執筆日 2019年9月16日
執筆者 菅宮友莉奈
今回のレポートはセッション最終日の9月6日午後に行われた医療ロボット(2/3)です.学会全体の後ろから二つ目のセッションです.なんだか医療ドラマのカンファレンスの雰囲気がします.参加者の方の表情が真剣です!座長の先生方の話を盗み聞きしたところ「ほとんどの発表が穿刺」とのことです.穿刺とは針を刺す医療行為です.なんとなく面白そうだからという理由ではなく,最新の類似研究をチェックしに来ているため,目つきも厳しくなります.
早速セッションで発表された研究を一件ずつご紹介させていただきたいと思います.
1件目は九州大学のグループの中楯先生より「2本の腕とステレオカメラを備えた腹腔鏡手術用ミニチュアハンドロボットの開発」です.究極的に操作が直感的なミニチュアハンドロボットの開発を目指しているそうです.腕の太さがφ11 mmということなのでロボットの腕の太さが人間の指ぐらいの大きさです.手術ではピッキングという「ものをつかむ作業」が必要になってくるので,指先がぴったり合うということを重視して開発されたそうです.制御の方法は,関節角度制御ではなくて指先の位置をセンシングすることによって指先の位置決めの精度を上げるという方式を取り入れているとのことです.角度制御だと,設計値と実際に作ったもののサイズがほんの少しずれただけで指先が合わなくなります.
右手と左手でスポンジを渡すという動作動画を見せていただきました.動画や写真だと大きさの縮尺がわからなくなりがちなのですが,背景がカッティングマット(線が10 mm間隔)になっていて,サイズ感がつかみやすい工夫がされているのだなと感じました.
続きまして2件目は,横浜国立大学と東海大学のグループで,安齋先生による「腹腔内に挿入し手術支援を行う折り畳み式5指ロボットハンドの開発」です.こちらも腹腔鏡手術用ロボットです.このロボットは手のひらを蛇腹方式で畳み腹部へ挿入します.畳むことで手術の傷を小さくしていました.興味深かったのが,つかむ能力(把持力)と精密性の評価実験の際に鶏もも肉を使っていたことです.腹腔鏡手術では人間の内臓にアプローチするので内臓を生肉で模擬しているとのことです.精密性の評価をするときに鶏肉の皮をつまむ動作をしていて,「なぜ鶏肉の皮をつまんだのですか?」と質問が出ていました.答えは,腹腔内の薄膜をつかむという行為が実際にあり,それを模擬したものとのことです.
午前中の医療ロボットセッションでもHALS(はるす)という医療行為についてお伝えしたのですが,こちらでもHALSが登場しました.午前のセッションでもこのセッションでも「HALSは年間何件ぐらいありますか?将来性はどうですか?なぜ5本指ですか?」という質問が出ていました.別のシンポジウムでも同様の質問を聞いたことがあるので,HALSへの感心が日々上がってきているのだなと感じました.
続いて3件目は岡山大学グループの城戸先生による「ロボティックIVRにおけるマニピュレータと周辺環境との接触判定アルゴリズム」です.こちらは穿刺するロボットの外界との接触の判定についてです. IVRというCTに入りながらする方式の手術があるそうです.その際に体の断面を見ながら針を刺すという行為があるのですが,医師がひばく被曝してしまうという問題があるそうです.そこで,ロボットをマスタースレーブ方式でコントロールし,被曝せずに正確な穿刺を行います.しかし,CTの中の撮影スペースが狭いので,ロボットがCTにぶつかってしまうことを避けるために,接触判定を行っていました.
さらに4件目も同グループの亀川先生による「CT透視ガイド下針穿刺ロボットの臨床試験により得られた穿刺力データの解析」です.一つ前でご紹介したロボットを実際に使用した報告でした.実はこのロボットはすでにプレスリリースもされていて,プレスリリースの前の臨床試験などの話,そして実導入したことによって得られた知見を紹介されていました.
穿刺といった人間に傷をつけるような(侵襲がある)機械は実験する時にも倫理審査が厳しいのですが,こちらは,倫理審査も通って臨床試験もしています.当初は2年で10件を行う計画だったそうですが,3ヶ月で10例を達成したそうです!しかもすべての例で成功しました.すごい!実際に1件目の例について穿刺の動画と臨床試験の実施の様子を見せていただきました.その試験後,プレスリリースも行いました.その10例についての裏話をご紹介いただきました.
亀川先生はあまり難しくない症例に対応しようと思っていたのですが,医師の先生が日頃の診察で対応している様々な症状を持つ患者さんでこのロボットを使う!と希望があったようで ,想定外の患者さんや当日になって穿刺位置が変わるなどもあったそうです.現場は臨機応変が求められて大変ですね・・・.臨床試験は医療ロボットの部屋の人たちの憧れであり恐怖のステップです.質疑応答の際にも「リスクマネジメントはどのようにしましたか?」と,先輩臨床経験者に経験談アドバイスを求めていました.「安全性について内部から反発はなかったのですか?」というかなり直球な質問も.「岡山大学病院は手術の件数も多く臨床研究を推進している病院なので結構受け入れてもらえました.」とのことでした.周りの協力は大切ですね.
続いて5~8件目は早稲田大学の岩田研究室による発表です.
まず,5件目は岩田先生による「腹部を対象とした極細針による CTガイド下穿刺支援ロボットIRISの開発」です.ご存じの方も多いかと思いますが,岩田先生はRSJ2019の実行委員長です.9月3日にプレスリリースした内容をご報告いただきました.テレビの取材の動画も入っていて,お忙しい中最新の内容を入れていらっしゃいました.
さて内容です.HITV療法という樹状細胞を使った治療方法があるそうです.中でも樹状細胞を腫瘍内に直接投与することで特に治療効果が上がり,さらに極細針の方が、合併症リスクが下がります.そこで極細針による正確な穿刺のシステム(ロボット穿刺プラットフォーム)IRISを開発したとのことです.極細針は穿刺すると曲がってしまうという問題があるのですが,針を回転・微振動させながら指すとこの針が意外と曲がらないというのがポイントでした.
続いて6件目は津村先生からの「下腹部を対象とした極細針によるCTガイド下穿刺プランニング」です.穿刺する際の針の経路計画についてです.実際にミニブタに対して穿刺を行い,針のたわみの検証を行っていました.7件目は岩田研究室3件目,泉先生による「下腹部穿刺における針径に応じた血液流出量の定量的評価」です.こちらでは針の太さと出血量の関係を評価しておりました.人工血管とポンプを用いて血液循環システムを再現していました.今後はブタの血管など生体を用いた実験を行っていく予定とのことです.
最後の発表は岩田研究室4件目,松本先生による「下腹部を対象としたCTガイド下穿刺制御戦略」です.穿刺による臓器・皮膚の変形予測と境界面の破断検知する手法の構築です.穿刺をしたときに皮膚が破断してしまうことがあるので,それを防ぐために破断を検知するアルゴリズムを構築されていました.
以上で,「医療ロボット(2/3)」のセッションレポートを終わります.この日の午後も医療ロボットのセッションレポートを行っておりますので,是非ご覧ください,さらに,ほかにも「ヒューマン・サポート・ロボティクス(1/2)」「優しい介護「ユマニチュード」とロボティックス」「人と関わり合うロボットのためのSocialware(1/3)」「医療ロボット(1/3)」のセッションについてもレポートしておりますので,そちらも是非ご覧ください.
「1N1_OS17:ヒューマン・サポート・ロボティクス(1/2)」
「1N3_OS10:優しい介護「ユマニチュード」とロボティックス」
「2F2_OS6:人と関わり合うロボットのためのSocialware(1/3)」
3M2_医療ロボット(2/3)
3M2-01 2本の腕とステレオカメラを備えた腹腔鏡手術用ミニチュアハンドロボットの開発
○中楯 龍(九大),大澤 啓介(九大),荒田 純平(九大),大内田 研宙(九大),赤星 朋比古(九大) ,江藤 正俊(九大),橋爪 誠(九大)
3M2-02 腹腔内に挿入し手術支援を行う折り畳み式5指ロボットハンドの開発
○安齋 祐貴(横浜国立大学),相良 雄斗(横浜国立大学),加藤 龍(横浜国立大学),向井 正哉(東海大学)
3M2-03 ロボティックIVRにおけるマニピュレータと周辺環境との接触判定アルゴリズム
○城戸 脩希(岡山大学大学院),松野 隆幸(岡山大学),亀川 哲志(岡山大学),平木 隆夫(岡山大学), 見浪 護(岡山大学)
3M2-04 CT透視ガイド下針穿刺ロボットの臨床試験により得られた穿刺力データの解析
○亀川 哲志(岡大),松野 隆幸(岡大),平木 隆夫(岡大)
3M2-05 腹部を対象とした極細針による CTガイド下穿 刺支援ロボットIRISの開発
○岩田 浩康(早大),津村 遼介(早大),柿間 薫(早大)
3M2-06 下腹部を対象とした極細針によるCTガイド下 穿刺プランニング
○津村 遼介(早大),岩田 浩康(早大)
3M2-07 下腹部穿刺における針径に応じた血液流出量 の定量的評価
○泉 恒輝(早大),津村 遼介(早大),岩田 浩康(早大)
3M2-08 下腹部を対象としたCTガイド下穿刺制御戦略
○松本 隆太郎(早大), 津村 遼介(早大),澤田 将太(早大),岩田 浩康(早大)
関連サイト:ROBO-HALSホームページ