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みのつぶ短信第9回「痛みに窮す」


左上:ワークショップのちらし,右上:厚さ6cmもある痛みの教科書,下:ワークショップの様子

 

 久々のみのつぶ短信,その(9)は「痛みに窮す」である.すでに学会誌の方で,人工痛覚に関する解説[1]を上梓しているが,お堅く言えば痛みに関するワークショップの報告だ.今年の1月20日から22日の3日間開催された.場所は,阪大吹田キャンパス内で,浅田のオフィースから徒歩5分.さて,この阪大吹田キャンパス内に総務省の建物があるのをご存知だろうか?正確には,国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)と大阪大学に属している脳情報通信融合研究センター(Center for Information and Neural Networks),通称,CiNetである.ここでは,脳機能研究をきわめることと,ここで得られる知見を脳科学に基づく新しい技術体系の発展に応用することを目的とした異分野融合研究を先導する研究機関とある[2].そして,浅田自身もPIとして参画しており[3],阪大守田知代特任准教授やCiNETの内藤栄一研究マネージャー[4]らと一緒に研究を進めている.内藤さんはブラジルサッカー選手ネイマールの脳機能を計測したことでも有名である[5].さて,本題に入ろう.CiNETのPIで痛覚研究で知られるBen Seymour博士がおり,彼が三日間の痛覚のワークショップを企画した[6].神経科学者,生理学者主体で,かなり充実したワークショップである.俺にも喋らせろとBenに迫ったが,すでにプログラムパンパンで断られた.聴講だけと想定していたら,空きができたので,喋ってくれと言われて,「Artificial Pain for robots to be social agents」というタイトルで講演した.実は,痛覚の勉強をしていて,いつ頃からヒトは痛覚として知覚するのかを探索していた.正確に表現すると侵害受容というnociceptionと痛覚を意味するpainとは生理学的に異なるのだが,赤ちゃんでいうと,早産児の実験を通じて,通常の触覚と痛覚の識別が受精からおおよそ35-37週で起きることが示されている.もちろん,赤ちゃんがどのように識別可能になっていくのかは,ミステリーの塊だが,脳波を用いた神経科学的実験である.この著者の一人がオックスフォード大学のRebeccah Slater教授で,ぜひとも聴講したかったのだが,彼女がキャンセルでなんとも複雑な心境だ.いずれにしても痛覚は奥深く,「痛いの痛いの飛んでいけ」は世界共通で,それよりも.ボトムアップのシグナルに対してトップダウンの修飾がかかっており,予測準備することで軽減できたり,思い出すことで増強する.物理的痛みから心的な痛みに転換する.これが共感の始まりだが,人工痛覚の設計は,困難を極める.まさに「痛みに窮す」.

日本ロボット学会
会長 浅田 稔

 

[1] 浅田 稔,「再考:人とロボットの自律性」,日本ロボット学会誌,第38巻,1号,pp.7-12,2020.

[2] https://cinet.jp/japanese/research/

[3] https://cinet.jp/japanese/people/20161868/

[4] https://cinet.jp/japanese/people/2014899/

[5] https://eetimes.jp/ee/articles/1409/26/news036.html

[6] https://www2.med.osaka-u.ac.jp/nsurg/yanagisawa/symposium/