪効果)を利用したアクチュエータです.基本的には,誘電体とそれに塗布された電極で構成されています.誘電体の大きなひずみを生み出すには予め誘電体を引き延ばす(プリストレイン)必要があります.しかも,プリストレインはほとんどの場合手作業で行わざるを得ず,DEAを安定に大量に生産するのは困難です.そこで,この研究ではプリストレインの必要がない材料の検討と,DEAを自動で印刷する機構を提案しています.

 

 まず材料の検討です.DEAの誘電エラストマに必要な主な条件は,加工がしやすい,作業効率が高い,応答時間が短い,の3つだそうです.誘電エラストマには大きく分けてアクリル系とシリコーン系の2種類があるそうなのですが,この研究では上記の条件をすべて満たすシリコーンエラストマを選択.次に印刷する機構について.大きな変位を取り出すためにこれを積層することを考え,3Dプリンタを用いてシリコーンエラストマの積層と電極(カーボングリス)の塗布を行うことを提案しています.今後はこの手法を実装していくそうです.この研究がさらに進展し,DEAがより使いやすいものになればいいなと思います.

 

 以上,「産業用ロボット・自動化システム」前半のセッションレポートでした.私はこのほかにも「産業用ロボット・自動化システム」の後半,オーガナイズドセッション「遊びとロボット」の前半と後半,「フレキシブルロボット」,「屋外作業ロボット」もレポートしています.そちらもぜひご覧ください.

 

 

3I1_産業用ロボット・自動化システム(1/2)

3I1-01     産業用ロボットの実演教示システムの構築

○横田 篤紀(九州工業大学),本田 空(九州工業大学),山福 佳(九州工業大学),西田 健(九州工業大学),長田 真太郎((株)デンソー)

3I1-02     産業用ロボットの実演教示のための作業者の対象物の操作情報の認識

○山福 佳(九州工業大学),本田 空(九州工業大学),横田 篤紀(九州工業大学),西田 健(九州工業大学),長田 真太郎((株)デンソー)

3I1-03     移動台車上のマニピュレータによる組み立て作業の行動計画について

○野口 真生(大阪工業大学),野田 哲男(大阪工業大学)

3I1-04     部品の3次元モデルのみを用いた部品数の多い製品に対する組立順序の最適化

○田力 健人(奈良先端大),清川 拓哉(奈良先端大),永谷 智貴(奈良先端大),高松 淳(奈良先端大),小笠原 司(奈良先端大)

3I1-05     仕上げ作業ロボットへのモデル予測制御の適用に関する基礎検討

○村本 智彦(芝浦工大),吉見 卓(芝浦工大)

3I1-06     Fast Graspability Evaluationの認識パラメータ自動調整手法

○浅田 繁伸(三菱電機(株)),西 亮輔(三菱電機(株)),奥田 晴久(三菱電機(株))

3I1-07     プリンテッド誘電エラストマデバイスとその印刷機構の提案

○太田 勝也(大阪工業大学),野田 哲男(大阪工業大学)