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みのつぶ短信第29回「コロナの間隙を縫って,観劇し,感激した!」


ここ2年間、新型コロナウイルスの影響でさまざなイベントが開催できなかったことに加え,激動のウクライナ侵攻,そして参議院選挙戦最中の元総理銃撃と続き,暗いニュースが多い(ロボカップの3年ぶりの開催は明るいニュース:前回の短信「ロボカップ2022の衝撃」[1]参照).新型コロナは,本稿執筆時,第七波のピーク(と信じたい)で,これまでの記録を塗り替える勢いだが,社会はある種の慣れと経済活動との両立から,感覚が衰えているようだ.国連常任理事国としての資質を疑う(完全に資格なし!)ロシアのウクライナ侵攻は,「祖国を守る」という言葉が両側に響き渡る.守るべきは人々であって,国ではない.元総理銃撃事件で,暴力で人を死に至らしめることはあってはならないことだが,その背景にあるもの[2](旧統一教会等)をきちんと見極めなければいけないし,元総理としての評価を時間をかけて、精緻に実施すべきで,安易に英雄化はするべきではない.激動であるがゆえに,流されずに生きる術を実現したいものである.AIやロボットの最新テクノロジーが,激動を加速するのではなく,世界を落ち着かせ,人々のウェルビーイングに貢献できるようにしたい.これが、人工物を設計する研究者としての志向性だ.


さて,本題である.機械ではなく,人間であるが,京都南座で開催されていた坂東玉三郎の特別公演をコロナの間隙を縫って,観劇した.お題目は,東海道四谷怪談と元禄花見踊である.南座は一階から三階までの総数約1000席で,こじんまりとした印象の劇場である(写真1~4).観劇した席は,二階の下手前列で,舞台全体をやや斜め上から眺める格好だ.花道がすぐ真下に見え,なかなかの迫力である.四谷怪談は鶴屋南北の名作で,ご存知の伊右衛門(片岡愛之助)・お岩さん(坂東玉三郎)の日本一有名な怪談である.歌舞伎に関しては,拙書「浅田稔のAI研究道」の中で,学生や若手へのメッセージとして「スーパー歌舞伎は歌舞伎を修めてはじめてスーパーになる!」のコラムの中で,「伝統演劇である歌舞伎の語源は傾きであり,河原乞食の芸人を指すこともあったようだ....」と紹介している[3]が,まさしく今回の観劇の前はスーパー歌舞伎であった.伝統演劇などと畏まる必要などまったくない.ライブの醍醐味を十分堪能した.視覚,聴覚,触覚,嗅覚など個別の感覚ではなく,総体としてそこで繰り広げられるライブパフォーマンスを全身で感じることができた.


坂東玉三郎演じるお岩さんの演技(衣装,化粧,動作,音声)は女形として珠玉の芸術作品であり,一時間半の公演が一瞬に感じられた.手指,肩,脚,足などパーツの動きもさることながら,全身の立ち振舞は,妖艶でお岩さんを中心とする楕円球の3次元空間の密度が周辺に波打っている感じで,圧巻である.後半の踊りでも,抜きにでており,迫力あるお囃子のライブ演奏とあいまって,美しく,気高く,心に響いた.


坂東玉三郎のブログの「私の考え:演技」のページ[4]では,以下のように述べている.

「演技をする、つまり感情をリメイクしていくというためには、「感受」、「浸透」、「反応」の3つの過程が必要だということになります。ところが、「反応」だけが演技だと思ってる人が時々います。 例えば、役者が下手な芝居をしたとします。そして、いかにもとってつけたような演技を見せられているな、と感じるような時は、きっとその人は「反応」だけしかできていないのだと思います。 」


ロボットの設計に通じるものがある.表層的に人の行動を模写しても,人には写らない.まさしく,感覚で受け止め(感受),身体で咀嚼し(浸透),行動表出(反応)することが肝要だ.また,「私の考え:女形」のページ[5]では,

女形とは、男が女を描写して生まれる作品 

女ではない者が、女を醸し出すニュアンス

女形は細かい要素の積み上げ

「女より女らしい」という錯覚を生ませる

大切なのは、「女」をどこまで心情的にも感じ取ることができているか


ここで,「女形」をロボット,「女」を人間,「男」をロボット設計者と読み替えて見よう.

ロボットとは、設計者が人間を描写して生まれる作品 

人間ではない者が、人間を醸し出すニュアンス

ロボットは細かい要素の積み上げ

「人間より人間らしい」という錯覚を生ませる

大切なのは、「人間」をどこまで心情的にも感じ取ることができているか


いずれもポイントをついているではないか?人工物を設計する研究者としての志向性として,心に留めておきたい.

 

写真1

 

左:写真2 右:写真3

 

写真4(南座の写真)

 


[1] みのつぶ短信28回「ロボカップ2022の衝撃」(https://robogaku.jp/news/2022/pblog028.html

[2] 『教団票「10万票」は切らない』,朝日新聞8月7日大阪版 1~2面,

[3] 「浅田稔のAI研究道」近代科学社,2020.ページ90~91.

[4] https://www.tamasaburo-bando.com/acting

[5] https://www.tamasaburo-bando.com/onnagata

 

浅田稔

元会長,現在,大阪国際工科専門職大学 副学長,及び大阪大学先導的学際研究機構 共生知能システム研究センター特任教授