ロボット考学研究専門委員会は2017年の4月から始まりました。経緯を簡単に説明すると、ロボットに対する安心を考える安心ロボティクス研究専門委員会(2012.4-2015.3)、ロボットの社会的価値を考えるロボット哲学研究専門委員会(2015.4-2017.3)の成果を受け継ぎ、始まった委員会です。ロボット“考学”というのは、本委員会の名誉委員である森政弘先生のご著書からの引用で、技術が持つ利便性や経済性だけにとらわれず、技術と人間やそれらを取り巻く環境全体に対する基本的な問いを考え続ける、ということを意図しています。メンバーは、ロボット工学、ICT複合領域、心理学、哲学、法学、科学技術社会論、制御工学、医療ロボットなど、多様な分野の先生方で構成されています。
昨年のロボット学会で本委員会がOSを企画した際、事務局長の細田さんから、この委員会の扱う内容については、時間を制限せずにじっくり議論しあえる合宿などをしてみては、とご提案いただきました。それがきっかけで今回の合宿の実施につながりました。これまでの委員会の活動を振り返ると、学会誌での特集号の企画や、本の出版(今日、僕の家にロボットが来た。 未来に安心をもたらすロボット幸学との出会い、北大路書房、2019)などがありました。しかし改めて考えてみると、ロボット共生社会という視点について各専門家がそれぞれに見解を述べているだけで、少し拡散的議論に終わっている感じがありました。
そこでこの合宿では、もっと具体的なひとつの問題をみんなで共有し、各分野の専門性を活かした上で、解決方法を共同で提案するための地盤づくりをすることを目指しました。具体的には、「ロボット・情報技術とプライバシー」というテーマを設け、現状の把握と我々だからこそ取り組める課題を深掘りすることを目的としました。きっかけをいただいた細田さんにもご参加いただき、合計8名で、長良川観光ホテルで1泊二日の合宿を2月のはじめに実施いたしました。
当日の長良川は晴天で景色がとても美しく、研究会をしている場合ではない、という声もありましたが、1日目の午後、夜、2日目の午前にかけて、各先生方からのご発表と議論が極めて真剣に行われました。この合宿のために先生方が非常に熱心に案を練ってくださってきたおかげで、プログラム上では一人1時間としたものの、設定時間を超過する議論が連日続きました。合宿のプログラム概要と先生方のご発表の内容については、以下に掲載させていただきます。
今回の合宿の成果としては、プライバシーに対する分野間の考え方の違いが如実に明らかになりました。法律的には個人情報としての価値が変わらなくても、技術的なデータの保存方法が異なると、ユーザの心理として不安に感じる場合がある、など、多様な議論がありました。プライバシーといっても、その概念的な構成要素は複雑であることも確認ができました。委員会の次のゴールが見えてきた気がしています。今回の合宿で得られた総合的な知見を、来年度の学術講演会での研究発表へつなげたり、次の合宿でさらに議論を発展させるために、今色々と準備をしているところです。
ロボット考学研究専門委員会 第1回合宿
テーマ:プライバシーとロボット技術
日時:2020年2月8日(土)〜9日(日)
場所:長良川観光ホテル会議室
2月8日 土曜日
- 12:00-13:00 会議室にて昼食
- 13:00-14:00 上出寛子「合宿の目的とプライバシー概念」
- 14:00-15:00 小山虎・笠木雅史「ロボット・情報技術とプライバシーに関する哲学的議論の現状」
- 15:00-16:00 新井健生「ロボットがもつプライバシー情報と保護技術」
- 16:00-16:10 休憩
- 16:10-17:10 飯尾尊優「人と会話するロボットとプライバシー」
- 18:30- 夕食,意見交換会
2月9日 日曜日
- 9:00-10:00 坂田信裕「コミュニケーションロボット活用の現状・今後とプライバシーに関する考察」
- 10:00-11:00 小林正啓「プライバシーとロボット技術」
- 11:00-12:00 全体討論
- 解散